古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #13

更新十三回目のまとめです。 古鷹が青葉をかばったサボ島沖夜戦の記憶、そして衣笠が沈んだ第三次ソロモン海戦の記憶。 衣笠を気遣う加古と、天龍と龍田。
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古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

真っ黒な夜を、私たちは走っていた。単縦陣の先頭は青葉、その次に古鷹ねーさん、そして私。単縦陣の右斜め前で警戒に当たるのは吹雪、左は初雪だ。ええと、私たちは何をするんだっけ?ああそうだ、味方の輸送作戦の支援のために、敵の飛行場を砲撃するんだった。サボ島沖を通って、ガダルカナルへ。

2014-03-30 15:06:05
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

サボ島が見えてきて、私たちは砲撃の準備を整える。と、その時青葉が何かを発見したようだった。私も目を凝らす。艦影が三つ。「目に見ゆるものはすべて先ず敵と見よ」が戦場の鉄則だ。全員に緊張が走る。ところが、青葉は首をかしげている。味方の輸送隊かもしれないと疑っているのだろうか。

2014-03-30 15:11:01
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

そんな迷っていたら、あれが万一敵だった時に大変なことになる。なんとか青葉にそう伝えられないかと思っていた矢先、青葉が味方識別信号を発信した。そのまま手をかざして目を凝らしている。そして、びくりと体を震わせた。青葉が慌てて戦闘態勢を整えるのと同時に、敵弾が青葉に命中した。

2014-03-30 15:17:17
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

あたりが眩い光に照らされ、私たちを包んでいた闇が取り払われた。敵が照明弾を撃ったのだ。先頭を行く青葉に、敵弾が次々に殺到する。 「青葉!」 思わず叫ぶ。見れば、私たちの前途を扼するように前方の海上に敵艦がずらっと並んでいた。形勢は丁字不利。私は全身の毛が総毛立つような思いがした。

2014-03-30 15:22:38
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉が右に転舵して逃れようとする。すでに艦橋はボロボロで、主砲も破壊されて反撃もできない。私は左に転舵した。このまま戦っても、順番に敵の集中砲火を浴びて次々に沈む。まずは敵から距離をとらなければ。けれど今なお青葉が敵弾を食らい続けている。唇を噛む。その時、視界の端で何かが動いた。

2014-03-30 15:28:14
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

振り返ると、私と同様左に転舵していたはずの古鷹ねーさんが右に舵を取り直していた。高角砲を撃って反撃しながら、青葉の方に近づいていく。けれど、それはつまり敵に近づいているということでもあった。古鷹ねーさんが顔の左側に手を添えた。やめて、と叫ぶ。古鷹ねーさんが、探照灯を照射した。

2014-03-30 15:33:35
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

敵艦が一瞬怯んだようにも見えた。けれど即座に砲を巡らせ、格好の的となった古鷹ねーさんに照準する。そして、古鷹ねーさんに敵弾が降り注いだ。 「だめ、古鷹ねーさん、逃げて!」 私の叫びもむなしく、古鷹ねーさんは砲を撃ち続けた。艤装に敵弾が当たる嫌な音がする。次々に火の手が上がる。

2014-03-30 15:39:33
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

艦尾から煙幕を展開してなんとか敵の手から逃れようとしていた青葉も振り返り、驚愕に目を見開いた。一瞬立ち止まろうとしたけれど、歯を食いしばって前を向き、そのまま煙の中に消えていく。ここで立ち止まったら、古鷹ねーさんの奮戦が無駄になる。そう自分を叱咤したのが手に取るようにわかった。

2014-03-30 15:45:18
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

敵前に取り残された古鷹ねーさんと吹雪に、なおも敵弾が襲い掛かる。煙幕に身を隠した青葉を狙えなくなった砲も、それに加わった。圧倒的な数の敵弾が降り注ぐ。古鷹ねーさんの魚雷発射管に敵弾が命中し、大火災となった。吹雪にも着弾。そして大爆発を起こした。弾薬庫に引火したのだ。

2014-03-30 15:53:43
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

ふらふらと吹雪が倒れこむ。そのまま、ゆっくりと沈んでいく。私の目から、涙がこぼれる。 「だめ……やめて……」 私と同じく左に転舵した初雪と共に、しゃにむに砲を撃ちまくる。何発かが敵艦に命中する。けれど、敵の猛攻は衰えも見せずに二人を傷付けていく。私には、何もできないの。

2014-03-30 16:02:29
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

私の周囲に水煙が上がった。見れば、敵艦の一部が反転した私と初雪に追いすがり、砲撃を加えている。そちらに反撃しつつ、私は機関全速で退避に移った。古鷹ねーさんを残していきたくはなかった。戻って、古鷹ねーさんと共に戦いたかった。けれど、ここで私が戻れば第六戦隊が全滅する。

