古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #6

更新六回目のまとめです。 敵艦隊を迎撃する衣笠たち。その時古鷹がとった行動とは。
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古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

母港を飛び出した私たちのはるか前方、星明りの夜の水平線近くを走る古鷹ねーさんの機関が吐き出す煤煙がかすかに見える。機関を定格以上の出力で回して走っているらしく、最大速力では私や川内の方がわずかながら速いはずなのに、ちっとも距離が詰まらない。

2014-03-09 18:11:57
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

そしてそのさらに前方、11時の方向に光っては消えるいくつもの砲火のきらめきが見えた。敵艦隊と哨戒艦隊が激しく砲戦を交わしているようだ。胸の奥がきゅっとなり、もっと早くあそこへたどり着けないのかと気ばかり急く。青葉は無事だろうか。哨戒艦隊の駆逐艦の子たちは。ああ、早く。

2014-03-09 18:16:54
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

海面を走り続けて、ようやく敵艦隊と哨戒艦隊の全貌が把握できる距離になってきた。敵艦隊は電探で認められたように戦艦を旗艦とする単縦陣で重巡1、軽巡2、駆逐1が続いている。駆逐艦が一隻足りないのは、青葉たちがすでに一隻沈めたということか。それに対して哨戒艦隊は4隻全員健在だった。

2014-03-09 18:22:25
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

どうやら青葉たちは敵艦隊に対して丁字有利の形で接触できたらしい。我が泊地に対して西進してきた敵艦隊はその形を嫌って南に変針、青葉たちはその頭を抑えようとこちらも南進している。速力では重巡を旗艦とする哨戒艦隊が勝っているけれど、相手の火力が圧倒的なため回避行動を取りつつ進んでいる。

2014-03-09 18:29:18
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

そのため敵艦隊の頭を抑えるところまではいかず同航戦のような形になっているけれど、これは悪くない形だ。敵艦隊を母港に近づけずに済むし、増援が来るまでの時間稼ぎにもなる。ただ、長引けばこちらの被害も大きい。増援も含めて敵艦隊の旗艦の戦艦ル級に火力を集中し、短期決戦で臨む必要がある。

2014-03-09 18:36:03
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「あッ!被弾した!」 先頭を進む川内が指さした。哨戒艦隊の駆逐艦は吹雪、初雪、叢雲の三隻。そのうち吹雪に敵駆逐艦の砲弾が直撃し、艤装から炎を吹いている。思わず川内に向かって叫ぶ。 「川内!」 「まだよ!まだ距離がありすぎる!有効射程に入ったら一気に撃つ!」

2014-03-09 18:42:20
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

敵艦隊は眼前の哨戒艦隊に気を取られていて、私たちにはまだ気が付いていない。近づいて一気に打撃を浴びせられれば、勝算は大きい。けれど私たちが追い付く前にもっと被害が出るかもしれない。遠目に、吹雪の足元がぐらついたように見えた。思わず握った手に力が入る。

2014-03-09 18:49:00
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

その時、先行していた古鷹ねーさんの姿が敵艦隊への射撃に適した距離まで近づいていることに気付いた。見れば、古鷹ねーさんは右腕の砲を敵戦艦に向けつつ、左手を頭の横にあてがって何かをしようとしている。まさか、それは。止めようと手を伸ばす。空を切る。そして、視界がまばゆい光で覆われた。

2014-03-09 18:53:46
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

古鷹ねーさんが左目の探照灯を敵の戦艦に向けたのだ。真っ黒な夜の海に慣れた目が突然の光量に耐えられず、思わず目をそらす。同時に響いた砲音で、古鷹ねーさんが射撃を開始したことを覚った。川内の怒鳴り声も聞こえた。 「古鷹、無茶しちゃって……ッ!この機を逃すなッ!突撃よ!」

2014-03-09 19:03:47
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

同航戦で航走する哨戒艦隊の前方から、古鷹ねーさんが敵旗艦に次々に砲弾を送り込む。ル級の反撃は視界が光に覆われているらしく狙いが付けられていない。けれど、後続する重巡以下の深海棲艦たちの砲弾は容赦なく古鷹ねーさんの周囲の海に着弾する。それでも古鷹ねーさんは探照灯を消さない。

2014-03-09 19:10:44
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

見れば、哨戒艦隊の先頭の青葉の射撃が止まっている。砲に被弾したのかと目を凝らすと、呆然と古鷹ねーさんの方を見つめながら固まっていた。 「砲雷撃戦、開始ッ!」 川内の号令と共に神通と那珂が一斉に砲撃を開始した。私も慌ててそれに続き、ル級に砲弾を叩きこんだ。

2014-03-09 19:16:42
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

耳を聾する轟音が響き、無数の砲弾を食らったル級の右腕の艤装が火を噴きながら崩れ落ちる。艦娘で言うなら中破に相当するダメージ。これで退いてくれればと思っていると、ル級がやにわ左傾し、もと来た東方向に変針した。配下の深海棲艦も単縦陣のままそれに続く。 「もう終わり!?夜は長いよ!?」

