古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #12

更新十二回目のまとめです。 建造で鎮守府にやってきた青葉。 そして青葉の過去を全て知った衣笠に、自分の意思を告げる古鷹、そして青葉。
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古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「『これが、報いなんですね』と……」 建造でこの鎮守府にやってきた時、青葉が一人ごちたという言葉。私が顔を向けると、それを言った雷ちゃんがびくりと体を震わせた。今の私は、そんなにひどい顔をしているのだろうか。電ちゃんの肩に雷ちゃんが片手を置き、雷ちゃんがおずおずと話し始めた。

2014-03-28 23:53:07
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「……青葉さんだけだったのです。この鎮守府にやってきて『自分がここにいるのが信じられない』ような素振りをしていた艦娘さんは」 電ちゃんが青葉建造当時の様子を語る。その声は小さくもしっかりしていたけれど、目にはわずかながら涙をためていた。ぶかぶかの袖からのぞく手が小さく震えている。

2014-03-29 00:00:41
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「青葉さんは、しばらく周りを見回していました。自分の体を触って確かめて……。そして、『これが、報いなんですね』と……。電は、電は、何も言ってあげられなかったのです……」 電ちゃんの目から涙があふれる。青葉が「報い」だなどと言った理由は、もはや言うまでもなかった。

2014-03-29 00:09:39
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉は、艦娘としてこの世界に生まれ変わりたくなど、なかったのだ。

2014-03-29 00:11:37
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長い、長い沈黙が執務室を支配していた。聞こえるのはしゃくりあげる電ちゃんのすすり泣きだけ。雷ちゃんがその頭を抱いて慰めていた。一方、私は相変わらず涙も出なかった。ただ目に映る執務室や暗い面持ちをした艦娘たちを、どこか非現実的な光景であるかのように眺めていた。

2014-03-29 00:18:06
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

泣きやんだ電ちゃんが続ける。 「……それからすぐ、青葉さんはがらっと様子が変わって、『どうも、恐縮です!青葉です!一言お願いします!』と……」 ああ、「いつもの」青葉だ。明るくて、能天気で、お調子者で、好奇心旺盛な「いつもの」青葉。……仮面の、青葉。

2014-03-29 00:24:28
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「……青葉は、罪滅ぼしのためにやっとるのじゃないかの。取材と記事を書くのは」 利根がおもむろに口を開いた。 「この鎮守府で起きた椿事はことごとく記事にしとるが、あやつ醜聞は書かんじゃろう。あやつが書くのは誰それが戦闘で活躍したとか誰と誰の熱愛が発覚したなどといった記事ばかりじゃ」

2014-03-29 00:32:12
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

そう言えば、この間の伊勢さんと日向さんがケンカの果てに戦艦寮の壁を壊した時も、青葉の記事にはそれを咎めたりあざ笑ったりするようなニュアンスはなかった。むしろ、あえて他愛もない笑い話として受け取れるよう編集されていたきらいがあった。 「これはあくまで吾輩の推測じゃが……」

2014-03-29 00:39:15
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

利根が、言葉とは裏腹に確信を持った口調で続けた。 「その昔、悲惨な戦いを強いられ次々に沈んでいった艦たちが……青葉が見捨ててきたと思っとる艦たちが、いま艦娘として生まれ変わって幸せにしとるところを自分の目で見たくて、それを確認したくて記事を書き始めた……そんなところではないかな」

2014-03-29 00:47:21
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

利根の言葉に、私は深く頷いた。 青葉。一人生き残ってしまって。罪悪感に押しつぶされて。それだけが償いになると信じて。呉でやっとの思いで沈んで。それなのに再び艦娘としての生を受けてしまって。それを今なお続く報いだと思い込んで。二度目の生を罪滅ぼしに捧げようと決めて……。

2014-03-29 00:55:28
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉の過去など聞かなければ良かったかもしれない。青葉の本当の苦しみなんて知らないままでいられたら良かったのかもしれない。何も知らないまま、ただ青葉の妹として……。けれど、青葉の過去を知ろうとしなかったとしても、いつか否応なく私の目の前に真実は突き付けられただろう。そう、否応なく。