2014-03-30 16:07:49
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

後ろを振り返る。その体を炎上させながら、古鷹ねーさんが戦っていた。砲はほとんど破壊され、魚雷は発射前に誘爆した。けれど、戦っていた。怯みもせずに、今なお戦っていた。その姿が、涙で歪む。 「古鷹、ねーさん……っ!」 戦場が遠くなる。見ていることしかできない自分自身が、呪わしかった。

2014-03-30 16:16:46
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

母港に帰りついた時、青葉はボロボロの体で座り込み、膝を抱えて泣いていた。「ごめんなさい。ごめんなさい」と何度も繰り返していた。古鷹ねーさんの救援に駆逐艦が向かった。叢雲が帰ってこなかった。古鷹ねーさんも帰ってこなかった。サボ島沖の戦いが、終結した。

2014-03-30 16:24:43
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

突然あたりの風景が切り替わった、私は敵機の飛び回る青い空の下、海面をのろのろと進んでいる自分を見出した。そうだ、ガダルカナルの飛行場を取り戻すために出撃したんだった。古鷹ねーさんの仇をとるために。けれど、それにも失敗した。鳥海、摩耶、鈴谷、五十鈴と共に撤退しているところだった。

2014-03-30 16:34:55
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

敵の飛行場や空母から発進した敵機が繰り返し襲来し、私は魚雷を食らって艦隊から落伍した。巻雲ちゃんが心配そうに付いてきてくれている。これまでいくつもの魚雷を、爆弾を回避してきたけれど、この後の運命を私は知っている。そして、ついにその時がやってきた。前方に三本の雷跡が見えた。

2014-03-30 16:41:43
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

それを回避すべく、舵を切る。魚雷の走ってくる角度を見極めようと、目を凝らす。それが命取りだった。乗組員の誰かが叫んだ。 「敵機後方!急降下!」 振り返った時には、もう遅かった。視界がスローモーションになる。急降下爆撃機が放った爆弾が、ゆっくりと落下してくる。身体が動かない。

2014-03-30 16:47:41
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

視界いっぱいに広がった爆弾が、艦橋に直撃した。不思議と痛みは感じなかった。艦橋にいた艦長さんや副長さんたち皆を守れなかったことがわかった。ゆっくりと体が沈んでいく。巻雲ちゃんの泣き顔が見える。ごめんね、巻雲ちゃん。ごめんね、加古。ごめんね、青葉。ごめんね……古鷹ねーさん。

2014-03-30 16:54:30
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

空に、手を伸ばした。晴れわたった綺麗な青い空。その空に、二つの白い雲が浮かんでいた。

2014-03-30 17:01:15
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

瞼を開ける。見慣れた自室の天井が目に入った。身体を包む布団の感触もいつも通り。ああ、昔の夢を見ていたのか、と気づく。こんなこと、艦娘になってから今まで一度もなかったのに。全身に書いた寝汗の感触が気持ち悪い。身体を起こそうとすると、頭の上に誰かの手があった。

2014-03-30 17:07:47
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

頭上に目をやると、細く結わえられ、腰までまっすぐ伸びた黒髪が見えた。 「起きた?衣笠」 私の寝ているベッドの脇に腰かけた加古が、私の頭を撫でていた。悪夢を見ていた私をあやすように、優しい手つきで。一瞬呆けた後、私は加古の手を振り払って飛び起きた。

2014-03-30 17:13:31
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「何してるのよ加古!?」 「何って、衣笠がうなされてたからさ、せめてなんかしてあげられることないかと思って」 ベッドに座ったまま加古が私を見返してくる。かすかに微笑みながら言う加古のまなざしは、優しげで温かかった。どこか、古鷹ねーさんに似ていた。

2014-03-30 17:20:18
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

一瞬それにすがりつきたくなる。けれど、だからこそそれに甘えたくはなかった。 「私のことなんかどうでもいいのよ!それより、青葉が、古鷹ねーさんが……っ!」 昨日の記憶が蘇る。もう私のことはいいからと告げた古鷹ねーさん。もう構わないでくれと突き放してきた青葉。もう私には何もできない。

2014-03-30 17:25:45
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

思い出すだけで涙があふれそうになる。それを加古に見られたくなくて、袖で顔を拭う。 「うん……辛かったね、衣笠」 加古がまた私の頭に手を伸ばしてくる。思わずそれを振り払った。自分が思っていた以上に力がこもって、加古が驚いた顔をした。しまった。けれど、勢いのついた私は止まらなかった。

2014-03-30 17:31:59