古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #14

更新十四回目のまとめです。 天龍と龍田の恩返し。 そして、古鷹と青葉の本当の気持ち。
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古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「……その、大丈夫か?衣笠」 部屋のテーブルの横に立った天龍が気遣わしげに声をかけてくる。テーブルの椅子に腰かけたまま、私は力なく頷く。龍田さんが蒸しタオルと保冷材を包んだアイスタオルを持ってきてくれた。 「はい、ほっぺたに交互に当てて?むくみが早くとれるから~」

2014-03-31 00:06:51
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二人が部屋を訪ねてきて、私の顔を見て顔を見合わせた後、私は押し切られて二人を部屋に入れた。子供のように世話になっている自分が情けない。でも二人を追い返す気力すらもなかった。 「遠征の打ち合わせに行ったら雷がよ、衣笠の様子を見に行ってやってくれって言うもんだから来たんだが……」

2014-03-31 00:13:05
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躊躇いがちに天龍が言う。ああ、雷ちゃんにもまた気を遣わせちゃったなあ。蒸しタオルを顔に押し当てる。程よい熱さが気持ちいい。龍田さんは私の後ろに回って髪をくしけずってくれた。 「俺たちも、心配してんだよ。その……古鷹と青葉のこと」 タオルを顔から離す。私は天龍を見返した。

2014-03-31 00:19:26
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「いや、俺たちだけじゃねえな。軽巡の中だけでも、由良も夕張も心配してる。鬼怒もそうだ。なあ、なんか俺たちに出来ることないか?」 ぶっきらぼうながら優しさのこもった口調で天龍が言う。 「……どうして?」 「どうしてって、そりゃ俺は、お前らにはでっかい恩があるからよ」

2014-03-31 00:25:45
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恩?ああ、あれのことか、と思い当たる。 「第一次ソロモン海戦の時だよ。最初鳥海とお前ら第六戦隊のメンツだけで殴りこむって話だったのに、無理に頼み込んだ俺と夕張も連れてってくれただろ。旧式艦だから足手まといになるかもしれなかったのに」 あの時の天龍の剣幕はすごかったな、と思い出す。

2014-03-31 00:31:56
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「古鷹なんか、戦闘中に羅針儀の壊れた俺を誘導してくれてよ。おかげで俺も大戦果を挙げられて……。だから今度は俺の番だ。なんか俺に出来ることないか?何だってやるぜ」 熱のこもった口調で天龍が私に迫る。天龍ちゃんったら、と龍田さんがたしなめるけれど、龍田さんも同じ気持ちらしい。

2014-03-31 00:38:15
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龍田さんの髪を整えてくれる手つきが優しい。普段通りののんびりした口調で言う。 「天龍ちゃんがお世話になったから~。私も恩返ししたいなって」 有難さに目頭が熱くなる。青葉、見てごらんなさいよ。あんた、こんなに感謝されてるわよ。こんなに皆から心配されてる艦なんてそうそういないわよ。

2014-03-31 00:44:35
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けれど今は私自身何をどうしたらいいのかわからない状況で、二人にしてもらえることなんて思いつかない。そう伝えると、見るからに気落ちした様子で天龍ががっくりと肩を落とした。 「そうかあ……そりゃそんな簡単じゃねえよなあ……」 天龍がテーブルの上に放り出されていた戦線文庫に目をやった。

2014-03-31 00:52:34
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取り上げてぱらぱらとページをめくる。 「これ、青葉が編集したんだよな?写真一杯載ってんのに、古鷹一枚も写ってねえもんなあ。青葉も全然乗り越えられてねえんだろうなあ……」 え?天龍なんて言ったの?思わず立ち上がってそう言うと、驚いた天龍が後ずさった。手に持った雑誌を差し出してくる。

2014-03-31 00:58:20
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「いやほら、こないだ『天龍ちゃん一杯写ってたわよ~?』ってこれ龍田が持ってきたからよ。文章とか読むの苦手だから写真とこだけ読んだんだけど、古鷹の写ってる写真一枚もねえなあって思って……」 雑誌を受け取って急いでページをめくる。確かに、グラビアのページに古鷹ねーさんが一枚もいない。

2014-03-31 01:05:05
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以前読んだときに感じた違和感はこれだったのかと思い当たる。青葉は、この部屋で私の目の前で編集作業をやっていた。その時青葉がちゃぶ台の上に広げていた写真の中には、確かに古鷹ねーさんが写った写真もあったはずと記憶している。使われなかったそれらの写真は、どうしたのだろう。

2014-03-31 01:11:43
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私は青葉が資料やスクラップを収めている本棚に駆け寄った。ノートを取り出し、ファイルを開き、本のページをばらっとめくって、何か見つからないか確認する。天龍と龍田さんがあっけにとられて私を見つめていたけれど、気にもならなかった。私は今、こうしなければならないという思いに駆られていた。

