井上陽水について僕が知っている二、三の事柄

NHK『井上陽水 マニアックカタログ』を見て、思い出したことを書いてみました。
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倉沢 繭樹 @mayuqix

NHK『井上陽水 マニアックカタログ』を見た。アルバムタイトルに『永遠のシュール』というのがあるが、陽水の曲のイメージは「不可思議」「シュール」「意味不明」というのが一般的かもしれない。しかし、初期陽水は「泥臭い」。

2014-03-02 17:42:33
倉沢 繭樹 @mayuqix

「人生が二度あれば」に代表されるような初期陽水の「泥臭さ」を、坂本龍一は「汗をかいている」と表現していた。しかし、次第に陽水は「シュール」の方へと向かう。

2014-03-02 17:46:55
倉沢 繭樹 @mayuqix

これは「叙情」から「叙事」への変化だとも言える。感情を抑制して、出来事・現象をイメージと混ぜ合わせて淡々と描写する。たとえば「リバーサイドホテル」には情事の実体がなく、それをなぞる乾いた言葉だけが連ねられている。

2014-03-02 17:59:16
倉沢 繭樹 @mayuqix

『マニアックカタログ』で、陽水は小津安二郎の映画『晩春』中の「壺のカット」について語っている。笠智衆と原節子演じる父子が、旅館で枕を並べて寝るシーンで、床の間に置かれた壺のカットが挿入される。これを「父子相姦」をにおわせているとする説がある。

2014-03-02 18:13:41
倉沢 繭樹 @mayuqix

ところで、筋肉少女帯のカバーした「氷の世界」PVは、歌詞世界をゲイ関係の隠喩だというユニークな解釈をして描いている。「アブノーマルな関係」をめぐる陽水の関心を読み取った表現なのかもしれない。

2014-03-02 18:23:24
倉沢 繭樹 @mayuqix

陽水を特集した番組は多いが、僕が最も印象に残っているのは、1999年放送のテレビ朝日スペシャル『21世紀への伝言~井上陽水は何を歌ってきたのか~』だ。野田秀樹がナビゲーターを務め、各界の陽水ファンの著名人が陽水の曲をリクエストし、曲と世相をからめて語る番組だった。

2014-03-02 18:32:02
倉沢 繭樹 @mayuqix

庵野秀明のリクエストは「傘がない」だった。「雨が降ってるけど傘がないから彼女に会いにいけないって、傘買ってよ」とシラケたコメントをしている。

2014-03-02 18:43:18
倉沢 繭樹 @mayuqix

筑紫哲也は「傘がない」について、これは「足払い」の歌だ、と評している。「テレビでは/我が国の/将来の問題を/誰かが/深刻な顔をして/しゃべってる/だけども問題は/今日の雨/傘がない」。大人たちは天下国家を語るが、そんなの関係ない。重要なのは自分の身の回りのことだ。

2014-03-02 18:58:10
倉沢 繭樹 @mayuqix

そうした大人たちに足払いを食らわせるメッセージが「傘がない」にはある、という。しかし、この曲のメッセージはそれだけではない。

2014-03-02 19:02:24
倉沢 繭樹 @mayuqix

この曲はこう始まる。「都会では/自殺する/若者が増えている/今朝きた新聞の/片隅に/書いていた/だけども問題は/今日の雨/傘がない」。自分と同世代の人たちのことにも関心がないのだ。90年代の若者の「仲間以外はみな風景」(宮台真司)というメンタリティに通じている。

2014-03-02 19:53:07
倉沢 繭樹 @mayuqix

『陽水の快楽―井上陽水論』の著者で陽水ファンの哲学者、竹田青嗣は「とまどうペリカン」について、女がライオンで陽水(男)はそれにくっついていく頼りないペリカンだ、と言っていた。「草食男子」の先取りだろうか。

2014-03-02 20:01:30
倉沢 繭樹 @mayuqix

ナビゲーターの野田秀樹のリクエストは「ワカンナイ」だった。これは宮沢賢治の有名な詩「雨ニモマケズ」へのアイロニーだと受け取ることができるが、野田は「宮沢賢治の詩に、文字だけで対抗しても負けるが、それをメロディーにのせて歌った瞬間に勝つ力を得る」と語っていた。

2014-03-02 20:18:37
倉沢 繭樹 @mayuqix

また、「My House」にも言及し、消費社会に対する陽水自身の困惑を読み取っていた。

2014-03-02 20:24:50
倉沢 繭樹 @mayuqix

ところで、中島啓江は別の番組(たしか『徹子の部屋』)で、コンサートで陽水の「ジェラシー」を歌っている最中、何でこんな歌詞なんだろう、と思い始めて、奇妙な気分になったことがある、と語っていた。「ジェラシー」の歌詞は精神医学でいう「解離」的な世界だ。僕が最も好きな陽水の曲だ。

2014-03-02 20:38:13
倉沢 繭樹 @mayuqix

『21世紀への伝言』で、陽水自身が自作曲の中からのリクエストを求められ、にもかかわらず、ボブ・ディランの「見張塔からずっと」を挙げていた。『マニアックカタログ』でもこの曲への執着を見せていた。

2014-03-02 20:51:05
倉沢 繭樹 @mayuqix

ボブ・ディラン「見張塔からずっと」は、『旧約聖書』「イザヤ書」第21章から着想を得ており、退廃の都バビロンの陥落、つまり欲望が肥大した現代社会の終わりを示唆していると思われる。

2014-03-02 20:58:02
倉沢 繭樹 @mayuqix

陽水はミュージシャンについてどう考えているか、こんな逸話を語っている。「神様は人間を創ったとき、それぞれに役割を与えた。おまえは狩りをして食料を得る者。おまえは他者を導く者。おまえは物事を深く考える者。何の役割も与えられなかった人間がガチャガチャやりだして、音楽家になった」。

2014-03-03 15:03:13
倉沢 繭樹 @mayuqix

さて、僕は大学の学科卒業文集で、「好きな言葉」欄に「たとえばいかがわしい場所で、人間の道を極めるために」と書いた。井上陽水が、サングラスをかけている理由についてインタビューで答えた言葉だ。

2014-03-02 21:04:36
倉沢 繭樹 @mayuqix

ちなみに僕が好きな歌詞は「長い坂の絵のフレーム」の「時々はデパートで/孤独な人のふりをして/満ち足りた人々の/思い上がりを眺めてる」だ。

2014-03-02 21:50:12