屋代聡さんyashirosatoruの【専門バカは本当にいるか?-SOMETHING/EVERYTHING】

僕は、「教養」とは知識の多寡ではなく、この「全てについて何かを学び、何かについて全てを学ぶ」姿勢そのものを指すのだと思います。 そして現代の教育にこそ、この言葉が、不可欠だと考えています
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屋代 聡 @yashirosatoru

真理はあなたがたを自由にする。好きなもの:文学、哲学、歴史学/雪かき仕事/批判的精神/私は誰でしょう。敢えてお教え申しません。お教えせずとも、あなたは、いつか私を見掛ける。(太宰治「待つ」)

屋代 聡 @yashirosatoru

【専門バカは本当にいるか?-SOMETHING/EVERYTHING】

2014-03-12 12:28:04
屋代 聡 @yashirosatoru

徹夜で仕事した後、今朝がた、ある方から、歴史修正主義とホロコーストにまつわる説明をしてくれというメンションが来ました。一から説明するのは面倒なので、どんな本を読んでいるのですかと尋ねると、何も読まれていないようでした。

2014-03-12 12:29:24
屋代 聡 @yashirosatoru

「私の説明はいい。あなたは歴史学の大学教員だ。プロなんだろ?さぁ説明して。できないなら、あなたは専門バカだ!」 こんな返答が返ってきて、それでもちゃんと応対して参考文献まで示してあげたのですけど、こんなに優しい研究者は、おそらく日本で僕1人ですよ…。

2014-03-12 12:30:35
屋代 聡 @yashirosatoru

でもこういう、ちょっと残念な方との会話のなかでも、研究者というのは、すぐに思考がフル回転してしまうので、困ったものです(え、僕だけ?)

2014-03-12 12:31:23
屋代 聡 @yashirosatoru

ここで「専門バカ」という言葉が出てきていますね。これって、“自分の専門のことしかわからない”識者のことを揶揄しているのでしょう? やはり僕は、「わかってないのかなぁ」と思ってしまうのです。ちょっとまわりくどいけど、歴史学を例に説明しますね。

2014-03-12 12:32:10
屋代 聡 @yashirosatoru

例えば、歴史学の教員になるには、大抵、大学院文学研究科に進学するのですけど、この時点で、専門書がすらっと読めるくらいの「歴史」の知識が必要なのです。大学院によっては日本史、東洋史、西洋史、地理学、考古学のうちの2つの専門基礎知識が求められます。

2014-03-12 12:33:21
屋代 聡 @yashirosatoru

それに外国語の試験が必須です。たいてい西洋史の先生が作問するから、西洋史に関する専門知識を必要とする問題が出るんですよ(涙)。英文のレベルはそうですね…僕の受けたのは、英検準1級~1級のあいだくらいだと思います。

2014-03-12 12:34:24
屋代 聡 @yashirosatoru

これが院試の1次試験です。げ、まだあんのかよ・・・でしょ? あるんですよ笑。 これを突破した人だけで2次試験なのですけど、ここで問われるのはいっそうの専門知識と研究遂行能力(語学)、そして「センス」です。

2014-03-12 12:35:16
屋代 聡 @yashirosatoru

専門分野に関していっそう難易度の高い出題がなされます。「いわゆる飛鳥京における発掘成果の射程」「陵墓と記憶」「90年代の言語論的転回」「ターナーによるフロンティア学説とその超克」なんて感じの出題が、いきなりボーンと出る。古代~現代で何が出るか、その日までわからない。(泣)

2014-03-12 12:36:27
屋代 聡 @yashirosatoru

第2外国語ないし史料読解の試験は、資史料をその場で読むわけです。何が出題されるかわからない。わからない言葉が出てきても、何だろなぁ、前後からしてこれかな~あれかなぁ~、時代背景からして、この言葉が指すのはあの人かなぁなどと考える。(試験場で、ですよ。汗)

2014-03-12 12:37:07
屋代 聡 @yashirosatoru

もうぐったりじゃないですか?でも、これに卒業論文の口頭試問があるんですね(涙)。 受験生の研究史整理、構想、分析、序論と結論の整合性、今後の研究の可能性が判断される。受験勉強の知識なんかでは、全然足らないのです。ここで”知識はあるがセンスはない”とされたら、ハイそれまで。

