ヒア・カムズ・ザ・サン #7

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「4」……「4だ」フクトシン博士は震え声で呟き、メフィストフェレスを振り返った。巨大ステルス機「ナイミツ」の司令室は実際高級リムジンじみて格調高い。同期された管制塔UNIXが転送するカウントダウン・マイコ音声の間隔は、おそらくフクトシン博士にとっては永遠にも感じられた事だろう。1

2014-03-30 20:24:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「見えるかね?」メフィストフェレスはカットクリスタルの酒盃を傾け、言った。フクトシン博士は数度頷き、強化ガラスにほとんど全身を張り付けた。「ああ……見える」その熱狂的な目はライトアップされるロケット発射台に注がれている。「電子戦争後、初めての……宇宙飛行……有人宇宙飛行……」2

2014-03-30 20:31:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「かえってここの方が見易かろう。安全な場所で、何に邪魔されることもなく」メフィストフェレスが言った。「3」……「だが、あそこが現場だ!」フクトシンは悔しげに、「君にはわからんのだメフィストフェレス。残念ながら」「2」……「それは先駆者の孤独とやらだな、博士」 3

2014-03-30 20:40:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「1」「イチ!!!」フクトシン博士が叫んだ。「飛べ!飛べ!飛べ!お願いだ!」彼は拳を振り上げ、飛び上がった。メフィストフェレスは苦笑した。しかしこの悪魔にもそれなりに期するものがあったか、一人、酒盃をカンパイじみて無言で掲げたのだった。……閃光。数度の閃光。そして。 4

2014-03-30 20:51:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

BDDDDDOOOOOOM……重い金色の煙がロケットの足元から沸き起こり、地に溢れ、拡散した。フクトシン博士は力なく両膝をついた。彼は泣いていた。「発射成りました。オツカレサマドスエ」マイコ音声の無機的なサウンドすらも優しかった。悪魔はギラギラと輝く目でコンソールを凝視した。 5

2014-03-30 20:58:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「見ろ……メフィストフェレス見てくれ、"将来性"が。私の"将来性"が飛んでいく。私の夢だ」「あれは嚆矢だ、フクトシン博士」メフィストフェレスは言った。「ここで終わりにされては困るのだ。わかっているかね」その時、後部扉が開き、シャドウドラゴンが入室した。「帰還しました」「うむ」 6

2014-03-30 21:05:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ガンバレ……ガンバレ」フクトシン博士は跪いたまま、念じるように、硬く組んだ拳を額の上に掲げていた。「どうか!どうか」「ヘファイストス=サンが戦死しました」「そうか。仕方がない」メフィストフェレスは淡々と言った。「この施設はあまりにも拙速であった。早晩、自壊したことだろう」 7

2014-03-30 21:09:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

明滅する光の柱がロケットに寄り添う。磁気嵐層に僅かな間の穴を穿つ神秘的なテクノロジーだ。「ああ。どうだ。どうなっている。大丈夫だな」フクトシン博士はコンソール・モニタに駆け寄り、顔を近づけた。「間違いは絶対にない!私がやったんだ!たとえ隕石が降ろうとも!」 8

2014-03-30 21:18:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「適切に後始末し、情報を統制したうえで、カナリーヴィルには義損金でもくれてやればよい」メフィストフェレスは言った。「所詮、村を占拠したのは"日本政府に反旗を翻した正体不明のヤクザ武装組織"でしかないのだ」「御意」シャドウドラゴンは直立姿勢である。 9

2014-03-30 21:21:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヘファイストスらがもう少し有能であれば、継続的に使用できる基地も成ったであろうに」メフィストフェレスは他人事のように言った。「ニンジャスレイヤー。奴の無軌道かつ野蛮な行いときたら、まったくもって閉口の限りよな」「御意」「施設の再建造……カネも時間もかかる。頭の痛い問題だ」 10

