【実況】 ゲイシャ・カラテ・シンカンセン・アンド・ヘル #1(発掘)
重金属酸性雨に湿ったコンクリートの壁に、アミーゴハットを被ったスモトリの奏でるアコースティック・ギターの乾いた音色が、ゼンめいた調和とともに響き渡る。カウンター上に掲げられたバッファローの頭骨が「本格派」とミンチョ体で書かれたネオンサインの火花によって、ピンク色に照らし出される。
2011-08-10 00:13:12カソックコートを纏い、ウェスタンハットで顔に影を落とした男が、暗い奥の席に独り。ブラウン管テレビに映る相撲映像を眺めながら、バンザイ・テキーラを呷る。スモトリの爪弾く曲が、伝説のヨコヅナ「オオキイウミ」の勇ましい入場テーマに変わった。男は自然と、ブーツの踵と木床でリズムを取る。
2011-08-10 00:25:56見も知らぬ女が、男の向かいの椅子を引いた。その服装から察するに、ゲイシャだ。「合席してもいいかしら?」と問う。男は機嫌が良かった。『酒』、『暗がり』、『音楽』、『ゼン』……ここに『失われた日常』の手札を作るための最後の一枚、『女』が揃ったからだ。男は頷き、帽子を脱がずに会釈した。
2011-08-10 00:35:09「トビッコ・ギムレットを奢らせてくれよ」男は昔のように言った。「悪いわ」ゲイシャは作法どおり断ると、どこか寂しげな笑みを浮かべながら、男の向かいの木椅子に座った。「そう言わず」「じゃあ」。すると行司が、爽やかなターコイズ色の宝石のようなトビッコの沈むギムレットを運んできた。
2011-08-10 00:43:23二人は、しばらく静かに会話を楽しんだ。男はテキーラを浴びるように呑んだが、シツレイな酔い方は決してしなかった。ゲイシャは、男の全身から漂う猛烈なアルコール臭に気付きはしたが、カソックコートの奥から密かに発せられる腐臭や、肋骨を伝って床に垂れるテキーラには気付かなかった。
2011-08-10 00:49:42男の名と静かな日常は失われて久しい。彼の現在の名はジェノサイド。腐り行く肉体を持つ、呪わしきゾンビーニンジャだ。相撲バーの暗いアトモスフィアと、ウェスタンハットの影に隠された彼の顔は、包帯めいた黒ニンジャ頭巾で覆われている。彼の目に瞼は無く、歯列を隠す肉さえも腐り落ちているのだ。
2011-08-10 00:55:39ゲイシャはユリコと名乗った。男は頑なに名乗らなかった。彼女はどうしてか、名も知らぬこの男に惹かれた。気がつくと、話すつもりの無い事まで話していた。前の男に棄てられ、ネオサイタマで仕事を続けることも難しくなったので、キョート・リパブリックで人生の再出発をはかるのだと彼女は語った。
2011-08-10 01:06:21「新幹線か?それとも空路か?」男がテキーラを呷りながら訊いた。「新幹線よ、金もないから」ユリコはトビッコ・ギムレットのようにドライに笑った。「命がけだな」「人生なんて、そんなものでしょ」そう答えつつも、目の前の男が車中で横にいたらどれほど頼もしいものかと、ゲイシャは思うのだった。
2011-08-10 01:11:58「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」薄暗いステージでは、スモトリがギターを裏返し、ボディを手で叩いてリズムを取る。もう一人のスモトリが、情熱的かつどこかひっ乾いたバンジョーのソロをかき鳴らしながら、店内を歩き回っていた。その時!ウェスタン風のドアを押し空け、4人のニンジャが不意に姿を現す!
2011-08-10 01:18:42「ニンジャ?!ニンジャナンデ?!」女は反射的に絶叫を上げた!テーブルの上をタンブリング技で飛び渡りながら、ニンジャ達は一直線に接近してくる。「アバーッ!」スモトリが死亡!「アイエエエエ!」客が卒倒!「アッ!」行司が死亡!「アイエエエエ?!」客が失禁!「アバーッ!」スモトリが死亡!
2011-08-10 01:29:04