笠井潔氏が語るファシズムと安倍政権 ― 都知事選の結果を受けて

まとめました。
政治 笠井潔 ファシズム
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2月14日のツイート
笠井潔 @kiyoshikasai
一昨年の尖閣危機前後に、政治的な分析をかなりの回数ツイートした。その後の総選挙、安倍内閣の成立、参院選、秘密保護法などの流れは、一昨年に予見したことの延長上だったが、今回の都知事選は少し違う。これについて、感想を少しまとめてみたい。
笠井潔 @kiyoshikasai
主要候補の得票は、舛添211万、宇都宮98万、細川95万で、大雑把に2:1:1だった。 61万票の田母神は、0・6ということになる。原発の是非に則して分類すると、再稼働賛成派が272万、即時廃止派が193万票。しかし今回の都知事選では、原発問題が最大争点だったとはいえない。
笠井潔 @kiyoshikasai
かといって、総合的な政策の評価で票が分かれたともいえない。むしろ各候補の政治的・思想的スタンスに則して、票は配分されたようだ。とりあえず分類してみれば、保守主流は舛添、保守リベラルは細川、左翼は宇都宮、右翼は田母上という具合である。この比率が大雑把に、2:1:1:0・6になる。
笠井潔 @kiyoshikasai
仮に「保守主流」としたが、現状維持を基本線として福祉や生活環境の相対的な行政的改善を求める秩序派である。戦後日本の「平和と繁栄」の受益層で、いまだに「昨日のように暮らしていきたい」と望んでいる層が今日でも最大勢力だとしても、しかし、すでに半分を割っているのも事実だ。
笠井潔 @kiyoshikasai
宇都宮と田母上に流れた票は、掲げる方向性こそ対極的だが、「平和と繁栄」の戦後社会が内的に崩壊したことを示している。細川票の場合は、脱原発という点で戦後的な繁栄からの決別を意図するが、その秩序の枠組みは「保守」したいという二面性が窺われる。
笠井潔 @kiyoshikasai
ところで田母上を支持した勢力は、伝統的な自民党極右派(旧青嵐会的・慎太郎的)支持者と、ネトウヨ的な新排外主義が二本柱である。自民党極右派は自民党タカ派を母体としていたし、この勢力は1950年代後半の岸派、それ以降は清和会として存続してきた。現在は安倍晋三に代表される。
笠井潔 @kiyoshikasai
「行動する保守」を標榜する新排外主義勢力は都知事選候補者の田母上に、田母上は石原慎太郎や百田尚樹に、百田は安倍晋三に繋がる。いうまでもなく安倍は自公政権の首相であり、日本の行政権力の頂点に位置する人物だ。しかし自公が推したのは舛添で、ここにはネジレがある。
笠井潔 @kiyoshikasai
他方、宇都宮候補の場合も戦後左翼の共産党・社民党と、新世代の反貧困運動や反原発運動と、支持層には2本の柱があった。ほんとうの意味で21世紀的なのは、「行動する保守」の新排外主義と、ここ数年のあいだに形成されてきた反貧困・反原発・反排外主義の新興勢力である。
笠井潔 @kiyoshikasai
反排外主義の新興勢力のあいだでは、とりわけ秘密保護法反対闘争以降、安部政権をファシズムと規定する意見が少なくないようだ。一昨年の首相官邸前(反原発)から、昨年は新大久保(反ヘイト・反レイシズム)に大衆闘争の焦点的な現場は移動した。
笠井潔 @kiyoshikasai
新大久保の排外主義デモに対抗したレイシストしばき隊(現CRAC)は、自身をヨーロッパのアンティファ運動に重ねあわせている。ヨーロッパでは、アンティファ(シズム)の敵はネオナチだから、この反ファシズムに定義上の問題はない。事実そのままである。
笠井潔 @kiyoshikasai
しばき隊をはじめとするカウンター勢力が街頭で対峙した排外主義デモには、ヒトラーやナチズムを肯定する人物が多数参加しているが、称「行動する保守」を21世紀日本のファシズム運動と定義できるだろうか。
笠井潔 @kiyoshikasai
先に述べたように排外主義デモが、田母上を象徴的な中間項として安倍政権まで連続しているとしても、この政権をファシズムと規定できるだろうか。アンティファ運動の「敵」という意味を込め、厳密性を要求しない大衆的スローガンとして「安倍=ファシスト」を用いるのなら、それでもかまわないが。
