アホウドリ(オキノタユウ)復活の道程と長谷川博さんのこと

2014年3月8日、東邦大学で理学部教授の長谷川博さんの最終講義が行われました。絶滅の危機に瀕した鳥を救うための長い歳月と努力、使命感。いつも私たちの胸を熱くしてくれた長谷川さんに、感謝。
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飯島明子 @a_iijimaa1
一昨日(3月8日)は、千葉県船橋市にある東邦大学理学部で、長谷川博さんの退職記念講演。(私学だから「退官」じゃないと思う、多分。) 長谷川さんは鳥島に営巣するアホウドリが絶滅の危機に瀕していたのを救った功績で、エジンバラ公賞を受賞している人です。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 絶滅しかけている野生生物を救うのは、容易なことではない。長谷川さんは毎年鳥島へ行き、繁殖に戻って来た(非繁殖期には北太平洋を飛び回っている)鳥を数え、産まれた卵と巣立った雛を数え、巣立ち前の雛に足環を付けて個体識別し、(続)
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 どの個体とどの個体がいつから繁殖を開始して何歳まで繁殖するのか、巣立ち前の雛の体重はどのくらいか、体重測定用に捕まえた時に吐きもどした胃内容物中にどのくらいプラスチック片が混ざっているか、などを調べ続けている。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 もともとアホウドリが減少した原因は人間にあった。翼を広げて2m、グライダーのように高速で優美に滑空するアホウドリは、陸上では動きが鈍く、飛び立つために急斜面を駆け下りなければならない。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 繁殖のために鳥島に降り立ったアホウドリは、人間によっていとも簡単に撲殺されてしまった。上等な羽毛、ダウンを採取してヨーロッパやアメリカなどに輸出するために。こうして日本人は外貨を稼いだ。そして簡単に殴り殺せるこの鳥のことを「馬鹿鳥」「阿呆鳥」と呼んだ。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 一旦絶滅宣言が出されたアホウドリだったが、その後まだわずかに生き残っていたことが鳥島測候所の職員により報告され、イギリス人のティッケル博士らも調査に入った。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 ティッケル博士の話を聞き、「日本人が殺して絶滅の危機に追いやった鳥なのだから、日本人が何とかせねば」と院生だった長谷川さんは思ったという。東邦大の助手になってから、長谷川さんは八丈島から漁船をチャーターして鳥島へ毎年通っていた。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 調査を開始して分かったことは、卵や雛の生残率が低いこと。このままでは個体群はだんだんに縮小して本当に絶滅してしまうかもしれない。なぜ卵や雛の生残が低いのか? それはヒトに襲われなかった急傾斜の砂礫地に営巣し、何かの拍子に卵や雛が落下してしまうからだ。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 それなら卵がや雛が転がり落ちないように、営巣地を安定化させれば良い。長谷川さんは環境庁と一緒にハチジョウススキを植え、これにより卵と雛の生残率が上昇した。しかしその後、大規模な地滑りが営巣地を襲う。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 ユンボなどの重機を入れ、堰堤を築き、丸太で土留めをし、排水路を設け、黒穂病に弱いハチジョウススキではなく同じ島内から採取したシバやチガヤを植栽し、営巣地の安定がはかられた。その結果、卵と雛の生残率はまた上がり、鳥の数も増え始めた。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 だが急斜面の営巣地1ヶ所だけでは今後も大きな地崩れなども起きるかもしれない。鳥島の別の場所、以前人間に殺戮される前に営巣していた平たい場所に鳥を誘導できないものか? そこでデコイと音声による誘導が行われた。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 本物そっくりのデコイの型は、バード・カービング第一人者の内山晴雄さんが無償で作製したものである。私は東邦大の大学院生だった頃、このデコイを間近で見ていた。羽毛の質感まで再現されている繊細で優美なデコイは、芸術品と呼ぶに相応しい。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 木型を元にしたFRPのデコイは本物そっくりに彩色され(身体は白、翼の先端は黒、頭から首筋は黄色、嘴はピンクで先端が水色、目はぬばたまの黒、という美しさ)、最終的には99体が新しい営巣候補地に設置された。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 営巣候補地にはさまざまな姿のデコイが、いかにもつがいを作っているように配置され、鳥の声をスピーカーで流した(太陽電池が使われた)。この「デコイ作戦」は長谷川博さんの発案によるもので、山科鳥類研究所も協力している。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 「デコイ作戦」はしかし、すぐに上手く行ったわけではない。若い鳥が興味を示して飛んで来ても、なかなか定着に至らない時期が長かった。しかし12年という歳月をかけて、この場所は新コロニーとして成立する。今、ここにはもうデコイはない。本物の鳥が帰ってくるから。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 鳥島は今でもこの鳥の重要な(最も個体数の多い)繁殖地だが、尖閣諸島でも繁殖していることが分かっている。また鳥島は火山島なので、火山ではない小笠原諸島の聟島に新コロニーを設立するため、山科鳥類研究所で出口智広さんを中心として調査研究が行われている。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 長谷川博さんの最終講義では、長谷川さんらしく淡々と、仮説と予測、その実証過程についての丁寧な説明が続けられた。そう、淡々と、なのだが、その背後に鳥が増えて絶滅の危機を脱したことに対するあふれるほどの歓びがみなぎり、大教室一杯の聴衆全部を飲み込んだと思う。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 「阿呆鳥、という軽蔑的な名前はもうやめるべきだ」というのが長谷川さんの最近の口癖だった。三重の漁師が使っていたという「沖の太夫」(太夫とは神主のこと)にあらためるべきだと。オキノタユウ。悠然と猛スピードで海上を飛ぶ白い鳥に、相応しい名前ではないだろうか。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 アホウドリ、もとい、オキノタユウについては、こちらに写真も含めて詳しい情報があります。どちらかが死ぬまで同じ相手と繁殖を続ける睦まじい姿も、滑空する勇壮な姿も、どちらも素敵です。 http://t.co/bNwMYkZwUb
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 長谷川博さんがアホウドリの調査を開始してからしばらくの間、八丈島から漁船をチャーターして鳥島に行くためのお金は、長谷川さん自身がボーナスを全額つぎ込んでいた。大学からの研究費には限りがある。助成金は下りない。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 やがて多くの人がアホウドリ基金にお金を寄せて下さるようになり(小学生がお小遣いを送ってくれたこともあるという)、読売新聞が同行してくれたりするようになったのだが、百数十万円ものチャーター代を自腹で賄っていた期間はかなり長かったような気がする。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 私自身は長谷川さんではなく、同じ「海洋生物学研究室」のベントス研究者、風呂田利夫さんの学生だったが、ゼミは一緒で、長谷川さんには仮説の立て方からグラフの書き方に至るまで、それは厳しく仕込んでもらえた。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 それと同時に仕込まれたことは、「やるべきだと考えたことは、金が無ければ自分で賄ってでもやれば良い」「『インパクトファクターの高い学術誌に載るかどうか』などということではなく、本当にやる価値があるかどうかだけで判断すれば良い」ということだった。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 8日、久しぶりに長谷川博さんに会って、『有明をわたる翼』について報告し、「ボーナスつぎ込んで環境演劇を作りました、それも長谷川さんというお手本があったからです。これからのライフワークです」と言ったら、今までにないほど喜んでくれたのが、本当に嬉しい。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 職を得た後、私がアホウドリ基金に寄付したいと言ったら、「そっちはもうかなりあるからええんや。お前はお前でやらなきゃならんことを探してやれ」と言われたのを思い出す。「やらなきゃならんこと」を私が見いだしたことを、知ってもらえて良かった。

