ア・ニンジャ・アンド・ア・ドッグ #2
(あらすじ:謎のイエティ目撃事件を追い、報道特派員を装いジモト市へ向かったフジキド・ケンジとナンシー・リー。ニンジャの関与を疑う彼の前に、ニンジャ犬ストライダーが現れ、マンモンキーの情報を残して去る。だがニンジャ犬の言葉はナンシーには理解できず、フジキドとの間に溝を生むのだった)
2014-03-07 15:42:38夜。マウント・ジモトの斜面を小雨が濡らし、遠雷の音が聞こえ始める。サイバー登山服に身を包んだナンシーは、荒れ果てた中腹の山小屋で独り、今回の事件のレポートをまとめるために、ノートUNIXを操作しながらコーヒーを飲んでいた。……だが胸騒ぎが続く。事件は解決したはず。なのに何故。 1
2014-03-07 15:48:22謎の盲導犬が姿を消した後、二人の特派員は山小屋で小休止を取り、ミーティングを行った。イエティに成り済ましこの山小屋を根城にしていた薄汚いパラディンを捕えはしたが、モリタ特派員はニンジャ陰謀論を、ナンシーは環境破壊と汚染による野生動物の異常進化説を、未だ捨て切れずにいたからだ。 2
2014-03-07 15:57:07「真相は他にある」モリタ特派員はそう言い、山頂へ向かうことに強いこだわりを見せた。ナンシーもそれ自体には同意し、二人は山小屋を出ると、再び山道を登った。しかし道中、彼らは不自然な落石や変異コブラなどに襲われ、また天候の不安もあり、拠点である山小屋への退却を余儀なくされたのだ。 3
2014-03-07 16:01:50モリタ特派員はここには居ない。彼は反対を押し切り山頂へ向かった。ナンシーは手帳に書かれた「宇宙人説」「地元民狂言説」などを×で消しながら、心細さを感じる。ここは電脳メガロシティではない。山だ。大自然の中で人は無力なのだ。「今夜は立ち往生かしら」彼女はドアを開け外の空気を吸う。 4
2014-03-07 16:11:11「あれは……?」ナンシーは小さな人影を見つけた。サイバーサングラスで捕捉し光学拡大する。小さな野生のモンキーが2頭、こちらを見ている。その手にはバイオカニ。食料を採ってきた帰りか。「気味が悪いわね……まるで、監視されているみたい」ナンシーは寒気を覚え、ドアを締めて鍵をかけた。 5
2014-03-07 16:15:36雨が強さを増し始めた。ナンシーはUNIX画面や捜査ノートを睨む。イエティのものとされる写真、モリタ特派員の手で撮影された映像、汚染状況のレポートデータ……。「何かを見逃している気がするわ……何か重大な見落としが……」ナンシーは頭を掻いた。その時、外で、何かの落下音が聞こえた。 6
2014-03-07 16:24:32「アイエエエエエエ!」パラディンが悲鳴を上げた。彼は強化透明PVCシートを被せた状態でトリイに吊り下げられている。彼が何かを見たのだ!ナンシーは恐怖を感じた。窓から外を見る。周囲が薄ぼんやりと、蛍光緑色に発光している。彼女はハンドガンを握り、ドアを開けて悲鳴の方向へ向かった! 7
2014-03-07 16:30:50「何が起こっているの!」ナンシーが駆ける。「アイエエエエエエ!」だがパラディンは恐慌状態に陥り、ミノムシめいて身を捩らせるのみ。山肌からは緑色の無数のスネークめいて滲み出し蛇行する光!「これは……バイオエキス?雨で山頂部から滲み出してきた…?」「ア……ア……」何者かが呻いた! 8
2014-03-07 16:37:22果たして何者!?それはトリイの近くにパイル状になった、不法投棄物の山の上から聞こえてくる!「誰!?答えなさい!」ナンシーはハンドガンを構え、接近。危険であることは百も承知だ。だが、隠されたイエティの真実が、今手を伸ばせば届く場所にある……その信念が、彼女を前へと進ませた! 9
