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笠井潔 @kiyoshikasai
さて、一昨日の「ファシズム」ツイートの続き。20世紀前半、第一次大戦後に台頭した広義ファシズムの特質は二つある。第一は、社会主義インターナショナル(第二インター)に体現された19世紀社会主義の廃墟から登場した、20世紀的な社会主義運動・革命運動だった点
笠井潔 @kiyoshikasai
第二は、イギリス基軸の19世紀的世界に挑戦する、後発帝国主義の世界戦争国家としての体制。前者は国内体制の変革をめぐる、運動としてのファシズム。後者は国際体制の変革をめぐる、国家としてのファシズムとも整理できる。
笠井潔 @kiyoshikasai
たとえばナチズムの場合、「社会主義」の極はシュトラッサー派(ナチス左派)に、「革命」の極はレーム派と突撃隊に体現されていた。この両派を切り捨てることで、ナチ党は国家に安定的に転化しえた。似たような事情は、ファシズムが参照したボリシェヴィズムにも認められる。
笠井潔 @kiyoshikasai
20世紀化された社会主義の二大勢力だったボリシェヴィズムとファシズムには、もちろん相違点もある。たとえば、国際共産主義か国民社会主義か。あるいはナショナリズムと保守主義の是非。簡単にいうと、革命と社会主義にナショナリズムと保守主義を混ぜあわせるとファシズムになる。
笠井潔 @kiyoshikasai
ファシズムの保守主義はバーク的なそれではなく、反近代的な神話性を称揚する類のもので、たとえばフランスではアクシオン・フランセーズの王党主義としてあらわれたりした。ファシズムの保守主義は、人権と自由、立憲主義と民主主義、反身分制的な平等主義、その他もろもろの近代的価値を否定する
笠井潔 @kiyoshikasai
市民革命によって成立した近代社会と議会制民主主義に対置されるのは、ボリシェヴィズムの階級闘争主義に対置されたコーポラティズム、そして最高指導者による独裁制である。
笠井潔 @kiyoshikasai
国家テロによる反対派の殲滅や警察国家化が、かつてのチリやアルゼンチンや韓国の軍事政権による国内支配体制に似ているとしても、これらとファシズム国家を権威主義的体制という点で同一視することはできない。あくまでもファシズムは、19世紀近代の廃墟の上に成立している。
笠井潔 @kiyoshikasai
またファシズムのイデオロギーには、躍動する生の力の賞讃がつきまとう。貧血状態に陥った19世紀近代に生命主義が対置される。戦士を祀り上げる男性主義は、生命主義と無関係ではない。また生命主義の社会イデオロギーとして、社会ダーウィン主義が接ぎ木される。
笠井潔 @kiyoshikasai
ファシズムの社会ダーウィン主義は対外的には、老朽化した19世紀的植民地大国イギリス、フランスを「若い」民族主義国家が打倒し、新たな世界秩序を創出するというかたちで、後発帝国主義による世界戦争イデオロギーとして活用された。対内的にはナチのユダヤ人政策のような狂暴な差別主義となる。
笠井潔 @kiyoshikasai
五族協和や大東亜共栄圏のイデオロギーには、国際化されたコーポラティズムという一面がある。私人間の暴力的な自由競争という経済的自由主義に対して、自律的な職業組織の体系として国民社会を構想するファシズムのコーポラティズムには、いうまでもなくサンディカリズムの影響がある。
笠井潔 @kiyoshikasai
レッセフェールと自由主義経済を拒否し、国家による経済統制を推進したファシズム国家だが、あらゆる企業を国有化したボリシェヴィズムほどの徹底性はない。旧勢力の国防軍と同様、ヒトラーが大資本と手を組んだように。とはいえ、ファシズムの社会主義的要素が完全消滅したともいえない。
笠井潔 @kiyoshikasai
指導者を頂点として社会は階層的に組織されても、国民(民族)としては一体だから、ファシズム国家は反体制分子を除外した一般民衆の面倒見がいい労働者の待遇改善や福祉・社会政策の推進は、たんなる人気取りやバラマキでなく、ファシズムにとって原理的な社会主義的性格に由来する
笠井潔 @kiyoshikasai
20世紀前半のファシズムは社会荒廃や貧困の元凶として自由主義経済を制限しようとしたが安倍晋三は小泉路線を継承し新自由主義を全面化している。「安倍=ファシズム」説の主張者も、安倍路線が20世紀ファシズムと重要な点で異なることに、注意を向けているようだ。
笠井潔 @kiyoshikasai
以前リツイートしたように、ファシズムにとって経済的自由主義の制限や再分配政策は本質的でなく、いわば20世紀的な偏差にすぎないという主張があった。社会ダーウイン主義とコーボラティズムを権威主義的に統合するのがファシズムであれば、安倍政権は21世紀的なファシズムの新形態とみなしうる
笠井潔 @kiyoshikasai
優勝劣敗を肯定する点で、新自由主義の人間観には社会ダーウィン主義的なところがある。安倍経済政策のコーポラティズム性というのは、なにを指しているのかよくわからないが、たとえば経団連に賃上げを要請するようなところだろうか。とすればコーポラティズムでも、労資協調に偏したそれだろう。
笠井潔 @kiyoshikasai
もっと詳細な分析は別の場所で試みたいが、結論をいえば安倍路線は、経済的な面で20世紀ファシズムとは逆方向を向いている。ただし政治的には、ファシズムに親和的なところが無視できない。たとえば麻生副総理の、物議をかもした「ナチス発言」がある。
