【第二部-伍】想いを閉じ込めた榛名と比叡　＃見つめる時雨

とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

第二次サーモン海戦。私達舞鶴の艦隊は、敵主力機動部隊を殲滅し、制海権を得ることができました。まだまだ予断を許さない状況ではありますが、こうして全員無事に帰投することが出来て、本当に良かったです。そして今夜、鎮守府でその慰労会を行なって頂けることになりました。

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食堂には沢山のお料理が並び、壁には今回の作戦で出撃した皆さんの名前が書かれた紙が貼られていました。総勢18人…今回の作戦が総力戦であったことを改めて思い知らされます。本当に、誰一人欠けることなく、作戦を成功させることが出来て良かった…。

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「金剛お姉様、大活躍だったんですよ！」 比叡お姉さまが金剛お姉様のことを自慢気に話しています。金剛お姉様は今回の出撃で、敵空母を何隻も沈め、また新型深海棲艦…レ級の雷撃を発射前に止めるなど、その活躍は素晴らしいものでした。妹として、とても誇らしいです。

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でも、比叡お姉様も、金剛お姉様に負けないくらいの大活躍でしたのに、あまりそのことは話していないようです。もっとご自分の活躍をアピールしてもいいのに…。だけど、比叡お姉様のそんな謙虚なところも、榛名は好きです。 「そういえば、榛名もすごかったんですよ！」 「…え！？」

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比叡お姉様が私の隣に来て、皆さんにお話を始めました。は、恥ずかしいです、お姉様…。 「でね、榛名が敵艦隊の旗艦を撃沈させたんです！ね、榛名！」 「は、はい…。でも、比叡お姉様が護衛の艦を撃沈させてくれたから、出来たことです。比叡お姉様のお陰です」

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「そんなことないって！榛名が頑張ったんだよ」 そう言うと、比叡お姉様は榛名の頭をくしゃくしゃと撫でてくれました。なんだかくすぐったいです…。比叡お姉様の撫で方は少し大雑把な感じなんですけど、とっても優しくて、榛名は好きです。荒いのに優しいって、ちょっと可笑しいですね。ふふ

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「あ！お姉様！」 席を外していた金剛お姉様が戻ってきたようです。それに気づいた比叡お姉様は、金剛お姉様の元へ行ってしまいました。…なんだか、頭が涼しく感じます。私は自分の頭に手を置いてみました。まだちょっとだけ、温かい気がしました。

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「難儀ね、榛名も」 「…余計なお世話です」 いつの間にか、霧島が隣に座っていました。そして無言でサンドイッチが乗ったお皿を私の前に差し出してきます。食べろってことでしょうか。…霧島なりに、気を使ってくれてるのかな。相変わらず、変なところで不器用です。私そっくり。

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…霧島の言いたいことはわかってます。でも榛名は、お姉様達が笑顔でいてくれれば、それでいいんです。皆がこうして榛名の傍にいてくれるだけで、榛名には十分過ぎますから。 「私は、大丈夫です」 「…馬鹿ね」 霧島に溜息をつかれてしまいました。…そうですね。私もそう思います。

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霧島は少し機嫌の悪そうな顔をして私を見ました。 「少しは自分を主張したらどうなの。傍から見てイライラするわ」 …それが出来たら苦労はしません。私だって欲しいものはあります。でも、もし相手が迷惑に思ったら、相手の負担になってしまうのだと考えたら、出てくる言葉はいつも一緒でした。

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霧島の二度目の溜息が聞こえてきました。そんなに溜息をついていると、幸せが逃げてしまいますよ。だから私なんかの為に、溜息をつかないで。 「…まぁ、いいわ。今日みたいな日にこんな話は止めましょう。何か飲む？持ってきてあげるわ」 「あ、いいですよ。私も行きます。一緒に行きましょう」

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「ねぇ、霧島」 「何？」 「…お姉様には、何も言わないでください」 「……」 霧島が、いつまでそうしてるつもりなの？と言いたげな視線で私を見ました。でも、私は気づかないフリをしました。今日はこの話はおしまい、ですよね？　だから、私もこれ以上答えません。