2014-03-30 21:30:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

メフィストフェレスは眼下のカナリーヴィルを一瞥した。新たな火の手があがる。更なる収容施設が解放されたのだろう。フクトシン博士は天へ昇るロケットとコンソールを1秒間隔で交互に注視している。シャドウドラゴンは微かに首を動かし……ロケットを目で追っていた……。 11

2014-03-30 21:35:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「カワコイデ……カワコイデ家の人間を探しています!」枯れた声で叫びながら人々の間を走り抜ける少年を、憔悴しきった人々は目で追った。負傷者、死んだ人間の傍で涙を流す者、手を取り合う者。広場の中心には引き裂かれたトタン材が集められ、篝火の火の粉を空へ噴き上げていた。 13

2014-03-30 21:42:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハマ?」呼びかける声があった。少年は足を止めた。座り込む人々をよけながら進み出たのは、頭と右目を包帯で覆った男だった。「なんでお前がここに」「シワバキ=サン」ハマは駆け寄った。「シワバキ=サン、父さんと母さん……見なかったですか」「お前……そうか」 14

2014-03-30 21:52:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シワバキは気遣わしげに、「じゃあお前、今まで家族を探して……こんなになっちまった村を走り回って……」「ハマ!」愕然とした叫びが遮った。シワバキとハマは同時にそちらを見た。ハマの目にみるみる涙が溢れた。「父さん……!」「お前……なんでここに!」「父さん!」 15

2014-03-30 21:57:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハマ!」「ウワーッ!」「この馬鹿野郎!」ハマの父親は日に焼けた太い腕で我が子を抱きしめた。「こんな時に帰って来やがって」「ハマ!」人々をかきわけ、子供を二人連れた女性が進み出た。「お前、どうしてここに!」「母さん!ミメ!キワ!」ハマは叫んだ。人目も構わず、彼は泣き続けた。 16

2014-03-30 22:01:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「よ、良かった、とにかくよかったなあ!畜生よかったなあ!」シワバキは涙をぬぐった。見守る他の者たちも泣いていた。「学業はおまえ、だけどお前学業どうしたんだ!」父親は泣きながらハマを揺すった。「休み、休みなんだ、休みなんだよ!」「そうか……休みか……勉強してるか!」「してる!」17

2014-03-30 22:05:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「よくこんな村ン中、走り回って……」「ニンジャ……」「何だって?」「ニンジャが助けてくれた……ニンジャが助けてくれたんだ……!」「全くこいつは……わけのわからん事を……!」抱き合う家族は、やがて、天を裂いて昇る一筋の炎の尾を見上げた。彼らは言葉を失い、ただ、畏怖した。 18

2014-03-30 22:08:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

空白地帯を、村とは逆方向に遠ざかる装甲車両あり。ロケットの金の光から、ナイミツの緑の光から、赤黒の死神から逃れ、その女ニンジャはアクセルを踏み続ける。敗走の屈辱がロングカットの目に影を落としていた。彼女は憔悴でどっと老け込んで見えた。 20

2014-03-30 22:15:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「命あっての物種……死んだら終わり……ハ!バカどもめ!最後まで殺し合っていればいいさ!」ロングカットはマントラめいてブツブツと呟いていた。轍にハンドルをとられ、装甲車両が激しくスピン、音を立てて停止した。「畜生!畜生ーッ!」ロングカットはダッシュボードを殴りつけた。 21

2014-03-30 22:18:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『基幹システムに到達した。恐らくここだ』ニンジャスレイヤーからのIRC通信に、ナンシーは応える。「ブルズアイ。間違いないわ」彼女は緑の格子の彼方から煌めく階段が降りてくるイメージを見る。それは彼女自身の足元のデータと繋がり合い、道を拓いた。 23

2014-03-30 22:25:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『いけるか?』サヌマの手によって、無数のガイド・ボンボリが階段上の回廊に次々に設置され、偽装された迂回路を暴く。ナンシーは飛翔し、躊躇うことなく奥へ進んだ。「ミャオーウー」電子マネキネコの腹部には鍵穴があった。『これを』サヌマがナンシーの手にトゲだらけの鍵を落とした。 24

2014-03-30 22:30:15