- koiflachuchu
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アタバキ幼稚園内カラオケルーム。園児たちの合唱の練習のために作られたタタミ40枚ほどの広さを持つ空間に、ヤモトとアサリ、友人たちがいた。室内にはジュースを自由に飲めるスペースが設置され、歌唱で疲れた園児たちの喉を癒す。後で保護者に請求が行くが、お菓子も食べ放題だ。 1
2014-03-02 09:27:42「王候のーよーうなー精神生活ー」マチが童謡を歌い出したのを尻目に、ヤモトは出口の方を見る。窓ガラスには見覚えのあるシルエット。「……ごめん、ちょっとトイレ。飲み過ぎちゃった」本来他人の歌唱中に退出することはその歌声が気に入らないとと見なされ、スゴイ・シツレイにあたる。 2
2014-03-02 09:33:34しかし、ヤモトは全員に尿意を伝え、小さくオジギした後音を立てぬよう退出した。ワザマエ!なんたるキョート人由来の奥ゆかしい礼儀作法か!「……ドーモ、その作法、やはりキョート人か」部屋を出た直後、幼女の方からアイサツしてきた。ショーコから。 3
2014-03-02 09:37:11ショーコはアフロヘアーにサングラス、上半身は素肌のうえに乳首の位置に絆創膏という出で立ちで、およそ幼稚園児離れした姿だった。「ドーモ、ショーコです」彼女は再度アイサツした。「……ドーモ、ヤモトです」ヤモトはオジギを返した。二人は幼稚園の廊下で睨み合う。「アタイに用なんでしょ」 4
2014-03-02 09:40:54「……そうだ。わかるんだな」「わかる。あの時、目が合ったよね」ヤモトは呟いた。「あなたが、あのちびっこギャングをみんな脱がした」「……俺はわからなかった」ショーコが低く言った。「お前もヨウジョになっていたなんて」ヤモトは驚愕した。自分がヨウジョになったことを知っているなんて。 5
2014-03-02 09:44:20ショーコはしばらく黙っていた。やがてサングラスを外した。奇抜ないでたちにそぐわぬ悲しげな表情でヤモトを見た。「俺はただ、お前に、」「スーサイド!スーサイド=チャン!」廊下の曲がり角の先から、幼女の声が聞こえてきた。「ブッダファック!」ショーコは舌打ちした「時間切れかよ」 6
2014-03-02 09:48:19ショーコはサングラスをかけ直した。「今から話すこと、わかる限りわかってくれ。いいか、俺はヨウジョになっていた。で、あの日ロリコン・シンジケートにスカウトされた。拒否権はねえんだ。傘下に入るか、死ぬかだ。シンジケートはお前がヨウジョと知った。今来る。でもお前は違う、お前は、」 7
2014-03-02 09:52:23「まったく!待ちくたびれてお昼寝してたぜ!ガキは居たか?」ドスを利かせた未発達な声が聞こえてきた。そしてすぐに声の主が姿を現した。金糸を織り込んだぱんつとシャープなスリットの入ったスカートを纏ったヨウジョが!「おお?居たかスーサイド=チャン?そいつだ、そいつ」 8
2014-03-02 09:55:24ヨウジョはヤモトに気づくと恫喝的にオジギした。「ドーモ、ヤモト・コキ=チャン。私はロリコン・シックスゲイツのヨウジョ。ソニックブームです。そっちのアフロが妹のスーサイド=チャンだ。ヨロシクな!」粗暴なヨウジョは馴れ馴れしくヤモトに話しかける。「どこまで説明を受けた」 9
2014-03-02 09:58:35「……だいたい話した」ショーコが苦々しく答える。ソニックブームは鼻を鳴らした。「お迎えに来たんだよ。お前を一人前のヨウジョにしてやる」ヤモトは後ずさった。「そう怖がりなさんな。このスーサイドだってお前と同じ戸籍偽造者だ。お前にもそれをくれてやるって言ってんだよ!戸籍を!」 10
2014-03-02 10:02:27ヤモトは血液が逆流するような感覚を味わった。バレてしまった。あの日、自殺した男子生徒と激突し、ヤモトは死の縁から生還した。シ・ヨウジョのヨウジョソウルを取り込んで。自殺した男子生徒は既に消えていた。そして彼女はぶかぶかの学生服で体を隠し、家に逃げた。親は既にいない。 11