2014-03-09 19:23:36
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

川内が叫び、神通や那珂も増速して追撃にかかる。速力では軽巡に追いつけない私は追撃戦には加わらず、あたりを見回した。青葉のことが気にかかる。敵艦隊とは逆の西方向に変針して私の方に近づいてくる哨戒艦隊は、吹雪が中破しているほかは目立ったダメージはなさそうだった。けれど、青葉は。

2014-03-09 19:33:31
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉は、両手で自分を抱きしめるようにしている。その表情は、うつむいていて見えない。大丈夫だった、と声をかけようとしたその時。 「青葉ッ!」 古鷹ねーさんが叫び、探照灯を海面に向けた。そこに見えたのは、三本の白い雷跡。青葉に向かって放たれた三本の魚雷だった。

2014-03-09 19:39:36
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉の位置では、三本の魚雷のうち一本が命中する。そう直感して私が動き出そうとした時、すでに古鷹ねーさんが魚雷と青葉の間に自分の体を割り込ませていた。そして魚雷を狙って主砲、高角砲、機銃まで動員して猛烈に射撃を開始する。けれど、水面下を高速で進む魚雷にはなかなか当たらない。

2014-03-09 19:49:47
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

視界の端では吹雪たちが他の魚雷を避けて変針する。見る見るうちに魚雷と古鷹ねーさんの距離が詰まる。それでも古鷹ねーさんは撃ち続けている。青葉の目が見開かれる。古鷹ねーさんはたじろぎもしない。魚雷が目と鼻の先まで近づいている。砲弾で海が沸く。魚雷が見えなくなる。 轟音がとどろく。

2014-03-09 19:57:19
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

海面で巨大な水煙が立ち上がり、魚雷の爆風で吹き上げられた海水がシャワーのように周囲に降り注ぐ。霧状になった海水と煙が晴れると、砲を構えたままほう、と息をついた古鷹ねーさんの姿が見えた。どうやら着弾する直前に魚雷を破壊できたようだ。

2014-03-09 20:09:35
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「古鷹ねーさんッ!」 急いで水面を走って駆け寄ると、古鷹ねーさんがこちらを振り向いて笑った。爆発時に周囲にまき散らされた魚雷の破片で出来た頬の傷が痛々しい。砲撃が至近弾になった時と同じで、艤装にもあちこち傷がついている。けれど、被害はせいぜい小破止まりといったところだ。

2014-03-09 20:16:09
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

私は胸をなでおろして言った。 「まったく、魚雷を着弾前に砲撃で破壊しようなんて無茶もいいところよ。失敗したらどうするの」 「たぶん、出来ると思ったから」 古鷹ねーさんがかすかに微笑みながら平然と言う。うちの艦隊で一番練度の高い古鷹ねーさんらしいと言えばらしいけど。

2014-03-09 20:25:39
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

古鷹ねーさんは今さっきまで自分の命の危機に直面していたのに、もう普段通りの様子だ。そして、私の後ろの青葉に声をかける。 「青葉、大丈夫だった? ……青葉?」 青葉の方を振り向く。青葉は、さっきと同じく自分を抱きしめたまま身じろぎもしない。いや、よく見ると体が小刻みに震えている。

2014-03-09 20:32:41
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「青葉、大丈夫?」 青葉に近寄ってその頬に触れると、ぎょっとするほど冷たかった。顔色は真っ白で、その目も目の前の私を見ていない。青葉の唇が震えながら動く。声は出ていないけれど唇の動きが読み取れた。青葉は、声にならない声でこう言った。 青葉は、助けられちゃいけないのに。

2014-03-09 20:39:46
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉の様子に気が付いた古鷹ねーさんが一瞬だけ悲痛そうな表情を浮かべた。何か言おうと口を開く。けれど結局何も言わずに踵を返して走りだそうとした。 「古鷹ねーさん、どこ行くの!?」 「さっきの深海棲艦を追撃しなきゃ。川内さんたちだけじゃ取り逃がしちゃうかもしれないし」

2014-03-10 02:28:42
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

小破とは言え、古鷹ねーさんも負傷してるのに無茶だ。そう言って止めようとした瞬間、無線から耳障りなノイズ混りの声が聞こえた。母港の雷ちゃんだ。 『あーあー!哨戒艦隊及び当直艦全艦に告ぐ!追撃は中止よ!ただちに帰投しなさい!』 『ちょっと、なんでよ!?久々の夜戦もっと楽しまなきゃ!』

2014-03-10 02:35:30
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

夜戦の狂喜に水を差された川内のがなり声も無線から聞こえる。川内の声に混じって激しい砲撃の音も。追撃しながら砲戦中か。 『それにここで取り逃していいの!?うちの泊地の近海の情報持って帰られちゃうよ!?』 『敵艦隊に潜水艦がいるのよ!夜戦でやり合うのは不利だわ!帰投しなさい!』

2014-03-10 02:42:38
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

その場の全員に戦慄が走った。夜戦でどこから雷撃が飛んでくるか分からない状況で戦闘はできない。 『撤退!之字運動しながら帰るわよ!』 流石に川内は切り替えが早い。神通と那珂に指示し撤退を開始したようだ。 『衣笠!負傷した吹雪を中心に輪形陣を組んで撤退!』 提督の指示に了解、と返す。

2014-03-10 02:53:43