2014-03-12 12:39:18
屋代 聡 @yashirosatoru

かく言う僕も、めっちゃ勉強しました(笑)。4年次は年間350日は大学に行きました。日曜日も。昼・夕食は毎日、学食。 これで通ると、やっと修士1年です。いやぁ、先は長いな笑。 (正直、今、院試うけたらペーパーテストで落とされるかもしれん)

2014-03-12 12:41:03
屋代 聡 @yashirosatoru

大学院の5年の研究がどんなものかは省きますが、ここでは「歴史学」について学ぶことになります。修行です。 古代~20世紀までの様々な研究発表を聴き、議論し、自らも発表する。 専門分野が違っても、質問と批判ができなくちゃいけない。 そして山ほど本と史料を読み、切磋琢磨。

2014-03-12 12:43:35
屋代 聡 @yashirosatoru

さてその後、大学教員になるには何が要るかといえば、それはまず「研究業績」なのです。どんなに勉強していても、研究業績が数篇なければ、非常勤講師にさえなれないのです。

2014-03-12 12:44:10
屋代 聡 @yashirosatoru

では研究業績とは何かというと、国内外を問わず「学術雑誌」に投稿し、掲載が認められるということです。 歴史学の場合、学術雑誌にはランクがあります。①全国学会が出している査読つき学術雑誌②大学の学部が出している雑誌③紀要、です。

2014-03-12 12:45:12
屋代 聡 @yashirosatoru

①は思いつくまま『史学雑誌』『史林』『日本史研究』『東洋史研究』『西洋史学』『歴史学研究』『歴史評論』『社会経済史学』など。これらへの掲載をまず目指します。②は大学が出していますが査読のレヴェルに差がありますので、ピンきりです。③は投稿すれば、まず載ります(ただし大学関係者のみ)

2014-03-12 12:46:25
屋代 聡 @yashirosatoru

就職するには、①②が複数必要です。最近は、これに加えて博士論文を書いていることが求められます。僕ももちろんそうしましたが、博論の本文字数の下限は、日本語なら16万字(原稿用紙にして400枚)ほどだと思います。 なおたいてい博論は、①②が複数ないと提出資格がありません。

2014-03-12 12:47:31
屋代 聡 @yashirosatoru

こうした同業者の厳しいチェックと指導教員の指導を経て、運が良ければ大学に採用されてゆくわけです。あくまでこれは歴史学の場合ですが。 さてここまで書いてくると、大学教員=専門バカはあり得るのでしょうか。

2014-03-12 12:48:23
屋代 聡 @yashirosatoru

歴史学でいえば、自分の専門および専門外の「歴史」の基礎知識、隣接諸領域の知識、「歴史学」の知識、語学力ないし古文書読解力または遺物に関する調査法、これに基づく研究史の整理と新たな構想…

2014-03-12 12:49:13
屋代 聡 @yashirosatoru

他の研究者の査読に耐えうる表現力、他の研究者が続きを読みたくなる射程を持った研究テーマを選ぶセンスなどを兼ね備えていなければ、論文は掲載されないし、歴史学の大学教員には、いつまでもなれないのです。

2014-03-12 12:49:52
屋代 聡 @yashirosatoru

専門バカに見えるセンセイも、実はこれくらい有しているのです。お分かりのように無知・無学ではありえません。「専門」のことしか知らないように見えても、“1つの専門を極めるため”に、実は他領域の玄人の本くらいは熟読しているものなのです。

2014-03-12 12:50:34
屋代 聡 @yashirosatoru

1つの専門を極めた人は偉大です。なぜなら偉大なスペシャリストは、必然的にジェネラリストだからです。

2014-03-12 12:50:57
屋代 聡 @yashirosatoru

専門バカはいません。 きっとこの国には、ジェネラリストであることを示すのを躊躇っている、シャイなスペシャリストが多いだけです。笑

2014-03-12 12:51:45