コメント

IOEUROPA @IOEUROPA6 2015年4月6日
この素晴らしい話を今まで知らなかった自分の迂闊さに焦りと後悔を覚えました。今からでももっともっと知られていい、知られるべき話。涙を禁じ得ません。
飯島明子 @a_iijimaa1 2015年4月6日
IOEUROPA6 ありがとうございます。とても嬉しいです。長谷川博さんは退職されても益々お元気のようで、この春も鳥島へいらっしゃるそうです。中古でしか買えませんが、長谷川さんの『渡り鳥 地球をゆく』『50羽から5000羽へ アホウドリの完全復活をめざして』は良い本ですので、よろしければ読んでみてください。
飯島明子 @a_iijimaa1 2015年4月6日
IOEUROPA6 「アホウドリがなかなか増えなかった時期、『やめようか』と思ったことはありますか?」という質問に、長谷川さんは「ありません」と即答しました。「やるべきだ」と確信したことは、何年、何十年かかろうと、投げ出さずにやり抜く。その姿勢を間近で見続けることができたことは、私たち海洋生物学研究室出身者の財産です。
IOEUROPA @IOEUROPA6 2015年4月6日
a_iijimaa1 わざわざご紹介下さり、ありがとうございます。早速探して読んでみようと思います。
IOEUROPA @IOEUROPA6 2015年4月6日
a_iijimaa1 信念を貫く事の素晴らしさと大変さを知る事が出来たのは私にとっても幸運だと思います。こちらまで励まされているような気持ちになりました。ありがとうございますm(__)m
Sun太 @SunSun_fine 2015年4月6日
この話は存じ上げませんでした。悠然と空を飛ぶアホウドリ(オキノタユウ)の姿を思い浮かべる度に(一度この目で見てみたいものです)思い出すことでしょう。
飯島明子 @a_iijimaa1 2015年4月6日
SunSun_fine 伊豆諸島航路や小笠原航路の船から、オキノタユウが普通に見られる日が来てほしいですね。今でも、稀にではありますが、見られるようにはなってきたとのことです。とても美しい、エレガントな鳥です。
麦🌱・* @Eachtime_Short 2017年4月28日
まとめを読み進めていくうちに、デコイに求愛したオキノタユウの話を思い出しました。 https://ja.m.wikipedia.org/wiki/デコイNo22 逸話の背景に希少種を保守しようというひとかたならぬ思いがあったことを初めて知りました。
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