- Entry2Heart
- 2145
- 0
- 0
- 0
体脂肪率の高い婚活生武内 http://togetter.com/li/647444 の続き
緑間の顔のアップが映った。…緑間のアップ!? …にするな。試し撮りだ』 ウチの大学の監督の声だ。緑間と知り合いだったのか…? 『お久しぶりです』 『覚えてくれてたのか。緑間は最初から一軍に上がってしまったからオレのことなど忘… ここで途切れた。再生するファイルを間違えたみたいだ。
2014-03-29 22:40:38オレの引退試合は緑間擁する大学バスケ一の超強豪校だった。 意識のない就活生笠松 http://t.co/cyr84kMcA9 配慮の薄い後輩伊月 http://t.co/34sd5LUPRq
2014-03-29 22:41:15意識を捨てた就活生森山 http://t.co/KDsWM7KmFe 意識の低い就活生森山の夜景 http://t.co/PDX2SVBd8t 意識の低い就活生森山の内定 http://t.co/pqi2yDeqjf
2014-03-29 22:41:48_
『よぉし、そこ! お前は今日何のために戦う?』 オレの何とも間の抜けた円陣前のかけ声が聞こえてきた。 『今晩スッキリした気持ちでヌくためっす!!』 『なるほどな。伊月は?』 『…普通にチームのために戦いますよ』 『そうか。じゃあチームのために戦うのはお前に任せる』 『えぇっ!?』
2014-03-29 22:50:05『オレはコートの右側。前から4列目。左から22番目のコのために戦う』 『こっちのが美人じゃないすか?』 『話せないだろ』 鳴海の雑誌をひったくって伊月がオレの頭を叩いた。 『森山先輩は引退試合なのにそんなんでいいんですか!』 『最後だからこそ運命の相手設定集中法は捨てられん!』
2014-03-29 22:55:02『全員、欲しいものが一つならそれでいい』 ブチッと鳴海がイヤホンを外してipodを放ったせいで、ゴツい洋楽の音が入る。円陣を組むと、画面の中のオレがキメ顔で言い放った。 『勝つぞ』 『『『『『オォ!!』』』』』
2014-03-29 23:00:06当然、相手は緑間と高尾のコンビでくると思っていた。ウチと違って伝統ある強豪だ。一年近くバスケから離れていた選手をスタメンにしてくるなんて考えもしなかった。完全に虚をつかれた。整列したとき、アイツが目の前にいるのが信じられなかった。スタメンは笠松だった。
2014-03-29 23:05:05試合開始の笛が鳴る。諸行無常の響きあり。 緑間は身長あるがシューターだからジャンプボールは飛ばない。鳴海が空中戦を制した。伊月を介してオレにボールが渡った。変則3Pで先制点を決めようとモーションに入ろうとしたところ、ああ…こうして映像で見るとよくわかるな。最初から警戒してやがる。
2014-03-29 23:10:07『お前のフォームは見飽きてんだよ』 その言葉でやっと高尾との空中3Pを捨ててまで、笠松を入れてきた意味がわかった。オレのシュートはフォームがアレなだけで特にカラクリがあるわけでも何でもない。慣れれば止められる。 笠松は味方のときは頼もしいが敵に回すと厄介なタイプだ。
2014-03-29 23:15:03その後も悉くオレのシュートは笠松に止められた。外からの攻撃は完全に封じられた。主導権は完全に奪われた。 第1Q、最初のタイムアウト。オレは早々に下げられた。
2014-03-29 23:20:05現実は残酷だ。緑間にリベンジ!なんて一人で勝手に森上がってバカみてーだ。実際は試合にさえほとんど出られなかった。 画面の向こうのオレは頭にタオルを被ってずっと俯いていた。声出して応援くらいしろよ、オレ。
2014-03-29 23:25:06オレの代わりに入ったSGは一年で、基本オレが出てたから経験も浅い。多少はシになったものの、終始一方的な試合だった。鳴海が内から頑張ってくれてはいたが、緑間はDFも上手い。シュートばかり注目されがちだが、マジで上手かった。そして、ブロックできれば緑間はドリブルなしでその場で打てる。
2014-03-29 23:30:08_
緑間の超長距離3Pを何度も許し、第4Q頭にはとうとう50点差がついた。 最後のタイムアウト。伊月が真っ先にベンチに走り寄った。 『監督、森山先輩を出してくれませんか』
2014-03-29 23:35:07オレの肩がピクリと震えた。 『先輩にとっては最後なんです。いえ、みんなにとっても、オレにとっても最後なんです。森山先輩と、バスケがしたいです』
2014-03-29 23:40:05『こんなときに諦めるっつーんすか伊月先輩!』 鳴海が噛み付く。 『…こんなときだから、せめて楽しんでいこう』 振り絞るような声だ。 『だからって思い出作りに止められると分かってる人を出すんすか!? んなのおかしっすよ! オレは絶対に諦めたくない。オレがあと5分で50点入れて…っ』
2014-03-29 23:45:08『伊月先輩は丞成とやったときのことなんか覚えてないかもしんねっすけど、4年前、火神相手に最後まで立ち向かえたことが、今でもオレの誇りっす。オレは最後までベストを尽くしたい』 鳴海の主張は正しい。たぶん、あの中で一番正しかった。でも、
2014-03-29 23:50:07『ゴメン、鳴海』 画面の中のオレがぽつりと呟いた。 『情けないし、間違ってるかもしれない』 俯いていた顔が少しずつ上がっていく。 『でも、オレ…試合に出たいな。一秒でも長くボールに触ってたいよ』
2014-03-29 23:55:03『行ってこい、森山』 口論を静観していた監督が口を開いた。 『お前はオレが部を強化し始めた当時から、主将として人一倍がんばってくれた。オレ個人としてはお前に感謝している』
2014-03-30 00:00:12『指導者として未熟で済まない。帝光にいた頃は、絶望的な状況を経験したことがなかった。こんなときどうしたらいいかわからない。それでも、昔、一人の生徒の想いを蔑ろにしてしまったこと、オレは今も後悔している』 『もしかして、その生徒って…』 伊月の声が小さくて名前は聴き取れなかった。
2014-03-30 00:05:06_
笠松も緑間もどんなに点差があっても手を緩めるタイプじゃない。結局、あの後さらに点差は開き続け、56点差でオレ達は負けた。 最後に笠松と主将同士握手を交わして、オレの大学バスケは幕を閉じた。 『『お前と戦えて良かった』』
2014-03-30 00:10:03