モーサイダー!~Motorcycle Diary~One Year Before III~
- IngaSakimori
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モーサイダー!~Motorcycle Diary~One Year Before III~ #mor_cy_dar
2014-03-23 20:31:51三月三度目の週末。 土曜日の雨は夜遅くに止んだ。千歳と一緒に昼食を済ませると、三鳥栖志智(みとす しち)は大多磨周遊道路へ向かう。 #mor_cy_dar
2014-03-23 19:58:41(ふうん……このくらい時間だと、まあまあ空いてるのかな……) 小河内ダムを左手に眺めながら、曲がりくねった湖畔の道を駆け抜ける。 #mor_cy_dar
2014-03-23 19:58:56志智にとってその場所は、すぐ前走車に追いついてしまい、しかも追い越しのできる直線も少ないというイライラがつのる道なのだが、この日は偶然にも前を遮るものに出会わなかった。 #mor_cy_dar
2014-03-23 19:59:12「よ……っと」 VT250スパーダの車体を大きく右側へ倒しこむ。心地よいコーナリングのGが上半身に押し寄せた。 ガードレールと1メートルほどの間隔を保ったまま、スロットルはパーシャルをキープする。メーターの針は時速50kmを指していた。 #mor_cy_dar
2014-03-23 19:59:23(あんまし速度出せないよな……) もっと早く曲がりたい。この心地よい感覚をもっと堪能したい。そうは思うが、今の志智にはこれが限界に思える。 #mor_cy_dar
2014-03-23 19:59:33(こんなに倒しこんでるんだし、このくらいがこのリミットなのかな?) ━━と、そのとき。 #mor_cy_dar
2014-03-23 19:59:42「お……!?」 一台のフルカウル車が志智のスパーダを追い越していった。 もっとも、現代的なスーパースポーツのように洗練されてはいない。一時代古いマッシヴなカウルが、その存在を主張している。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:00:03(Z……Z……Rとか書いてあったかな?) 見るからに重そうな大型ツアラーだ。 だが、後方に位置する志智が驚愕してしまうほどの高速で、そのZZR1100はコーナーへ進入する。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:00:10テールランプが光り、お辞儀をするように車体の前方が沈み込んだ。そして、決してフルバンクとは言いがたいほどの角度で、そのマシンは悠然と立ち上がっていく。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:00:19(えっ……あんなスピードでも曲がれるのか) あんなに大きなバイクができることなら━━自分も。 それは当然の思考ではあったが、未熟なライダーにとって死神のささやきにも等しい。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:00:32「うげ!!」 騙された。そう口にしたい気分で、志智は迫り来るガードレールを見つめる。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:00:56曲がれない。そして、曲がらない。必死でスパーダを倒しているが、あのZZR1100のようには、なぜか曲がってくれない。 ライダーも含めた総重量では、およそ100kgの差があるにも関わらず、だ。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:01:04「っ……う、ぐぐぐ!!」 フロントブレーキをぐっと握りしめると、バンクしていた車体が急激に起き上がった。それがなぜか、志智にはまだ分からない。けれども、瞬時に理解できるのはますますもってガードレール直行コースであることくらいだ。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:01:15しかも、その先にあるのは切り立った崖のような法面……そして、小河内ダムの湖面なのだ。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:01:24(冗談じゃ……ダムなんかに落ちたら……!) ━━志智にとって幸いだったのは。 たとえコーナリングが未熟でも、ブレーキについては志智のおぼつかないスキルに、VT250スパーダが絶対的な軽量で応えてくれたことだろう。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:01:33「と……っと、く……くはぁ!!」 ぐらぐらと無様に車体を揺らしながら、時速20km程度までスピードを落とし、やっと志智はスパーダを立て直した。 もはやコーナリングとはいえない、ハンドルを大きく切った状態で、ガードレールスレスレの白線をなぞっていくだけだ。#mor_cy_dar
2014-03-23 20:01:46「なんでだ……あのでかいのに乗ってる人が、うまいってことなのかな……?」 冷たい汗が垂れる背筋と、鼓動を爆発させている心臓。 そのままどこかに停車して、大きくため息をつきたい気分を押さえながら、それでも三鳥栖志智は大多磨周遊道路を目指して走る。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:02:08「………………あっ」 そして気づく。 なぜ、こんな大事なことを忘れていたのだろう。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:02:31「そうだった……俺はもういつ死んでもいいんだった……」 次は、止まろうとなどしない。 志智は強く思った。脳裏にあるのは千歳の笑顔だった。 とはいえ、体が心に従うかどうか━━それは別問題なのだ。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:02:39「……嫌な奴に会っちゃったな」 「あら、失礼な人ですわね。他人の顔をみるなり、そんなセリフを吐くなんて」 「不満ならお前も同じこと言っていいんだぜ。 目には目って言うもんな」 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:04:02大多磨周遊道路・川野駐車場にたどりついた志智の視界に飛び込んできたものは、何かを誇るようにXR650Rにまたがった姿勢で、腕組みしている金髪ツナギ姿の美少女━━つまり亞璃須(ありす)だった。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:04:24「ふふん。確かにあなたにとっては、嫌なわたくしかもしれませんわね。 およそバイクに乗ることでは、何一つかないませんものね」 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:04:38「……言ってろよ。 大型に乗ってるから、必ずうまいってわけじゃないだろ」 険悪な口調で言い返す志智だったが、その語尾はかすかに震えている。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:05:01