ほしおさなえさんの140字小説25
- akigrecque
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夜、雨が降って、しとしとと雨が降って、わたしはどんどんひとりになる。会いたい人も去って、会いたい気持ちだけふくらんで、でもひとりでここにいる。ここにいるしかなくなっている。木が育つように孤独が育つ。雨の音を聴きながら、どこかにつながっていた日を思う。ひとりで、朝の光を待っている。
2014-01-22 09:47:10250回! おめでとうございます!
140字小説という形が見つかったのも、250まで続いたのも、ツイッターがあったから。。。なんとなく読んでくれてる人がいるらしいぞ?というのがあったから、続けられたのかなあ、と。今後もまだしばらく続いて行くと思います。
2014-01-22 11:45:03続きます。
こんな晴れた日は、校庭を思い出す。制服を着て、自分が空から落っこちたたったひとつの点だと思った。だれもが言葉にできない悩みや妬みを抱えて、まっすぐな白線の上を並んで走った。こんな晴れた日は、あのころのわたしたちが校庭にいるようで。みんな死んだずっとあとでもまだあそこにいるようで。
2014-01-23 21:26:25檸檬を蜂蜜に漬ける。頭のなかを羊の群れが横切って、なんとなくあとについていく。丘をのぼり、草原に出る。一面にクローバーが広がって、みんなで食む。ぽかぽかして心がふわっふわになる。白い花に蜜蜂が来る。気がつくと檸檬を漬けている。壜にクローバー蜂蜜と書いてある。ぷんと光の匂いがする。
2014-01-24 10:13:05白い雪が土に汚れていくのは悲しいことだ。辛いことだ。雪が白いからこそ悲しくなる。辛くなる。真っ白い雪原が頭に広がって、叫び出したくなる。雪を汚してしまったのはわたしだと、涙があふれてくるのだ。だけど、ちがう。それが時がたつということだ。汚れて、溶けて、春になるとはそういうことだ。
2014-01-25 07:25:10子どもが絵本を読んでいる。声を出して、まるでだれかに、いまここにいないだれかに読み聞かせるように読んでいる。そこに光があたって、野原が広がって、そのだれかと遊んでいるみたいだと思う。小さなだれかがわたしに抱きついてきた気がして、息をのむ。声がやんで、少しだけ草の匂いが残っている。
2014-01-29 15:34:55雪がやんで、あたり一面真っ白な雪野原だった。僕はひとり、雪を踏んで歩いた。さくさくと音がした。蹄の跡が続いているのに気づく。跡は坂をのぼり、丘のてっぺんでぷつりと消えた。飛んで行ってしまったのか。ペガサスだったのか。妖精の粉をかけられたのか。しんと音もなく、月が皓々と光っている。
2014-01-30 09:01:38梅が咲くと、むかし友だちのお母さんが亡くなったときのことを思い出す。今みたいな季節だった。なにを言ったらいいかわからなくて、だれでも親はいつか死ぬのだからありきたりのことだと思い込もうとした。浅はかな子どもだった。あの子はどうしているんだろう。だれかのお母さんになったのだろうか。
2014-01-31 18:36:31ぽきんと折れてしまいそうな人だった。人には見えないものが見える人だった。愛を飲み込めない人だった。瞳が海のようで、空を見あげると、瞳に空が溶けて、そのまま消えてしまう気がした。あの人はいまもあの目で世界を見つめているのか。人の形を保っているか。それとももう、海になってしまったか。
2014-02-03 09:20:01いつからだろう、心が枝分かれして大きな木のようになってしまった。どれも嘘じゃないのに、みんなちがって折り合わない。でもどの枝にも葉が茂り花が咲き種が実るなら、それでいいのかもしれないね。木を仰ぐ。こんなに大きくなるなんて知らなかったよ。息を吐く。遠い場所で、双葉が日を浴びている。
2014-02-06 17:43:48真昼の細い月を見上げ、生きていく道を考える。わたしは思うより小さく、なにかを残すことも変えることもできないと思う。それでもこの空の下で呼吸し歩き続けている。ほかの命を奪って、生き続けている。生きるという殻を捨ててしまいたいと思う。薄い色の細い月を見上げ、小さな爪痕のようだと思う。
2014-02-10 21:49:31