笠井潔 @kiyoshikasai
「安倍=ファシスト」論にこだわるのは、日本の戦後左翼による「オオカミが来る!」式の安易な大衆煽動、危機感の煽りたてを反復しても意味がないと考えるからだ。「××は戦争とファシズム(軍国主義)への道だ」という決まり文句で、1960年代まで社共は大衆を動員してきた。
笠井潔 @kiyoshikasai
「××は……」の××には、破防法でも警職法でも、安保改定でも日韓条約でも、ありとあらゆる「反動攻勢」が代入できた。戦後日本人の戦争嫌悪、戦中の抑圧体制嫌悪を呼び起こせばなんとかなるという安直さでは、戦後の「平和と繁栄」を批判する運動にはなりえない。
笠井潔 @kiyoshikasai
また、この種の戦後左翼の大衆動員法は、戦争体験世代が減少するにつれて必然的に有効性を失ってきた。宇都宮支持派の二本柱のうち、戦後左翼の政党勢力はともかく、新世代の大衆運動派は第二次大戦の記憶をもたない。
笠井潔 @kiyoshikasai
「オオカミが来る!」式の戦後左翼の大衆煽動とは無縁の場所で、「安倍=ファシスト」という規定が自然発生的になされてきた以上、そのことの意味が問われなければならない。
笠井潔 @kiyoshikasai
ァシズムには狭義と広義と、二つの意味がある。狭義はムソリーニを首領とするタリアのファシズム広義は、ドイツのナチズムやスペインのフランコ派などを含めた1930年代の反共・反民主主義の政治勢力。スペイン戦争でも共和国派はフランコ軍やイタリア、ドイツをファシストと一括していた。
笠井潔 @kiyoshikasai
広義のファシズム概念が流布したのには、ソ連の影響が大きい。もっとも反動化した帝国主義の政治的上部構造として、コミンテルンはイタリアやドイツの政治体制をファシズムに括った。広義ファシズム概念の、もうひとつの発信源はアメリカだった。
笠井潔 @kiyoshikasai
第二次大戦を民主主義(連合国)とファシズム(枢軸国)の対決として捉えたのが、アメリカだ。この観点からは、連合国の一翼だったソ連が反民主主義の収容所国家である事実も、英米と独日の対立が帝国主義間対立だった事実も抜け落ちている。
笠井潔 @kiyoshikasai
ソ連側のファシズム論はいろいろあるが、アメリカ側のそれは第二次大戦後にハンナ・アレントが『全体主義の起源』を発表するまで、理論的には乏しいものだった。ただしアレントの論は、ナチズムとボリシェヴィズムを「二つの全体主義」として論じたもので、大戦中の連合国vs枢軸国の図式とは異なる。
笠井潔 @kiyoshikasai
ミンテルンも日本共産党も、日本の政治構造をファシズムとは規定しなかった。天皇制は半封建的な君主制であり、日本は軍事的・封建的帝国主義国家だと考えられていた。日本共産党は、今日にいたるまで戦中日本をファシズム国家とは認定していない。中国共産党は日本軍国主義の語を用いる。
笠井潔 @kiyoshikasai
第二次大戦後の日本で影響力を発揮したのは、丸山眞男の天皇制ファシズム論だが、丸山の論にはソ連サイドアメリカサイドファシズム観の双方が入っている。枢軸三国の一角を占めた日本の政治権力を、イタリアやドイツのそれと基本的に変わらないファシズムと規定できるだろうか。
笠井潔 @kiyoshikasai
ナチズムとボリシェヴィズムはともに、自身が「運動」であることに強烈な自負を抱いていた。この事実に註目したのはアレントだが、ファシズムは政治権力や国家体制に還元できない。あくまでも「運動」が、旧体制を打倒して権力を奪取したのである。この点でファシズム運動もまた革命運動に他ならない。
笠井潔 @kiyoshikasai
権力奪取と上からの社会改造をめざす左翼革命運動がボリシェヴィズムだとすれば、ファシズムは右翼革命運動である。ボリシェヴィキ党は帝政ロシアの国家と社会を廃墟に変えて一党独裁の新国家、新社会を建設しようとした。同様にナチ党はワイマール国家と社会をずたずたにした。
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コメント

子ぬこ @konukopet 2014年2月18日
笠井さんってこういうツイートしてたのかぁ…