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「あ、榛名、榛名！」 比叡お姉様が私を呼んでいます。何でしょう？そう思っていると比叡お姉様が近づいてきて、榛名の手を掴みました。 「提督が旗艦撃沈の功績に対して榛名を表彰してくれるって！おめでとう！」 そう言って、比叡お姉様の手が榛名を引いていきます。

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手を握る比叡お姉様の手を見て、このまま何処かへ攫っていってくれないかなと思ってしまった榛名は、いけない娘です。一瞬でも、比叡お姉様と二人だけで暮らす夢を思い描いた榛名は、いけない娘です。比叡お姉様がこうして榛名に触れてくれる距離にいる、それだけでいいんです。大丈夫、です――

誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「あーあ、私も最前線で戦いたかったわ…」 山城がプチシュークリームを食べながら愚痴をこぼす。今回の第二サーモン海戦で、僕達は金剛や熊野たちの支援に回った。制空権を諦めて敵の航空攻撃を躱しながら突き進むという作戦行動だったので、低速の山城達よりも金剛達が選ばれたのだろう。

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でも僕達の支援射撃は、金剛達の道を切り開くのに大きく貢献できた。だから、もっと胸を張ってもいいんじゃないかなって僕は思うよ。ほら、山城だって支援艦隊の旗艦として表彰されたじゃない。 「…近く大規模作戦が行われるって提督が話してるし、今度こそ活躍してみせるわ…」 山城が言う。

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「山城！」 比叡が近くにやってきて、山城の隣に座った。 「…何よ」 山城はあからさまに不機嫌そうな顔で比叡を見た。比叡は気にする様子もなく、言葉を続ける。 「今回はありがとう！山城達のお陰で、敵の警戒線を突破できたよ！」 「…ふん、当たり前じゃない。そうでないと困るわ」

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「でも、次は私と扶桑姉様で行かせてもらうわ。今度は貴女達が支援をお願いね」 山城が比叡に指を指しながら言う。それに対して比叡も負けじと指で山城を指した。 「次の大規模作戦は機動部隊主力の作戦って噂だよ？空母の方達に随伴するなら私達の方が適してるって！」

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「水上機での援護が有効になるかもしれないわ。それに対空火力は私達の方が上よ」 二人はこうして張り合っているのをよく見る。でも、いざとなると息のあった連携をするんだよね。よく比叡は山城に相談事を持ち込んでるみたいだし、山城も突っぱねたりはしない。何だかんだ仲いいんじゃないかな。

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「…でも、今回は本当に助かったよ。ありがとう、山城」 「…あんたもね。お疲れさま」 二人はそう言ってグラスをチンっと合わせた。ほらね。何だかこういう関係っていいなって思う。ふふ。 「…何笑ってるのよ、時雨」 山城がジトッとした目で僕を見た。あれ、顔に出てたかな。

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「時雨のくせに生意気っ」 椅子に座っていた山城の手が伸びてきた。僕は慌てて逃げようとしたけれど捕まってしまい、背中から抱き抱えられてしまった。 「わぁ！？離してよ山城！くすぐったいってば！」 山城の顔は見えないけれど、きっと照れてるんだろうな。でも、酷いとばっちりだなぁ

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「ふんだ。うりうり」 山城の手が僕のお腹をくすぐる。いや、ちょっと、これ、結構キツいってば！色んな意味で！ 「山城！やめ…はぁ…んっ…！？」 手加減というものは全く感じられなかった。わりと本気で息ができない。あの、山城、そろそろ止めてくれると、嬉しいな…

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「…時雨、ぐったりしちゃったけど、大丈夫なの？」 「いいのよ。当然の報いだわ」 ようやく山城が手を止めてくれた。呼吸を整えながら思う。…僕、そんなに悪いことしたっけ…。 「…それより比叡、あんた金剛とはどうなの？あれから進展あった？」