#完全ノープラン艦これ与太話 【デス・スマイルズ・イン・ザ・ライト】 #1~#2

「おまえぽいぽいを何だとおもってるのだ」「飼い犬」 #3: http://togetter.com/li/637083 #4: http://togetter.com/li/638012 #5: http://togetter.com/li/639523
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春魔解丼 @vespiking

暗い部屋。照明の熱すら失った部屋の空気が、夜の闇で冷やされる。焦げ跡から立ち昇る黒煙も、冷気を浴びて徐々に薄らいでいく。壊れた机、横倒しの箪笥。そして、膝を抱えて壁に寄りかかる、長髪の巡洋艦が一隻。 #KZNPLN

2014-02-25 07:08:51
春魔解丼 @vespiking

「ウ、フフ、フフフ……ダメじゃない……」彼女は赤い火傷跡と、黒く焦げた服の切れ端に包まれ、ブツブツと呟いていた。「……もう、ほんとに仕方が無いんだから……」砲塔から煙。これは損害箇所ではない。「……ね?明日、ちゃんとしずめてあげる。だから、ね?」彼女は笑っていた。 #KZNPLN

2014-02-25 07:12:52
春魔解丼 @vespiking

二月の晴れ空が広がる。日は既に高く、最近の寒空が嘘のようなぽかぽかとした空気が、波乱続きの鎮守府を暖かく包み込む。鎮守府のほど近く、マグロ養殖プールめいた演習場の水面が、駆逐艦達の脚に蹴られてきらきらと輝く。それを眺めながら、北上と夕立は鎮守府外周を散歩していた。 #KZNPLN

2014-02-25 07:51:13
春魔解丼 @vespiking

「ぽい、ぽい、ぽい、ぽいっ!」「ハハハ、ぽいぽいはげんきだなあ」「ぽいっ!」夕立を連れて歩きながら、北上は久々の、のんびりとした休日の空気を堪能していた。思えば総指令に任命されてからというもの、こうして夕立と歩く事も少なくなっていた。 #KZNPLN

2014-02-25 07:57:24
春魔解丼 @vespiking

北上は未だ鎮守府総指令の任に就いているが、ケッコンカッコカリの一件を経て、随分と心のわだかまりが解けた形だ。休暇中も、あの鬱屈とした執務室に縛られ続ける感覚。それがなくなっただけで、休日の空はこんなにも暖かく、明るい。「ぽ、ぽいぃ、わうぅ」不意に夕立が足を止める。 #KZNPLN

2014-02-25 08:00:49
春魔解丼 @vespiking

水雷戦隊の演習場。夕立にとってあまり良い思い出のある場所ではなかった。「そうか。そうだったね。ごめんよ」「ぽいぃ……」「こっちじゃなくて、空母の演習場へ行こうか。飛龍もいるだろう」「ぽい!」夕立の頭をわしゃわしゃと撫でる。夕立の目が紅く輝いた。2隻は進路を変える。 #KZNPLN

2014-02-25 08:04:52
春魔解丼 @vespiking

夕立は過去に、この水雷戦隊の演習場で姉の村雨を喪っている。他ならぬ夕立自身の手によって。水雷戦隊の演習はとかく激しく、過度に疲労した頭へ連続的に吹き込まれる教官の指示が、洗脳的効果を生じさせてしまうケースがままある。村雨の事故では、それが最悪の形で具体化した。 #KZNPLN

2014-02-25 08:09:35
春魔解丼 @vespiking

水雷戦隊演習場で飛び交う怒号は、夕立にとって毒だ。北上は水雷戦隊演習場から少し離れた、空母演習場へと向かう。空母演習場は四角い人口プールめいた水雷戦隊のそれとは趣が異なり、自然の岩礁を利用した湾構造である。潮の香りとともに、航空機の風切り音が2隻に届いてきた。 #KZNPLN

2014-02-25 08:13:46
春魔解丼 @vespiking

「艦攻隊発艦!艦爆隊、爆弾積み込んで!30秒以内!艦攻隊はエリアC飛行!」風切り音を轟かせ、飛龍から放たれた流星改が海面スレスレを飛ぶ!そのすぐ下は浅瀬だ!接触すれば爆沈必死!アブナイ!「魚雷撃って!目標四番岩礁!撃ったら着艦!急いで!」湾内を駆ける飛龍の怒号! #KZNPLN

2014-02-25 08:22:10
春魔解丼 @vespiking

流星改は恐るべき低空を難なく飛翔し、美しい機影をアクロバティックに翻す!そのまま猛然と走る飛龍の飛行甲板へ着艦!着艦ワイヤがギリギリと軋む!「ぽーいっ!」間近で繰り広げられる一大航空ショー!夕立は目を輝かせた。「すごいねェ、しびれるねェ」北上も拍手で応援する。 #KZNPLN