笠井潔 @kiyoshikasai
アガンベンの言葉を借りれば、ナチス国家の13年は「ワイマール憲法の欄外の余白に」存在したのである。受任法による独裁は、憲法が停止される例外状態の永続化の産物だった。この点を考慮して麻生の真意を忖度すれば、憲法改正などしないで解釈改憲で事を進めるのがいい、ということになるだろう。
笠井潔 @kiyoshikasai
大統領の独裁という抜け道を通って、ナチスはワイマール憲法の欄外に滑り出て、永続する例外状態という恰好のテリトリーを獲得した。この法的アクロバットを可能にしたのは、ナチスを支持した選挙民(周知のように国民の過半数をはるかに下回る)だけではない。
笠井潔 @kiyoshikasai
ワイマール体制の破壊を望んでいた軍部と財界の支持に加え、社会民主党や共産党などの反対勢力を一方的に殲滅しうる党の暴力装置(突撃隊)を備えていたことも大きい。しかし安倍晋三の場合はどうだろう。安倍の強気を支えているのは、内閣の高支持率のみである
笠井潔 @kiyoshikasai
しかも高い内閣支持率を支えているのは、もっぱら経済政策への期待で、戦後レジームからの脱却や自民党タカ派のイデオロギーではない。アベノミックスが沈むと同時に、第二次安倍政権も沈むに違いない。政官財に根を張った対米従属派は、安部の足を引っぱる機会が来るのを待ちかまえている。
笠井潔 @kiyoshikasai
安倍が戦後国家の大再編をなし遂げるには、アベノミックスに期待する世論以上に強力な援軍が必要だ。そして、それが存在しないともいえないのである。もしも尖閣軍事衝突が第二次(日清戦争を算えれば第三次)日中戦争に拡大すれば、世論は一気に好戦的になるだろう
笠井潔 @kiyoshikasai
幾つかの重大な偶然が重ならなければ、安倍による国家再編が成功する可能性は、さほど高くない。とはいえ、それで安心しているわけにはいかない。仮に安倍が失敗しても(成功する可能性も無視できない)、さらに自覚的で狡猾な安倍の継承者が登場するだろうからだ。
笠井潔 @kiyoshikasai
21世紀のグローバリズムと世界内戦の深化は、それに適応した新型国家を要求している。20世紀のファシズムとボリシェヴィズムが世界戦争を遂行する国家、世界戦争国家だったとすれば、世界戦争の敗北形態である日本戦後国家の廃墟に誕生するのは、世界内戦国家だろう。
笠井潔 @kiyoshikasai
戦後左翼が想定した「狼」は、自民党右派のイデオロギー攻勢と政治攻勢だった。自民党右派の基礎を据えた岸信介がA級戦犯容疑で、巣鴨プリズンに長期拘留されていたように、この勢力は戦前日本、とりわけ戦時天皇制国家(昭和新体制)を肯定し、その復活をもくろむものとして警戒された。
笠井潔 @kiyoshikasai
しかし、今回「来た」のは、自民党右派に主導された旧来の反動攻勢(狼)ではない。では、なにが「来た」のか。その正体を明らかにするためには、自民党右派的なものと安倍路線と、ネットから路上に溢れだし、都知事選では田母上支持層として形をなした新排外主義について問わなければならない。
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コメント

カマヤン1192(昔漫画家だった人) @kamayan1192 2014年2月18日
コーポラティズムは「適材適所」思想で、安倍晋三のコーポラティズムは何かと笠井潔さんが言っているけど、「大衆には実直な精神だけ涵養すればいい」「若者のほとんどは非正規雇用でいい」「労働者全て残業代ゼロが望ましい」、安倍や麻生みたいな血統に恵まれない奴にはそれが分相応「所を得る」というやつだ、というものだと思われ。
カマヤン1192(昔漫画家だった人) @kamayan1192 2014年2月18日
安倍晋三とかつてのファシズムの決定的違いは、安倍晋三は国民生活を向上させるつもりが毛ほどもないのだけど、ファシズムとの相似性は、「反知性主義」で、「このままでは生活できない」層を安倍晋三政権支持・田母神支持に動員できているところだと思う。
カマヤン1192(昔漫画家だった人) @kamayan1192 2014年2月18日
第二次安倍晋三政権がそれなりに強いのは、リフレ政策という、「反知性主義」と親和性のある金融政策に安倍晋三が乗り、それが国民生活向上という可能性を国民に与えているからだと思う。
杉山真大@震災被災者 @mtcedar1972 2014年2月20日
kamayan1192 ただ、問題はその安倍を批判する側にまで「反知性主義」が蔓延したりしている点だったりするんですよね。数日前の朝日新聞に「『反知性主義』への警鐘」って記事が載りましたけど、そこに登場した方々ってのが佐藤優・竹内洋・内田樹だったりしますからね。
杉山真大@震災被災者 @mtcedar1972 2014年2月20日
kamayan1192 内田は過去にその「反知性主義」振りを何度も指摘しているんで今更触れないけど、佐藤・竹内の両氏は数年前の中央公論で戦前「反知性主義」の代表格だった蓑田胸喜を高く評価してたりしてた前歴があるんですよね。
杉山真大@震災被災者 @mtcedar1972 2014年2月20日
kamayan1192 幾ら「反知性主義」が民主主義を危うくさせるとは言え、この人選は流石にミスキャストが過ぎているって自分も思った訳ですが(爆
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