2014-03-02 10:06:46この姿では元通りの生活は送れない。だから戸籍情報をハッキングし、改竄した。その過程で生きていく上で必要な額を口座に入れ、ネオサイタマに高飛びした。キョートでは今ごろ失踪者扱い。そして、犯罪者だ。バレたら暗黒非合法児童養護施設に入れられ、幼年性愛者の餌食となるだろう。 12
2014-03-02 10:14:30「過去が今、私の人生を収穫に来た」……どこかで読んだ本に書かれていたハイクだ。ドアを隔てたカラオケルームからは、何も知らないアサリ達の歌声が聞こえてくる。……同じだ。とヤモトは思った。家の外へ締め出されたあの頃と同じ光景だ。アタイの居場所は変わらなかったのだ。 13
2014-03-02 10:18:25「シンジケートは何でも知ってるぜ、運命に身をまかせな」ソニックブームは笑う。「断る理由はねぇよな?断れば暗黒非合法養護施設行きだ。もっともその場合、送る前に一緒にシルバニアファミリーで遊んでもらう。私は寂しいんだ」「ヤモト=チャン」ショーコ……スーサイドが囁いた。 14
2014-03-02 10:22:45「俺は一言謝りたかった。あの時。すまなかった。俺のせいだ。俺のせいでお前……すまなかった」「え……?」「イヤーッ!」振り返り様、スーサイドは背後のソニックブームへ回し蹴りを繰り出した!「イヤーッ!」ソニックブームは熟練のヨウジョ反射神経でこれを見切り、ブリッジ回避!ぱんつ! 15
2014-03-02 10:27:15「スーサイド!てめぇ、すっぞおらー?」「ヤモト=チャン!行け!とにかく行け!」スーサイドは叫んだ。「イヤーッ」「イヤーッ」二者の両手がガッチリと組み合い、力比べが始まった。「俺が脱がす!」ヤモトはカラオケルームのドアを急いで開けた。そして叫んだ。「火事だ!」 16
2014-03-02 10:31:32一瞬、目をぱちくりとさせた園児たちであったが、抜き打ち防災訓練なのだと察し、すぐに立ち上がった。「早く!逃げて!階段はあっちだ!」戦闘が起こっている曲がり角の逆方向へみんなを促す。「ヤモト=チャン?」アサリがヤモトを見た。ヤモトはアサリの肩に触れた。「大丈夫……早く!」 17
2014-03-02 10:37:00ヤモトはみんなと非常階段をかけ下りる!三階、二階、エントランス!ヤモトはみんなについて園外へ出る!その時だ!「グワーッ!」頭上で絶叫が聞こえた。落下してくる声の主は……スーサイド!割れた窓ガラスと共に落下してきたスーサイドは、ヤモトのすぐそばの地面に激突した!パンツ一丁で! 18
2014-03-02 10:40:56「この人、ショーコ=チャン?」スーサイドは起き上がろうとしたが果たせなかった。自分を覗きこむ同級生達を、霞む視界で捉えようとした。スーサイドはおててを伸ばした。同級生達へ手のひらを向ける。失われた己のズボンを維持するために、彼女らの衣服を奪うのだ。パンク・ヨウジョのジツで。 19
2014-03-02 10:46:38スーサイドはしかし、その手を下ろした。「ヤモト=チャン。お前は俺とは違う。友達がいるし、これから先の事も考えられる。だからダメだ。ロリコン・ヨウジョなんて、ファッキン!……だ」さっき言えなかった言葉を言おうと試みたが、ほとんど声にならなかった。彼女の意識は途絶えた。 20
2014-03-02 10:49:56「ショーコ=チャン」ヤモトは大の字で動かないスーサイドを呆然と見下ろした。誰かが悲鳴をあげた。ヤモトはアサリの腕を掴んだ。「逃げて、みんなで」「ショーコ=チャンは?このままじゃ犯され……」「逃げて、アタイに任せて」「でも」「アサリ=チャン」ヤモトはアサリをかき抱いた。 21
2014-03-02 10:53:12「敷地内だからミニガンが守ってくれる」「確かに」「大丈夫。また明日ね。また明日会おう!」アサリはヤモトに従った。他の園児を促し、指定避難場所へ駆けていく。ヤモトは幼稚園のエントランスを凝視する。やがて、ソニックブームが現れる。「逃げなかったのか?見上げた度胸じゃねえか」 22
2014-03-02 10:57:15ヤモトはカバンを地面に投げ捨て、仁王立ちの姿勢を取った。その後、オジギした。「ドーモ、ソニックブーム=チャン。ヤモト・コキです」カバンからオリガミ用の和紙がこぼれ出た。風に煽られ、和紙がヤモトの周囲を舞う。それらがひとりでに折り畳まれ、プリキュアの形を取る! 23
2014-03-02 11:00:32