ニュー・デイズ・ムーブ #4
◇テキスト◇ これまでのおはなし:ニュー・デイズ・ムーブ タグ:#siro_nj #1 http://t.co/0amRIxFIIO #2 http://t.co/mA5lPkbjgS #3 http://t.co/Uhouo4py5k ◇最終話◇
2014-02-16 10:24:50無数のケーブルにアーケードめいて覆われた通りを彼らはビルや電柱を飛び移って移動する。普通に道を歩けばくだらぬ喧嘩に巻き込まれるからだ。先頭を行くアナイアレイターのニンジャ聴力は微かな女の呻き声を拾った。それが彼女の最期の声であることにも気づいていたが、彼は何も言わなかった。 2
2014-02-16 10:27:35「嫌な感じだぜ」スーサイドが言った。彼もその女の声を聞き、最早助けられないだろうことを悟っていた。「ここじゃ、チャメシ・インシデントだ」フィルギアはスーサイドを振り返らず言った。「じきに慣れるさ」「……」殿のルイナーは何かを言いかけたが、口を噤んだ。 3
2014-02-16 10:30:59やがて彼らはあるビルの屋上に着地した。この通りには開発計画から置き去りにされたビルが無数にある。そのうちの一つだ。「ここが第一候補だ」フィルギアが三人を見て言った。「無人だが、電気も水道も生きてる。更に幸いなことに入り口がぶっ壊れてて誰も出入りできない。穴場だぜ……」 4
2014-02-16 10:36:10「中はどうなってる」「何にも無いぜ。扉も窓もねェ。内装をどうにかする前に計画が中止になったんだろうな……ただ1つ問題がある」「何だ」「壁が厚すぎて無線LAN圏外だ」ルイナーが肩を竦めた。「今時そんな建物があるのか」「あるんだから仕方ねェな」 5
2014-02-16 10:40:57……その後彼らはいくつもの建物を周り、結局廃スシ工場へと落ち着きかけた。しかし週一で集会を行っているヨタモノの集団と鉢合わせてしまい、結局諦めることとなった。(彼らはニンジャであり、その気になればヨタモノなど軽く蹴散らすことができるが、そうはしなかった。) 6
2014-02-16 10:44:21「後から来ておいて簒奪するんじゃソウカイヤの連中となンも変わンねぇ」「正解だぜ」フィルギアが言った。「ああいう奴らのバックにはヤクザや……ニンジャがついてるんだ。ウカツに事を荒げて見つかっちまったら大変だ……ヒヒヒ」「それでどうする。またあのアパートに戻るのか?」 7
2014-02-16 10:48:38「エンガワ・ストリートは治安は悪いがマッポもうるさくねェし、俺達が隠れ住むには快適だと思ったんだけどな……他当たってみるか」「待てよ」アナイアレイターが口を開いた。「もう面倒くせぇし、最初のところでいいんじゃねぇか」「あのIRC断絶ビル?」「それ以外に不都合なかっただろ」 8
2014-02-16 10:52:19「確かにそうだけどな」「将来的にソウカイヤと殴り合うなら、情報収集のためにもIRCは必須だぜ。あちこち潜入して偵察ってのも限度がある」「中がダメなら外に住めばいいだろ」「は?」「屋上でいいじゃねェか。結構広かったろ、あそこも」 9
2014-02-16 10:55:49一同は顔を見合わせ……最初にルイナーが片手を上げた。「俺はそれで構わない。野宿は慣れてる」続いてフィルギアが手を上げる。「右に同じだ……個人的には空から直接出入りできるのはラクだしな……ヒヒ」アナイアレイターはスーサイドを見た。多数決で決めるつもりは無いようだ。 10
2014-02-16 10:59:10スーサイドは迷い、空を見た。曇天すら遮るケーブルの屋根。このマッポーの地で金を持たぬヨタモノや浮浪者が生きていけるのもあれが雨を凌いでくれるからだ。全てを防いでくれるわけではないが……。「……」再び視線を戻し、スーサイドは右手を上げた。「……一応、雨避けは用意しようぜ」 11
2014-02-16 11:02:50とはいえ彼らには荷物と言えるようなものはなかった。パイプ椅子も壊れたチャブも食糧庫代わりに使っていた箱も、全部置いてきた。近くで拾ってきた大き目のビニルシートをテントめいて張ったところで四人は顔を見合わせた。何も無い。「サップーケイ過ぎるな」「同意だ」 13
2014-02-16 13:27:00「なンか持ってくるか。適当に」「そうだな」「じゃ、1時間後にまたここだ。いいか、トラブルだけは起こしてくれるなよ……頼むぜ?」「当たり前だろ」「お前が一番心配なんだよ、アナイアレイター=サン」ルイナーの苦言に、アナイアレイターは言葉を詰まらせた。 14
2014-02-16 13:30:22二人は西と東に別れて屋上から跳び、あっという間にビルの陰に隠れて見えなくなった。「スーサイド=サン?行かないのか?」「……いや、行く」「……ヒヒヒ、こういうのは慣れないか?」フクロウとなって飛び立とうとしていたフィルギアは一度人の姿に戻り、スーサイドの前に立った。 15
2014-02-16 13:34:45「それは……」「スーサイド=サン、キレーな肌してるよな」突然話題を変えられ、スーサイドは面食らった。フィルギアが喉を鳴らして笑う。「白いし、傷らしい傷もねェ。運動とか全くしてなかっただろ。ニンジャになる前は喧嘩もしたことなかったンじゃないか?図星だ」 16
2014-02-16 13:37:33スーサイドは無言だった。実際それは当たっており、その沈黙が返答となった。かつての彼は進学校に通うごく普通の学生であったが、趣味らしい趣味も、友人らしい友人ももっていなかった。借金だけ残して家族が姿を消した時、彼は生きる意味も縋るべきよすがも失ってしまった。 17
2014-02-16 13:42:26今いるこの場所は、ニンジャというものは、彼のそれまでの価値観を根本から覆すものだった。内にあるソウルはディセンションのあの日以来何も語りかけてこない。頼れるものは己のみ、しかもその己が立っているのは周囲を闇に囲まれた脆い足場だ。そのほんの数歩先に、彼を仲間と呼ぶ者達がいる。 18
2014-02-16 13:45:54彼らのところまで道が続いている筈と信じて闇の中に足を踏み出し、前に進む。それは簡単なことのようで、とても勇気の要ることだ。ゆえにスーサイドは、本当の意味ではまだ孤独の中にあった。 19
2014-02-16 13:50:47「ゆっくりやりゃあ、いい」フィルギアは言った。「俺らは皆はぐれ者だ。あの二人はモータル時代に面識があったらしいが、長年の知己ってワケでもないらしい」「……」「俺達はネンコめいた上下関係もないし、ルールのうるさい組織でもない。対等だ。だから、やりたいようにやりゃいいのさ」 20
2014-02-16 13:55:02フィルギアはスーサイドの胸を拳で軽く叩いた。「その上で合わなかったら抜けりゃいい。お前の自由だ」そして背を向けると同時にフクロウに姿を変え、北の空へと羽ばたいていく。スーサイドはそれを見送り「……自由か」自らの拳を見下ろしながら、呟いた。 21
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