2014-03-29 01:00:57
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

ぼんやりと、鎮守府の廊下を歩く。青葉をどうにかしてあげなきゃいけないのに、青葉のことを考えなきゃいけないのに、思考は空転するばかり。受け止めきれないなら、なぜ青葉の過去を調べようとなんて考えたの。頭の中でそんな声が響く。耳をふさぐことすらできない。 「……衣笠?ねえ、衣笠!」

2014-03-29 01:08:26
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「……古鷹ねーさん?」 いつのまにか目の前に古鷹ねーさんがいて、私の体を揺すっていた。 「ああ、衣笠、良かった……。何度呼んでも返事してくれないから、本当に心配で……」 やめて。私には、古鷹ねーさんに心配される資格なんてない。だって、青葉のために私は何もしてあげられない。

2014-03-29 01:14:26
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「衣笠、顔色悪いよ……」 古鷹ねーさんの両手が私の頬に添えられる。古鷹ねーさんの顔が見られず、私は目を伏せた。右手で左肘のあたりをぎゅうっと掴む。肉も裂けよとばかりに。 「ねえ、衣笠」 古鷹ねーさんの気遣わしげな声が今はいたたまれない。 「青葉のことは、もういいから」

2014-03-29 01:23:34
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

はっと顔を上げ、古鷹ねーさんを見た。今、なんて。古鷹ねーさんの顔は、さびしげに微笑んでいた。 「衣笠、青葉と私を仲直りさせようって、ずっと頑張ってくれてたんでしょう?こんなになるまで、ずっと……。でももう、いいんだ」 なんで。どうしてそんなことを言うの。嫌だ。古鷹ねーさん。

2014-03-29 01:30:29
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

心の中で痛みと叫びが渦巻く。けれど、私は一つとして言葉に出来なかった。 「青葉だって、私と顔を合わせたくないだろうし……衣笠や皆にも迷惑かけちゃってるし」 今度は古鷹ねーさんが目を伏せた。その姿はどこか弱々しく、さみしげで、身に余る強がりを張る小さな子供のようだった。

2014-03-29 01:38:40
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

古鷹ねーさんはそれで平気なの。かろうじて、それだけ言葉になった。目を伏せたまま、古鷹ねーさんが言う。 「……平気だよ。加古も、衣笠も、鎮守府の皆だっているし」 どう見たって、古鷹ねーさん平気じゃないじゃない。ねーさん言ってたじゃない。「また4人で一緒にいられたらいいね」って。

2014-03-29 01:46:17
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

それでも、私は古鷹ねーさんに手を差し伸べることができなかった。何もできない、私には。 ……古鷹ねーさんは、昔から私の憧れのひとだった。古鷹ねーさんみたいなひとになりたかった。困った誰かを助けられる、優しくて強いひとに。 それには、なれなかった。

2014-03-29 01:51:14
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「……古鷹」 黙りこくったまま立ち尽くす私の背後から、雷ちゃんの声がした。古鷹ねーさんが未練を振り切るように駆け寄り、私とすれ違う。雷ちゃんはバツの悪そうな顔をしていた。 「ごめんなさい、提督。遅くなりました」 「呼び出して悪いわね、古鷹。秘書艦の加古が全然仕事しないもんだから」

2014-03-29 01:57:59
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雷ちゃんのバツの悪そうな表情の理由は、すぐに察しがついた。加古のフォローに古鷹ねーさんを呼び出したせいで、青葉の過去を聞かせたばかりの私と古鷹ねーさんとを出くわさせてしまったことを気にしているのだろう。私は、気にしないでと言ったつもりで首を小さく左右に振り、その場を離れた。

2014-03-29 02:06:45
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

泥のように重い気分を抱えて、私はベッドから身を起こした。どうやって部屋に帰ってきたかも覚えていない。時計を見ると、もう夕方になっていた。利根たちに話を聞いたのが朝食の後だったから、昼食もとらずに今までずっと寝ていたのか。そう思うけれど、なんの感情も湧いてこない。

2014-03-29 02:12:30
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

それでも、身体は習慣的に身支度を整え、生命を維持するために夕食をとるべく食堂へ向かう。心はボロボロでも身体は生きようとする。空しさすら感じた。そして、食堂には――青葉がいた。

2014-03-29 02:21:17