2014-02-25 08:27:25
春魔解丼 @vespiking

すべての流星改を格納した飛龍は足を止めず岩礁へ走り、岩に手をついて停止した。ゼエゼエと肩で息をしている。「飛龍ーっ!おつかれさまー!」北上が手を振る。だが飛龍の返事はない。何かがおかしい!「ゼエー、ウッ、うげっ、ええええ」飛龍は俯き、激しく嘔吐した。「飛龍!」 #KZNPLN

2014-02-25 08:30:53
春魔解丼 @vespiking

2隻は大慌てで飛龍のもとへ駆け寄る。「がっ、はっ、べっ」飛龍はちょうど、口からすべての吐瀉物を吐き捨てた所だ。「ぽ、ぽいぃ……?」夕立が心配そうに飛龍へ擦り寄る。「うん、ごめん、大丈夫……」飛龍の顔が青い。「……速すぎる。対気速度32ノット。それ以上は、出せない」 #KZNPLN

2014-02-25 08:35:54
春魔解丼 @vespiking

32ノット。これは以前から着艦時の対気速度として飛龍が設定していた値だ。エンゲージによって速力が向上した現在も、艦載機妖精への負担を避けるため、飛龍は無風時でも最大速力をやや加減して走っていた。「慣らさなきゃ、早く……ウゲッ」口から吐瀉物が落ちる。 #KZNPLN

2014-02-25 08:41:26
春魔解丼 @vespiking

「……ごめん。折角、来てくれたのに。ちょっと、休むね……」飛龍はふらつく足で鎮守府へ戻っていった。「飛龍さん、すごいっぽい……」夕立が敬意の眼差しで飛龍の背を眺める。夕立は自分の大暴れに妖精を付き合わせるタイプである。乗員自身もそれを望む。信頼の性質の違いだ。 #KZNPLN

2014-02-25 08:46:36
春魔解丼 @vespiking

「ぽ、ぽいいっ!!」突如、夕立の毛が逆立った。怯えた顔で北上の後ろへ隠れる。「ど、どうした!?」「わうぅ……わうぅぅ!」北上を挟んだ夕立の向こうは……水雷戦隊の演習場だ!演習場の方角から、微かにどよめきが聞こえる!「何かがあったんだ!」2隻は演習場へ駆けた! #KZNPLN

2014-02-25 08:49:48
春魔解丼 @vespiking

「わうっ!わううっ!」夕立は悲壮な、だが使命感に駆られたような顔で駆けていた。北上も無言で駆ける。演習場が見えてきた。聞きたくない悲鳴や怒号までもが届いてくる。「アアアアア!!アアアアアーッ!!」「電ぁーっ!落ち着いて!やめて!」「響!響ぃーっ!!アアーッ!」 #KZNPLN

2014-02-25 08:52:56
春魔解丼 @vespiking

夕立は青ざめた。眼前に広がる光景。焦点の合わない瞳で暴れる駆逐艦と、それを取り押さえる僚艦たち。血相を変えて応急処置の指示を出す巡洋艦たち。そして、首が半分ちぎれかけ、腹に大穴を空け倒れる、虚ろな目の駆逐艦。白銀の長髪に、赤黒い血が飛び散っている。 #KZNPLN

2014-02-25 08:57:16
春魔解丼 @vespiking

教官らしき長髪の巡洋艦に砲口を向ける、金の光を纏う駆逐艦。時雨だ。巡洋艦は両手を上げ、謝罪を口にし続ける。「君は……ッ!一体何隻の駆逐艦を……ッ!殺す気なんだ……ッ!!」「ごめんなさい……本当にごめんなさい……」忘れもしない光景。あの時と同じ。 #KZNPLN

2014-02-25 09:00:53
春魔解丼 @vespiking

夕立にとって忘れられない、忘れたい顔。特徴的な長髪に、オレンジの制服。水雷戦隊旗艦、駆逐艦演習教官……軽巡洋艦、神通。 #KZNPLN

2014-02-25 09:04:46
春魔解丼 @vespiking

「答えろッ!!なぜ演習で実弾を使用したッ!!」時雨の鉄仮面めいた顔が、憤怒の熱で歪んでいる。「……実弾と模擬弾では、反動や加速度が、微妙に違います。特に、疲労状態では、演習で刷り込まれた動作が、自然と出てしまいます。模擬弾だけの演習は、却って危険です」 #KZNPLN

2014-02-25 20:14:08
春魔解丼 @vespiking

「それで、この過剰な演習、実弾の使用か」「……はい。私の管理が行き届かず、本当に申し訳ありません」「正論だね」時雨は小さく舌打ちした。傍らでは、倒れた響の応急作業が続いている。損傷が激しい。急ごしらえのダメコンで、ドックまでもつかどうか。電は未だ興奮状態にある。 #KZNPLN

2014-02-25 20:19:52