M2 @M2_sado 2014年2月18日
物書きなら、人の名前を間違えるなよ・・・(´・ω・`)
SingleCarb@六四天安門事件~31年 @SingleCarb 2014年2月18日
一流大学の講義のような内容を聞きながら夢の中・・・的な 北海道の人?のツイートで「羽生選手こそ大和民族の美しさ」「高橋や鈴木は東南アジア」って本当に言ってて呆れた。■フィギュアスケートの審査基準が「規定された美しさのみ」なら、欧州旧来の「ドックショー・キャットショー」と大差無いって見方もある。で、日本だけでなく、中韓は当然除き、多分多神教の多くの国にはそういう強引な美的基準は数千年もの間、存在しない。「理屈の積み重ね」が未だに「そういう自然環境」とリンクしていないのは恥ずかしい事だと思う。
dadame @daeme 2014年2月18日
「軍靴の足音」よりも恐れるべきは「高卒の怒号」だった。国家の軍事化ではなく隣人の衆愚化。
ラクメキアそーさい/新井博之助 @sousai_h 2014年2月18日
daeme 談志師曰くの「隣の火事より怖い」というヤツですか
無道入人 (Day-Bee-Toe) @DayBeeToe 2014年2月18日
過去のことを正確に把握し整理して説明できる人が同時代の認識が得てして残念だったりするという好例。現在の分析において過去は単なる類推として用いられているのみで、要約すれば「安倍は危険だ、なぜなら安倍は戦争大好きの極右のキチガイだからだ」という、ほぼトートロジーである。
清水代歩 @kaho_biz 2014年2月19日
中村幹雄著『ナチ党の思想と運動』によれば「ナチス左派」というのは、そういう傾向の集団を形成していたのはシュトラッサー弟ぐらいで、これに更にシュトラッサー兄や一時期のゲッベルスを加えた強力な派があったような話はシュトラッサー弟系の人が広めた一種の伝承であったらしいです。シュトラッサー兄とヒトラーの違いはせいぜい後者が政治的な迂回戦術をも重視する程度であって思想的には然程の相違はなかったと。
清水代歩 @kaho_biz 2014年2月19日
むしろナチスは政権獲得後にも(たぶん笠井さんが思っているよりはるかに強烈に)社会主義(反資本主義)を指向していたことは別のまとめ(http://togetter.com/li/629694)のコメント欄にも書きましたし、「権威」に「二世」が入っているというのは、『わが闘争』の戦前の日本語訳が君主制批判の箇所を削除していた影響が未だに残っているかのようです。
清水代歩 @kaho_biz 2014年2月19日
とはいえナチスの社会主義というのは一次大戦のような大戦争に勝ち抜くための方策としての側面が強い(←ここが社会ダーウィン主義的である)のであって、その辺をしっかり説明せずに(ナチス自身がどういう意味・意図で社会主義という語を使っていたのかの検討を抜きに)ボリシェヴィズムと同列に語るのもどうかと。
rassistisch banane @racist_banana 2014年2月19日
目からウロコ!これはクオリティが高い。参考になる。
死んだ @shinda25554813 2014年2月20日
まとめを更新しました。
清水代歩 @kaho_biz 2014年2月20日
ナチズムの「社会主義」に関してはむしろ近代資本主義以前の中世的な調和のとれた社会を理想視する保守革命とかその辺の影響が強い(から古ゲルマン的土地制度や中世のツンフトを称揚した)と思うんですけどね。「超近代」なのは優勝劣敗的人種主義の方であって。
清水代歩 @kaho_biz 2014年2月20日
まぁナチス自身が「社会主義」とか「労働者」とかいう言葉の意味を(おそらく意図的に)厳密に定義せずにいたことがこういう混乱に繋がってるんですけれども。
清水代歩 @kaho_biz 2014年2月20日
それと南利明「民族共同体と指導者-憲法体制」によればナチスはナチスで新たな憲法体制の構築を目指していたんですけれどもこれは国家ではなく民族の代表としての指導者を中心に据えたものであって、指導者とは国家とは無関係に国家を超えたところの民族に根拠を置く(民族の最も優れた血から生まれた者としての)ものとされていたそうです。これはもう「ワイマール国家の欄外の空白」とか「憲法が停止される例外状態の永続化」なんてレベルの話じゃないですね。
