ゴールドラッシュ・オブ・ザ・デッド #04

ゴールドラッシュ・オブ・ザ・デッド @GR_o_t_D

【ゴールドラッシュ・オブ・ザ・デッド】♯04

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髭面の腐食が頭にまで達した。その途端、ゴバッと体液が溢れ出て全身が腐り落ちた。 羽が生え、牙が生え、失ったはずの腕まで生えて、髭面は完全なフライングデッドと化した。また一体、空飛ぶ死体が誕生したのだ。　1

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「ポルギュァァァッ！　死にたくない死にたくない死にたくない、死にたくないって言ったのにぃぃぃっ！　お頭お頭お頭なんでどうして助けてくれなかったのぉぉぉぉっ！」 「――っ！　す、すまねえ、アタシは……っ！」　2

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髭面は猛烈な勢いで羽ばたき、緑の巨体を宙に浮かせた。そのまま垂直に飛んだかと思うと、急角度で反転し、呆然としているケヴィンへ突っ込んでくる！ 「ケヴィン、避けろ！　死んじゃうぞ!?」　3

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ギリギリでウィルがケヴィンを突き飛ばした。髭面の通過した余波で吹っ飛ばされ、二人は地面を転げまわる。それでもケヴィンはまだ「マルコス……っ」と呟いている。 ウィルは歯噛みする。かつての自分と一緒だ。友達だったジミーやトム、村のみんなが襲ってきて、愕然としたあの時の自分と。　4

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悔しさを振り切るように、ウィルはケヴィンの胸ぐらを掴み上げた。 「しっかりするんだ！　あれはもうあんたの部下じゃない！　フライングデッドという名の化物なんだよ！」　5

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「でも、でもよぉ！　あいつはアタシに『死にたくなかったのに』ってそう言った！　身体はゾンビになっちまったんだとしても、あれはマルコス自身の叫びじゃねえのか!?」　6

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「あれはフライングデッドの習性だ！　生前の感情をただ山彦みたいに叫び続けてるだけだ！　ケヴィンだって知ってるはずだろ!?　言葉らしきものを口走っても、生前とは別人だ！　別の存在なんだ、おぞましい化物なんだ！」　7

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フライングデッドは生前の感情を叫び続ける習性がある。怒り、憎しみ、欲望、悲嘆、絶望――どんなものかは様々だが、それは本人が生きているうちに抱いた『一番深い負の感情』だと言われている。　8

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「死んだ後に恨みつらみを言ってくるのが奴らのキツいところだ！　しんどいだろうけど、聞く耳を持っちゃいけない！　じゃなきゃ次に死ぬのはあんただぞ!?」　9

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「……っ、分かってる！　そんなフライングデッドのＡＢＣはアタシだってとっくのとうにご承知なんだよ！　だけどもテメエに何が分かるって言うんだ!?　今まさに仲間がゾンビになったアタシの何が分かるんだよ!?　横から出てきてドヤ顔で説教たれんじゃねえよ、このタコスケ野郎がぁ！」　10

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「ああ、タコスケ野郎で結構だよ！　だからシャキッとしてくれ、オカマ野郎！」 「ま、またオカマ野郎と言いやがったな!?　テメエはあとで絶対ぶっ殺す！　丁寧に！」 「お互い生きてられたらそうしていいよ！　――っ、危ない！」　11

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ゴッ！ と流星のような髭面の突撃。なんとか避けたところに着弾し、地面が放射状に抉れる。しかしそれが好機になった。突撃力が強過ぎたせいで、髭面は丸太のように地面に突き刺さっている。 「チャンスだ！　この隙に俺のライフルバッグを――」 叫んだ瞬間、髭面がズボッと顔を引き抜いた。12

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「死にたくないって言ったでしょーがぁぁぁぁぁぁ！　ポルギュァァァァァッ！」 両手の羽ばたきでケヴィンが吹っ飛び、牙にベストを引っかけられたウィルは地面へ引きずり倒された。 「クソ……っ!?」　13

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とっさに髭面のベストに手を突っ込んだ。ガンベルトからサイドアームの拳銃を引き抜き、乱射する。 「喰らえ、ゾンビ野郎！」 マズルフラッシュが閃き、タンタンタン！　と快音。 髭面の胴体にいくつもの風穴が開いた。青色の血が噴き出して、ウィルの顔面を染める。　14

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銃が効かないことは分かっている。だが一瞬でもいい、隙が出来れば――。 「ポルギュアァァァ！　死にたくないから大丈夫なのですぅぅぅぅ！」 シュウシュウと煙が上がり、髭面の傷は一瞬で塞がった。ダメだ。時間稼ぎにもならない……っ！　15

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腐った手が両肩に掛かり、凄まじい力で押さえつけられた。 「ぐぅぅ、ちくしょう……っ！」 必死に身をよじるがビクともしない。十年鍛え上げたはずの肉体が……ゾンビにまったく通用しない。　16

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「離せ、離せよこの腐れ野郎！　吐息が生臭いぞ、訴えるからな!?」 「ポルギュァァァ……」 獰猛な顎がゆっくりと開き、目の前にゾンビの牙が現れる。 　悪寒が走った。この牙に噛みつかれたら、最期だ。　17

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……嘘だろ、こんなところで終わりなのか？ 修行の成果も発揮出来ず、ゾンビの一体も斃せずに俺は……っ！ 絶望が胸に去来した、その時だ。 「さあて、お待ちかね！　脳天風穴ショットです！」 ターンッ！　と快音が響き、銃弾が髭面のこめかみを貫通した。　18

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ゾンビに銃は効かないはずだ。それは今ウィルがやったばかりだ。だが、 「ギュ……ル？　ポルギュ、ギュ、ギュビィィィィッ!?」 突如、髭面が断末魔のような悲鳴を上げ、緑の身体がゴォッと燃え上がる。　19

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腐食した身体を焦がすのは、黄金の炎。この世ならざる炎が不死身のゾンビを焼き焦がしていく。そうしていくらもしないうちに髭面は消し炭になり、残った灰も風に飛ばされ消えていった。 「い、今のは一体……」　20

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「ふふん、良い表情をしてますよ、ウィル？　黄金の銃弾の威力を見るのは初めてですか？」 「ソフィア……っ！」 振り向くと、木箱の上から最高のウィンクを寄越してくるのは、ソフィア・ブラッドフォード。　21

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その手にあるのはきらきらと黄金に輝く銃弾――黄金の銃弾。ゾンビの不死を無効化するという奇跡の銃弾だ。 「危ないところでしたね。ふふ、ほらね？　あたしこそが強者です。ウィルに屈しかけたことなんて、やっぱりただの悪い夢だったのだとこれで証明されました。ええ、されました」　21

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木箱の上で胸を張ると、ソフィアは今度は逆方向へ顔を向ける。 「さてそれじゃあ、ケヴィン。こうなっては致し方ありません。――全滅させます。構いませんね？」 いつの間にか、ケヴィン以外の強盗は全員ゾンビと化していた。　22

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頭領たる彼女は唇を噛んで俯く。だがやがて気持ちを振り切るように顔を上げた。 「ああ、やってくれ！　こいつらをくっさい緑の身体から解放してやってくれぇッ！」 「オーケィ、あなたの心意気、確かに承りました！」 「ポルギュアァァァァァッ！　働きたくない働きたくないーっ！」　23