水族館の魅力と期待される役割とは

「水族館の楽しみ方。」の第二弾。 今回は、本格的に水族館学としての視点で、水族館の魅力の根源と期待される役割(機能)を綴った。 新たな水族館の楽しみ方の助けになることと、実際に水族館へ足を伸ばすきっかけになれば幸いです('-'* 主なポイントは以下の通り 続きを読む
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Archer.K @Archer_K

私の主たる趣味の一つに水族館巡りがあるんだけど、良い年した大人が全国の水族館を巡り歩くというのは珍しいらしく、何が面白いのかと問われることも多いので、水族館の面白さをまとめてみた。なお、データ等については鈴木克美・西源二郎氏の「水族館学」を参考としている。貴重なニッチ研究に感謝。

2014-03-06 21:57:06
Archer.K @Archer_K

生き物を対象にしたレジャーには、二大勢力として動物園と水族館とがあるが、私は水族館は「大人」向けの施設だと思う。それは幻想的でロマンティックな雰囲気や夏でも悪臭がしない等の理由だけでなく、展示される水族の「種類の多様性」を楽しめるのはある程度の年齢になってから、という意味である。

2014-03-06 21:57:48
Archer.K @Archer_K

例えば、水族館では色んな種類を観て「チンアナゴ」や「ネコザメ」、また「カクレクマノミ」と「クマノミ」などの種レベルでの違いを楽しむ一方で、動物園では「キリンさん」や「ゾウさん」のような感じであって、「アジアゾウさん」や「アフリカゾウさん」といった区別を楽しむのは稀だろう。

2014-03-06 21:58:52
Archer.K @Archer_K

水族館では、一つの水槽に多種多様な魚が展示されることが多く「あれ何て魚だろう」という疑問が多く聞かれる。これは突発的な提供という調達に伴う要因にもよるところだが、動物園では「今日は珍しいサルが捕れたから!」といって急遽ライオンの檻に入れることは無いが、水族館ではよくあることだ。

2014-03-06 21:59:21
Archer.K @Archer_K

水族館巡りが趣味なレベルでの楽しみ方として、例えば、これは左が新江ノ島水族館で撮ったアケボノチョウチョウウオで、右が美ら海水族館で撮ったアミチョウチョウウオだが、同じチョウチョウウオ科の中でもかなり違った模様が観られてこれが楽しい! http://t.co/v9DZuenEJa

2014-03-06 22:00:53
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Archer.K @Archer_K

こうした深みは、海洋がもつ環境条件に由来する。深海魚ブームでも明らかなように、水の中は、陸上では類縁が観られない奇妙な生き物たちの宝庫である。これはイメージだけでなく、生物学的にも差異は明確で、海洋は動物界全動物門が網羅され、過去から現在までの進化の様子が一堂に会する。

2014-03-06 22:01:42
Archer.K @Archer_K

海には陸上では有り得ないような極端に脆弱・単純な構造の生き物も多い。水族館で観られるクラゲなどはその代表格だろう。海では、こうした運動能力がなく浮遊や付着しているだけのような生活が可能な一方で、巨大なクジラやサメもいる。これは海洋が生物の棲生息環境として大きな許容性を持つからだ。

2014-03-06 22:01:59
Archer.K @Archer_K

こうした多様な種が生活するのは、海洋の表面から深層までの広い生活空間は、乾燥の心配もなく、対流によって呼吸や成長に必要な酸素や栄養も循環されるなど、多様な生物が生存するための環境の許容性が広がっているからであり、水族館はこうした海洋の許容性の一部を切り抜き我々に魅せてくれる。

2014-03-06 22:02:27
Archer.K @Archer_K

優雅に遊泳するサメやマンタから、温かい珊瑚の海に住む色鮮やかなベラやハギの仲間、肺で呼吸するハイギョに深海のオオグソクムシ、また、食卓を飾るイカ、アンコウ、アナゴもいれば、ジュゴンやセイウチなどの海獣類もいる。こうした個体的網羅性のある水族館は、多様性の織り成す自然の教室である。

2014-03-06 22:03:09
Archer.K @Archer_K

循環がゆっくりとした地域などでは地球環境の変化の影響が小さく、長年その姿を変えない古代の生き物もいる。オウムガイやカブトガニを展示する水族館は少なくないし、シーラカンスの研究を展示する水族館もある。そうした多様性の中で、想像できないような奇抜な姿や習性などを知れるのも魅力だ。

2014-03-06 22:03:29
Archer.K @Archer_K

また、同じ種類の生き物でも各水族館で魅せ方が違うのも面白い。まさに創意工夫の部分で、これは前にtogetterで写真付きで深海に住む魚の色やタチウオ、コブダイを例に水族館による展示方法の違いを通じた楽しみ方をまとめたので参考にされたい。http://t.co/3xmyUOvfBN

2014-03-06 22:03:50
Archer.K @Archer_K

施設自体も水族館の重要な要素だ。建築学の観点から水族館を研究した資料によると、大小24の水族館における平均的な展示水槽のスペースはわずか9.9%程度で、あとは歩行や売店、飼育・管理に要する場である。非公開の場だけで51.8%を占めるなど、観客が知り得ない「裏舞台」が広がっている。

