山本七平botまとめ/【正統と異端・護教論とその裁定③】裁定者ローマ皇帝の前での討論/ローマ皇帝の 裁定/日本に予想される困難

山本七平著『比較文化論の試み』/7正統と異端・護教論とその裁定/75頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①今、そういった方の例を一つ申し上げますと『カイザル遣使』という有名な資料があります。 これは、アレキサンドリアにおりましたフィロンというユダヤ教の哲学者ですが、この人が、ローマ皇帝のカリギュラ…のところへ陳情に行ったときの記録です。<『比較文化論の試み』

2014-02-27 17:09:05
山本七平bot @yamamoto7hei

②これにはローマ皇帝…に直接会って、陳情した際の当時のいろんな状況が細かく書いてあるので非常に貴重な史料なんです。 カリギュラは後で発狂して、近衛兵に殺されますけど、フィロンが会ったのはそのほんの少し前なので、ちょっと頭がおかしくなっている状態なんかがこの資料によく出ています。

2014-02-27 17:39:08
山本七平bot @yamamoto7hei

③当時、アレクサンドリアには、ギリシャ人とユダヤ人が約半々で住んでいたんですが、両方とも文化的伝統が違うし生き方も違う。 無論、やる事や考え方が違いますから、両方で絶えず争いを起こしていたわけです。

2014-02-27 18:09:07
山本七平bot @yamamoto7hei

④で、この争いを起こした場合に、これに最終的裁定を下すというのは、皇帝の一番大きな仕事だったんです。 それで、こういう場合必ず両方から使者が未て、皇帝の前で討論をするんですね。それをもとにして皇帝が裁定を下すんです。ただ討論と言いましても…お互いの中傷みたいになってくるんです。

2014-02-27 18:39:16
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤この争いが起こった一番大きな問題は、カリギュラが自分の像、皇帝の自身の像をユダヤ人居住地区に建ててその前で自分を神とあがめて香をたけという、そういう命令を下したことにあるわけです。 ユダヤ人たちは、 「われわれは絶対に偶像に頭を下げない」 と、命令を拒否したんです。

2014-02-27 19:09:06
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥拒否したところが、拒否した…事をギリシャ人側が訴えて出た訳です。前述のアピオンともう一人…が先頭に立って…皇帝のところへ告発したわけです。 そこで今度は、これに対して、ユダヤ人側はフィロンを中心とした弁護団使節を送りまして、それでカリギュラの前で討論をしたんです。

2014-02-27 19:39:13
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦【ローマ皇帝の裁定】だが…カリギュラも頭が変だったらしくて、一向に裁定を下さないんです。…よく分からなかったらしいんです。 で、最後に、ユダヤ人に向かって 「お前たちは罪人であるよりは、むしろ狂人だ」 と言って去り、なにがなんだか分からなくなって終わってしまったんです。

2014-02-27 20:09:09
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧それでユダヤ人は一同ほっとして帰り、うやむやになってしまった。 ただ、そのためと思うんですが、カリギュラが暗殺されて、次のクラウディウス帝のときになって、裁定文というのが出まして、今残っています。

2014-02-27 20:39:16
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨それによりますと 「両者の争いを私は次のように裁定する。 第一に、以後、このような争いを起こしてはならない。 一つの都市から二人の使者が米て、私の前で討論をするというようなことは、非常に異常なことであるから、おまえたちの間で話し合え。 ただし、次のことを言う。」

2014-02-27 21:09:04
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩「アレキサンドリアにおけるすべての市民権を、私は全部保障する。 私以前の王や長官や総督によって与えられた特権、ないし権限というものも全部保障する。 したがって、ユダヤ人の持っている権限というのは、いわゆる神なるアウグストゥス…が保障したものであるから私も保障する」

2014-02-27 21:39:06
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪というふうに、わりかたユダヤ人に有利な裁定を下しているんですが、その代わり「ユダヤ人の方は、第一に市政に対して口を入れてはならない。なぜならお前達は公共競技…に対する費用の分担を一切していないから」これは宗教的祭儀がつきまとうものですから、ユダヤ人が避けたんだと思われますが…。

2014-02-27 22:09:07
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫「それに対して、お金だけ払って権利を得ようとするのを私は許さない。祭儀に徹しないなら、権利は一切認めない。第二に、これ以上勝手に住民を呼んではいけない。増やしてはいけない。勝手に流入することを許さない」 まあ、そういうような裁定を下しまして、これで一応落ち着いたらしいんです。

2014-02-27 22:39:23
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬いわば皇帝がショフティムの仕事をしたわけですが、この場合は、祖先伝来の法に基づいての裁定でなく、祖先伝来の法に基づく自己の正当性を主張する二つの文化の間の争いを裁定し、その前提として、相互に護教論が展開されているわけです。

2014-02-27 23:09:05
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭【日本に予想される困難】こういうことをですね、われわれの社会は、実は、やる必要がなかったんです。 で、恐らく文化的ショックに基づく両者の争いというものを、何人かが裁定をしたという例は、今までの日本の歴史には全然ないと思います。

2014-02-27 23:39:07
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮ですから、今後そういう問題が出てきた時に、私達は非常に困った問題に突き当たる訳ですね。 同時にこれがですね、今ですと価値の多元化とか、あるいは親子の断絶とか色々言われますけれど、そういう問題と共に、両者とも今までのように”ごく自然”にはいかない状態に既になってきている訳です。

2014-02-28 00:09:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯ですから、我々は外国のそういった規準と同じように、 我々の中にも、一つのまあ、最初に言いました”ナトゥウラの教え”といいますか”自然法”というものがある、 ということを意識しまして、それを正確に系統立てていかねばならない状態になってきたと、私はそう思っております。

2014-02-28 00:39:10
山本七平bot @yamamoto7hei

⑰そして、系統立てるという場合、一番困る問題は、 今までアポロギア(註:弁明・弁護論・護教論)というものがなかった と同時に、 日本文化というものは、こういうものだと自らを弁護して、他人の言葉で他人に説明するという必要がなかった ことです。

2014-02-28 01:08:57
山本七平bot @yamamoto7hei

⑱もう一つ困るのは、多くの文化というものを、同一言語が違った内容を表すという非常に困った状態を、われわれは経験していないんです。 これは、日本が単一語民族であるからです。

2014-02-28 01:39:12