2014-03-31 01:18:11
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「……何やってんの?」 紙の束と格闘していると突然背後から声をかけられ、私は振り返った。そこにいたのは、加古だった。出撃からもう帰ってきたのか。顔が薄汚れている。気が付けば、天龍と龍田さんもいつの間にかいなくなっていた。 「いいところに来たわ!あんたも探しなさい!」

2014-03-31 01:25:07
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「……何を?」 加古が眠たげに聞いてくる。昼の真面目な態度はもう電池切れなの? 「決まってるじゃない!青葉の撮った古鷹ねーさんの写真よ!あれだけ撮って雑誌に一枚も使われてないけど、青葉が古鷹ねーさんの写真を捨てる訳ないわ!きっとどこかに隠してるはずよ!」 ああ、と加古が言った。

2014-03-31 01:30:15
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加古がすたすたと青葉のベッドに歩み寄る。布団を横に寄せ、椅子をベッドに載せてその上に登る。立ち上がって天井の一角を押し上げ、天井裏から一冊のアルバムを取り出した。椅子から降り、はい、と私に手渡してくる。私がきょとんとしていると、加古はそのまま私のベッドまで歩いていき、倒れこんだ。

2014-03-31 01:36:26
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「えっ、ちょっと!汚れた顔のままで人のベッドで寝ないでよ!」 「……眠い」 私の抗議を意にも介さず、加古はそのまま寝息を立てはじめた。どこまでマイペースなのよこいつは。仕方がないので手渡されたアルバムを開く。そこに収められていたのは、私の想像していた以上の青葉の想いだった。

2014-03-31 01:44:45
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

アルバムは、全てのページが古鷹ねーさんの写った写真で埋め尽くされていた。演習の時、秘書艦をしている時、加古の世話を焼いている時、駆逐艦の子を指導している時。ありとあらゆる古鷹ねーさんがそこにはいた。そして、その写真のどれもがしわくちゃ。取り出して見てみると、水滴の跡もあった。

2014-03-31 01:51:44
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「なによ……青葉……っ!あんた未練たらたらじゃない……!」 嬉しいような、泣きたいような、色んな感情がごちゃ混ぜになっていた。青葉は、人知れず古鷹ねーさんの写真を見つめて、握りしめて泣いていたのだ。青葉は、古鷹ねーさんのことをこんなにも想っていた。そのことが無性に嬉しかった。

2014-03-31 01:57:10
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

罪の意識に苛まれて、自分を責めて、それでも青葉は古鷹ねーさんのことは想い続けていた。自分には古鷹ねーさんのそばにいる資格なんてないと、まるで今も生きながら死んでいるような心持ちでいるのかと思っていたけれど、青葉の心はちゃんと生きていた。生きていたのだ。

2014-03-31 02:03:34
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涙を拭い、立ち上がる。青葉が本当は古鷹ねーさんと元通りになりたいと思っていたことが分かって、全身に気力が満ちていた。それなら、私がためらう理由はない。部屋を飛び出す。待ってなさい、あんたが口先で何を言おうが、無理やりにでも古鷹ねーさんと仲直りさせてやるんだから!

2014-03-31 02:11:51
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「わっ、衣笠!?」 飛び出した廊下で、古鷹ねーさんと出くわした。目を真ん丸に見開いて、私の様子に驚いている。 「ど、どうしたの?衣笠大丈夫?」 古鷹ねーさんが心配そうに眉をひそめる。昨日まであんな落ち込んでいた私が元気いっぱいに部屋から飛び出して来たら、それは不安にもなるだろう。

2014-03-31 02:17:46
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

おろおろしている古鷹ねーさんの小さな肩を両手でがっしとつかんだ。古鷹ねーさんにも確かめておきたい。 「古鷹ねーさん、お願い。よく聞いて私の聞くことに答えて」 戸惑いながらも、う、うんと古鷹ねーさんが頷く。 「古鷹ねーさんは、青葉のことどう思ってる?青葉と、昔通りに仲良くしたい?」

2014-03-31 02:22:19
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戸惑っていた古鷹ねーさんが身を固くした。 「衣笠、私のことはもう……」 「私の心配はいいから!古鷹ねーさんの正直な気持ちを聞かせて!青葉と、これからどうなりたいの?」 「それは……」 古鷹ねーさんが目を伏せて口ごもる。勢いで尋ねたけれど、実際のところ私は不安になっていた。

2014-03-31 02:28:18
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古鷹ねーさんは何かをしたい、何かが欲しいといった欲やわがままと最も縁遠いところにいるひと。……他人のために、自分の気持ちを抑え込めるひと。今だって、本当は青葉のことを想っていても、私のことを気遣って正直な気持ちは口に出してくれないかもしれない。私はただ古鷹ねーさんを見つめ続けた。

2014-03-31 02:34:25