【艦これ】艦娘に優しい眠りを~那智編~【SSを】

悪夢で目を覚ました那智が提督に慰められるお話。
1
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

「那智……」 心配そうな声で曙が声をかけてくる。 「しっかりしろ! ここを切り抜ければ……」 何があると言うのだろう……絶望的な考えしか浮かばない。自分たちが隠れている防空壕の外では銃声や爆撃音が響いている。相手はよく見えないが、敵の深海棲艦によるものだろう。1

2014-03-04 18:33:46
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

見たい相手は見えないが、見たくない味方の姿は見える。扶桑、山城、最上の姿だ。この銃弾の雨の中、突っ伏したまま、ぴくりとも動かない。死んでいるのだ。 曙はなんとか逃せるかもしれないが、自分はこの三人の仲間に加わるだろう。2

2014-03-04 18:40:00
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

「策はないが、切り抜けるぞ」 曙の頭を撫で、那智は自分戸彼女を奮い立たせようとする。 だがその時、二人が隠れている防空壕に手榴弾が投げ込まれた。 「ちぃ!」 間に合うか……那智は手榴弾を掴んで投げ返そうとする。だが間に合わなかったようだ。視界が閃光で白くなる…… 3

2014-03-04 18:44:17
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

「うあっ!?」 那智は身を起こした。手榴弾を掴んでいた右手は無事だ。いや、そもそもそんな物を掴んでいなかった。掴んでいたのは布団だ。 「んにゃにゃ……」「うーん……」 横で声がしたので見てみる。妹の足柄と羽黒だ。二人共布団に潜り込んでいる。4

2014-03-04 18:48:53
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

「夢か」 那智は大きく息を吐く。そう、夢だった。ご丁寧にレイテとマニラの戦いを再現した悪夢だった。 額に手を当ててみる。汗で濡れていた。激しく寝返りをしたからか長い黒髪も乱れている。 「嫌な夢だな……」 呟きながら那智は汗を拭った。身を横たえ、布団を被って寝なおそうとする。5

2014-03-04 18:52:31
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

だが、あまりにも鮮明な悪夢だったからか、目が冴えてしまい眠れそうになかった。時計を見てみるとまだ夜中2時。明日はモーレイ海に出撃する。眠っておかなければ作戦に支障を来すだろう。 布団から起き上がって那智はドレッサーに近づく。6

2014-03-04 18:59:45
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

引き出しを開けると、錠剤が入った小瓶があった。睡眠薬だ。 昔、本当に軍艦だった艦娘たちは、今那智が見たような、軍艦だった時の悪夢を見る事がしばしばだ。その艦娘たちのために、睡眠薬が支給されているのだ。6

2014-03-04 19:05:02
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

小瓶に手を伸ばしかけた那智だったが、その手が引っ込められた。支給されている睡眠薬はごく弱い物であるが、やはり薬だ。それが那智を躊躇わせる。 かと言って、このままでは眠れないだろう。 「仕方ない、か……」 一人呟き、スリッパを履いた那智はそっと部屋を出た。7

2014-03-04 19:09:38
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

廊下を抜け、那智は【第参娯楽室】と打たれた部屋の前に立った。娯楽室とはその名の通り、非番の艦娘たちが楽しむための部屋である。第壱には駆逐艦娘が好むような物が置いてあり、第弐にはカラオケが設置されている。8

2014-03-25 19:04:05
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

そして第参には……那智や足柄、準鷹らが好むような物がある。つまり、酒。第参娯楽室には簡単なバーがあるのだ。軽空母娘の鳳翔や補給艦娘の間宮が気まぐれにカウンターや厨房に立つこともある。普通のバーなら夜明けくらいまでやっているが、ここは鎮守府。一時には閉まっている。9

2014-03-25 19:07:53
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

だが、酒の保管庫という面もあり、鍵は開いている。飲みたいのなら勝手に入って持っていけと言うことなのだ。那智も足柄と一緒にそうして酒を拝借したことがある。 那智は扉を開けた。薄暗い部屋を静かに横切る。10

2014-03-25 19:09:18
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

キャビネットの一つに那智は辿り着いた。ウイスキーやらブランデーやら、蒸留された洋酒が並んでいる。その中から那智はウイスキーの一つを取り出した。ブランデーでも良かったが、薫りを今楽しむ気分ではなかった。 「寝酒はやめておけ。逆に眠りの質が悪くなる」11