ポポイ @popoi 2014年2月23日
>日本にファシズム革命は存在しなかった。 #笠井潔 @kiyoshikasaiさんの書かれた事を読んでると、幕末の倒幕運動・明治維新自体が、ファシズム・ナチズムの先駆じゃないかと思ったです。江戸時代までの「伝統的な日本」を「超克」する為の。
清水代歩 @kaho_biz 2014年2月23日
WW2のドイツ占領下のパリでドイツ軍に協力していたマルセル・デアが「ナチスはフランス革命時のジャコバン派の直系の子孫である」と論じていたのを思い出しました。そういう強引な関連づけはいくらでも出来るんですよ。ちなみにヴィシー政府は王党派アクション・フランセーズの思想を汲んでいてデアとは対立関係にありました。
清水代歩 @kaho_biz 2014年2月23日
ナチズムは近代と前近代の混淆。私も人種主義を指して「超近代」という言葉を使いましたが、まぁ19世紀〜20世紀前半に流行ったエセ科学ですね。イェッケルだったかがヒトラーを「19世紀の科学の子」と呼んでました。レンツォ・デ・フェリーチェ『ファシズムを語る』はイタリア・ファシズムが文明に新たな局面を切り開く新たな人間類型の創造を目指すのに対してナチスは反近代的に古来のアーリア人の解放を目指すとするが、私はナチズムの近代色も無視出来ないと思う。
言葉使い @tennteke 2017年4月16日
この舛添都政を崩壊させたのが衆愚だと思うと、ファシズムにどれだけ力があるんだか、こういう人が言えば言うほど疑問に思えてくるな。
言葉使い @tennteke 2017年4月16日
なんか、舛添・猪瀬都政とはなんだったのかが話題にならないことと、こういう人がパヨクを論じない事って、コインの裏表の関係に思えてきた。生前の中島梓が「文壇の評論で赤川次郎論や西村寿光論が無いのは何故だ?」と書いていて、今ではあるのかもしれないけど、まぁそのときには無かった理由に通じていそうな感じ。
言葉使い @tennteke 2017年4月16日
作家で政治を語る人と言えば田中芳樹氏と島田荘司氏が有名だけど、両者とも書かれた当時は面白く読んでも時間が経って読み直してみるとツッコミどころ満載だと気がつくわけだ。さて笠井潔氏は。
Thomasunculus @thomasunculus 2017年4月16日
というか左派のひとたちは安倍さんになにを見ているのかがよく分からない。僕から見たら「歴代総理のなかでもかなり普通のおじさん」なんだけど。
Thomasunculus @thomasunculus 2017年4月16日
例えばその普通さから、「思考が大衆のアイデアとあまり変わらない」という批判は出てくるかもしれなけど、それは「ファシズムというのは結局多数派のアイデアの肥大化なのだ」ということでしかなく、安倍がどうこう言ってるのはおかしいと思います。
Thomasunculus @thomasunculus 2017年4月16日
そもそもファシズムを難しく考えすぎなんじゃないかなあ。そんな深い思想じゃないんだけど。
tarutarusosu @taru3000 2018年5月10日
popoi まずファシズム・ナチズムの定義をググってから発言してくれ tennteke このまとめの笠井潔のツイート自体ツッコミどころ満載なんだが thomasunculus >ファシズムというのは結局多数派のアイデアの肥大化なのだ←何を言ってるのか判らん
ポポイ @p0poi 2018年5月13日
#安倍晋三 の事を<普通のおじさん>と言ってる人が居るが。政権の嘘など珍しくもないが,あそこまで厚顔に居直ってるのは,稀。悪い意味で凡人に非ず。
ポポイ @p0poi 2018年5月13日
taru3000 明治維新の結果として生じた大日本帝国は,ファシズム・ナチズムの国々の同盟者だった訳でね。
未知神明(みちがみ・あきら) @ontheroadx 2018年5月13日
笠井潔って、あの黒木龍思がミステリー作家に? って左翼業界(業界じゃないとは思うけど)の人たちがびっくりしたぐらい真っ赤っ赤な人なんですが…。
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