2014-03-07 16:43:51そこで彼女が見た物は!「ア……ア……」……それは怪物ではなかった。それは白衣を着た、瀕死の研究員であった。「あなた、ヨロシサン製薬のバイオ研究員ね」ナンシーは注意深く銃口を逸らさずに問うた。「誤魔化しても無駄。この有害なバイオエキス漏洩現象には見覚えがある。何をしているの」 10
2014-03-07 16:50:39「我々は悪魔を生み出してしまった……」研究員はうわごとのように呟いた。分厚い眼鏡はヒビ割れ、両目から血が流れている。「言いなさい、そいつの正体を」ナンシーが問い、息のあるうちに直結すべくLANケーブルを伸ばす。だが「マン……モンキー……」その恐るべき名を残し、彼は息絶えた。 11
2014-03-07 16:57:12「マン……モンキー……」ナンシーは息を呑み、戦慄した。それはモリタ特派員が、謎めいた盲導犬との対話によって得た名前と、完全に一致していたからだ。研究員はやつれ果て、白衣もボロボロで、何日か山を彷徨っていたのだと推測できる。彼は上から転落してきたのか?事故……それとも……? 12
2014-03-07 17:03:50ゴゴゴーン!雷の音。「キキーッ!」バンブー林の中からモンキーたちの鳴き声が聞こえる。「彼は正しかったんだわ。ごめんなさい、あなたを疑っていた……」不吉な焦燥感に駆られたナンシーは、研究員の白衣をまさぐり、手掛かりを探し求めた。そしてふと振り返った時……彼女はそれを見たのだ。 13
2014-03-07 17:13:22「雷……?」麓にあるジモト市の家で、ミノコは目覚め、フートンから身をもたげた。激しい雷雨の音、そして不安感ゆえだ。 15
2014-03-07 17:21:39「タロウイチ、タロウイチ……?」ミノコは暗闇の中、非常電子ボンボリ灯のおぼろげな感覚だけを頼りに、壁伝いに家の中を歩いた。酷い雨ならば、タロウイチも家の中に居るだろうと考えたからだ。「タロウイチ……どこにいるの……タロウイチ……?」彼女の目は、数週間前に突如開かなくなった。 16
2014-03-07 17:26:44医者はサジを投げたが、原因は明白だった。祖父イツムが死に、死体も見つからず、挙げ句の果てにムラハチにされたからだ。そして絶望に満ちた病院からの帰り道…ミノコとその両親は偶然、一頭のはぐれ盲導犬と出会った。首輪に彫られた名の通り彼はタロウイチと呼ばれ、ミノコと暮らす事にした。 17
2014-03-07 17:33:47「小屋にもいないわ」起きてきた母親が言う。タロウイチは賢く不思議な犬だった。室内を好まず鎖も好まない。山で餌を取ってくる事さえあった。だがタロウウチは、ミノコが助けを必要とする時は必ず傍に居たのだ。またミノコを苛め、イツム老の名誉を罵る者がいれば、狼めいて吠えて失禁させた。 18
2014-03-07 17:46:09「まさか山に?でもこんな嵐の夜にねえ……それに」母親が溜め息をつく。その先は言わない。ミノコを苦しめぬためだ。明日は引越なのだ。ジモト市を離れ、彼女の一家は新天地を求めてネオサイタマへと向かう。タロウイチが戻らねば、彼女らだけで行くほかは無い。「……戻ってくるわよ、きっと」 19
2014-03-07 17:54:40「戻ってこなかったら?」ミノコが問う。「……不思議な犬だったから、そういう定めだったのかもしれない。その覚悟はしておきなさい」母親はマウント・ジモト中腹を眺めながら言った。彼女も本心では引越などしたくない。父の名誉が失われたままになる事が無念だからだ。だが、娘のためなのだ。 20
2014-03-07 18:00:21同刻、マウント・ジモト山頂。カンタロウ・パワーズ社の廃ジェネレータ施設内に巧妙に隠された、ヨロシサン製薬の秘密バイオ研究所にて……! 22
2014-03-07 18:03:24