2014-03-25 19:13:55
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

不意に声をかけられた。危うくウイスキーの瓶とショットグラスを落としそうになる。それらを掴み直してから、那智は振り向いてみた。いつの間にか男が一人、闇の中にひっそりと立っていた。艦娘と妖精だらけの鎮守府にいる男は限られている。 「司令官か……」12

2014-03-25 19:17:42
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

「眠れないのか……」 那智の上司である提督が歩きながら訊ねる。驚かすな、と言った調子で憮然としながらも、那智は頷いた。 「薬は使わないのか」「使いたくない」「そうか……分からんでもない」 提督は肩を竦めた。 「だが寝酒は本当にやめた方がいい」13

2014-03-25 19:21:13
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

「いやに言い切るな」「経験したし、医者にも言われたからな」 それだけ言って提督は那智の横を抜け、共用冷蔵庫を開けた。漫然と提督を見ていた那智だったが、ふと沸き起こった疑問を口にする。 「そう言う貴様はこんな夜更けに何をしている」14

2014-03-25 19:42:36
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

「……」 提督は答えない。無言のまま彼は冷蔵庫から何かを取り出した。ガチャガチャと騒がしい金属音の後、とくとくと液体が注がれる音が聞こえる。そしてコンロの火が点けられる音がした。 「まぁ、同じ理由だな」 ややあってから提督は答えた。15

2014-03-25 19:48:13
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

「それで、何をしているんだ?」「……自分は眠れなかったり、落ち着かない時はこれを飲むんだ」 那智は提督の横に立って覗き込んでみた。火にかけられている小鍋の中には白色の液体が入っている。つまるところ、牛乳。16

2014-03-25 19:51:15
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

牛乳が煮立つ前に提督は火を止めた。上の戸棚を開けて大きな瓶と小さな瓶を一つずつ取り出す。大きな瓶は砂糖だ。小瓶の方は……バニラ油だ。 黙々と提督は砂糖を匙で掬って鍋に入れ、バニラ油を振る。鍋をかき混ぜてから彼は思い出した様に那智の方を向いて尋ねた。 「お前も飲むか?」17

2014-03-25 19:54:11
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

二人、ソファーに並んで座ってホットミルクを飲む。那智は提督の誘いを受けた。 マグカップを近づけると、ふわんとバニラの香りがする。一口飲むと温かな物が喉を通って腹に溜り、その熱が穏やかに全身へと広がって行くかのようだった。18

2014-04-04 17:52:50
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

砂糖が入っているのが女性的に、健康的に気になったが、この際気にしないことにした。 温かいミルクは、悪夢を見て毛が逆立ったかのようだった那智の心を落ち着かせてくれた。落ち着いてきた那智はポツンと提督に、夜中に起き出した理由を打ち明ける。 「夢を見たんだ」19

2014-04-04 17:55:09
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

「悪い夢か?」「ああ」「そうか……」 そう言ったきり、提督は黙ってまたホットミルクを飲み始めた。空虚な慰めなんかしないし、内容を聞くだなんて無粋なこともしない。 部屋には二人が牛乳をすする音だけが響く。20

2014-04-04 17:59:29
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

余計な事を言われないのは助かるが、沈黙と言うのも落ち着かない。ホットミルクを半分ほど飲んだ所で那智は口を開いた。 「貴様は……死の恐怖を知っているか」 自分は味わった。あの夢で見た内容の通り。昔の事だし、姿などすっかり変わったが、今でもその恐怖は残っている。21

2014-04-04 18:06:02
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

提督はちらりと那智を見て、そしてカップに目を落として答えた。 「知っている、と言ったら嘘になるな……死にかけた事はあっても、死んだことはないからな……」 昔は軍艦で今は艦娘の那智と、人間である提督の違いだ。22

2014-04-04 18:11:06
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

「……死にかけた時の夢とか見るか?」「いや、見ないな。綺麗に意識を失っていたからな。気づいたら病院で三日経っていた。だが……」「だが?」那智が聞き返すと、ちらりと提督は彼女を見た。口が滑ったという苦い表情が浮かんでいる。23

2014-04-04 18:15:14
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

しかし、ここで有耶無耶にしてしまうのは彼も嫌だったらしい。苦い表情のまま、提督は続けた。 「人を殺す夢は見るな」「な!?」 思わず那智は声を上げた。提督は寡黙で自分の事をあまり語らない。ぶっきらぼうではあるが品行方正だと思っていた。その提督が人殺しを?24

2014-04-04 18:20:03