2014-03-06 22:42:58
Archer.K @Archer_K

そのため、観る水槽の印象に比して管理費用が大きく、水族館における収支管理などの経営面も重要な論点である。水族館の経営は、会社型や自治体運営型など、様々なものがあり、経営理念や予算制約などで違いがある。特に収益に占める入館料の割合は公立の90%に対して民間は60%程度とされている。

2014-03-06 22:43:26
Archer.K @Archer_K

資金面では、山形県加茂市立の水族館が満期5年で国債利回り+0.266%の「水族館公債(クラゲドリーム債)」を募集したところ、昨年はわずか20分で3億円分が完売した。また、仙台市で建設予定の水族館で「証券化」スキームを検討するなど、ファイナンスの方法も高度化しており楽しみな限りだ。

2014-03-06 22:43:33
Archer.K @Archer_K

水族館は全国各地に点在しており、単純な競争原理が働かず、設置された地域と他の観光地などとの物理的な距離が問題になる。昨年末に美ら海水族館に行った時も、施設の周りで色んな建設が行われていたが、地域を巻き込んだレジャー地区を作り上げることが水族館自体の集客にも大きな影響を与える。

2014-03-06 22:43:42
Archer.K @Archer_K

一般に、会社型の運営は黒字で行政主体だと赤字体質のイメージがあるが、年間入館者1位2位を争う美ら海水族館は政府系一般財団法人の運営であるし、海遊館は大阪市が株式の25%を支配している。運営主体よりは、観光地としての魅力に引きずられる印象だ。「僻地」にある美ら海の努力が想像できる。

2014-03-06 22:43:52
Archer.K @Archer_K

海遊館はジンベエザメ人気への依存が大きすぎて、他の展示がややおざなりな印象だ。ジンベエザメは日本の多くの水族館で観られるようになっており、一極化はリスクがある。海遊館の集客・資金力なら一般水槽の展示を強化できるはずだ。橋下市長が民営化方針を打ち出していたので、改善が期待される。

2014-03-06 22:44:06
Archer.K @Archer_K

ヨーロッパとアメリカでも水族館運営における営利性の追求について古くから議論があるが、水族館に求められる機能とは何か。いずれのタイプであっても最終的に収斂されるのが、水族館の持つ教育的機能である。水族館は博物館の一種であり、その設立の理念には常に教育への期待が包含されている。

2014-03-06 22:44:14
Archer.K @Archer_K

もちろん、お客さんからすればいかに「楽しい」と思うかに過ぎないが、日本でも博物館法の適用を受けるか否かは別として、水族館は「博物館」として定義されるものであり、その期待は、相対的に魚類との親和性の強い日本でも「食の観点から命の大切さを知る」といった抽象的なものにとどまらない。

2014-03-06 22:44:19
Archer.K @Archer_K

昨今の事例では、山口県の海響館の「ペンギン村」や神奈川県の八景島シーパラダイスの「うみファーム」のように、教育を前面に打ち出した施設型の展示もあれば、砂浜の消滅によるウミガメの減少やイルカの混獲の実情などを綴ったパネル等を通じて訴える展示もある。タッチングや実験型も増えた。

2014-03-06 22:44:28
Archer.K @Archer_K

補足:これは山口県「海響館」のペンギン村の様子。ペンギンの展示をする傍らで、ペンギンの生態をパネル等で解説する。いわゆる「知識型」による教育的機能の発揮のタイプ。 http://t.co/08o20kbnHp

2014-03-06 23:38:44
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Archer.K @Archer_K

補足:これが八景島シーパライダスの「うみファーム」のコンセプト。いわゆる「体験型」による教育機能の発揮を目指す。 http://t.co/eNB884eB8b

2014-03-06 23:32:10
Archer.K @Archer_K

こうした具体的な「体験型」「知識型」の教育的機能に関心の無い圧倒的多数の客にとって水族館は教育にならないという考えはしていない。限りある空間と予算の中で、種の数を増やす個体的網羅には限界があり、全てを観る時間も無いが、「生態学的網羅」がカギとなるのではないかと考えている。

2014-03-06 22:44:40
Archer.K @Archer_K

水族館とは、いわば生き物を「消費」して楽しむ場であるわけだが、我々は生き物たちの姿や習性から環境への巧みな適応や生への知恵を知り、美しさ・可愛さに対して驚き、感心し、そこから自然への畏敬やその尊さを学ぶことができる。水族館はレジャーでありながら必然的に教育的機能を発揮している。

2014-03-06 22:45:05
Archer.K @Archer_K

水族館では、共生の様子や成長過程での環境適応を学ぶことができ、この「生態学的網羅」の実現により、水族館を通じた自然科学としての生物の学習を行うことができると考える。これは、レジャーとしての水族館の魅力を更に引き上げるもので(冒頭の細かい楽しみができる)、相乗効果も期待できよう。

2014-03-06 22:46:31