モーサイダー!~Motorcycle Diary~One Year Before II~

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IngaDo type-RR @mor_cy_dar

モーサイダー!~Motorcycle Diary~One Year Before II~ #mor_cy_dar

2014-03-16 22:35:06
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 三月二度目の週末がやってくると、三鳥栖志智(みとす しち)はまだ空が薄暗いうちからVT250スパーダにまたがって、大多磨周遊道路へ向かっていた。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:35:39
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(それにしても……いつも混んでるよなあ)  秋川駅にほど近い国道411号。、鳴り響く踏切のリズムにあわせて右足を踏みながら、列車が通り過ぎるのを待つ。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:35:46
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 振り返れば、そこには群れなすファミリーカーの行列があった。  とはいえ、車だけではない。路肩を、あるいは踏切がおりているから構うものかと、対向車線をすり抜けてきたモーターサイクルもまた志智の後ろに、さらには隣に並んでいる。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:36:08
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(多いよな……)  時刻はまだ朝七時を過ぎたあたりだ。志智はいつもこの道を使って大多磨周遊道路へむかっているが、どんな時間でも混み合っているような気がする。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:36:29
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(踏切の先にすぐ信号があるから、流れが悪くなって混むのかな?)  大多磨という観光地の引き寄せる人間の数を、志智はまだ知らない。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:36:38
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 何より、その人数に比して、国道411号という道路が明らかに貧弱すぎることもまた、高校二年生の少年に過ぎない彼にわかるはずもない。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:36:46
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「よし、行くか」  やっと電車が通り過ぎ遮断機があがると、1速に入れたまま握っていたクラッチを軽やかにリリースする。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:36:59
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 そして、同時にスロットルを軽く捻る。VT250スパーダのような250ccのマシンでは、大型のようにとりあえずクラッチをつなげば前へ進んでくれるわけではない。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:37:07
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(最初の頃は何度もエンストして……恥ずかしかったよな)  今では、眠っていてもうまく発進することができるのではないかと思えるほど、志智の両手は自然に同調している。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:37:15
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 もっとも、それでも排気量差にはかなわない。迫力のある━━もっとはっきり言えば、はた迷惑なエキゾーストノートをかき鳴らして、真っ赤なスーパースポーツマシンが、発進で志智を追い越していく。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:37:28
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 そのまま、黄色信号へ変わろうとする交差点を加速にまかせて突っ切っていった。志智のVT250スパーダはほんの一歩、交差点を抜けられない。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:37:32
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「……ちぇっ」  ━━負けた。  無視してもいい些細な出来事であることは、志智にもわかっていた。誰も自分と、あのCBR1000RRが勝負をしていたなどとは思っていないし、志智自身もそうだった。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:37:40
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(なんか……悔しい気分だよな)  それでもモーターサイクルライダーは、前へ出ることに特別な意味を感じてしまう。後ろにいることは、負けていることなのだと、なぜか解釈してしまう。  それは若さや性別では説明できない。ライダー特有の感覚だ。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:37:48
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「……この先の信号のタイミング次第でまだ追いつけるかもな」  青。勢いよく加速しようとしたその刹那。スパーダの脇を、高速巡航状態でやってきたロードバイクが突っ切っていく。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:38:03
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 風が逆巻くこともなく、排気音が轟くこともなかった。それでも新鮮な驚きを志智は感じてしまう。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:38:06
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「………………あれには、負けてもいいよな」  苦笑しながらも、これから自らの脚力だけで大多磨の山を登っていくであろうその背中に、志智は声援を送りたい気分だった。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:38:13
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

~~~~~~Motorcycle Diary~~~~~~ #mor_cy_dar

2014-03-16 22:38:26
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 休日のワインディングを満喫しようとすれば、その方法はたった二つしかない。それは早朝か、日が沈む直前か━━ 「ふぅっ……危なかったな」  大多磨周遊道路・川野駐車場から、ちょうど反対側の終着点にあたる都民の森まで一往復。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:38:38
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 先週とは異なって、凍結の心配もなく、そしてライダーにとって忌むべき塩化カルシウムの白い点もほとんどみられないグッドコンディションの路面。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:38:49
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 春一番のワインディングをぞ存分に堪能して、戻ってきた志智が見つけたのは、ふるさと村信号手前で今まさに取り締まりを始めようとする、紺色の制服を着た人々だった。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:38:53
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「そうか……あそこで取り締まりするんだな。  捕まったら冗談じゃないよな」  香蘭橋を渡りながら、すれ違うレーサーレプリカに届かぬ心の声を送る。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:39:05
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 この先で取り締まりやってるぞ。そんな意思を伝える方法があればいいのに。そんなことを考える志智が、ハンドサインの存在を知るのはしばらく後のことだ。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:39:13
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「さて、と」  川野駐車場へ滑り込み、スパーダのエンジンを停止させる。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:39:23
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 風が心地よかった。  気温も順調に上がっているようだ。いよいよシーズンインといった晴天に誘われたかのように、まだ午前十時にもならない川野駐車場は、二輪でいっぱいになりつつある。 #mor_cy_dar

2014-03-16 22:39:31
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