怪盗対探偵 ~仮想大正浪漫譚~

怪盗と探偵、相容れない者同士の想いを描いた大正浪漫風探偵物語。
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リュカ @ryuka511

「追いかけっこは終わりだ悪党め!」探偵達に怪盗は優雅に笑う。「私が逃げられないとでもお思いで?」怪盗は後ろ手に窓を開けた。「愛しい探偵殿。暫くお会いできませんが、私めを忘れないで下さいね。」黒い外套を翻し怪盗は外へ消える。「バカな! ここは5階だぞ!」「追え!」 #twnovel

2013-09-21 21:24:49
リュカ @ryuka511

屋上へ逃れた怪盗は地上を走る探偵達を見下ろし盗んだ宝石を翳す。危険を冒し手に入れたそれはもう輝きを失って見えた。いつもそうだ。一体自分は何が欲しいのか。考え込み思い当たる答え。「私はあなたが欲しいのかもしれません、探偵殿。」独り言と化した告白は初秋の風に消える。 #twnovel

2013-09-25 22:42:30
リュカ @ryuka511

物心ついた頃には生きる為に盗みを働いていた。それがいつしか愉悦へと変わり、盗みに芸術性を演出して世間を騒がせ始めた頃。彼は現れた。刑事達が追い付けない所まで私を追いかけてきた探偵。盗みとは違うスリルに、誰も省みなかった私を的確に追ってくる存在に、私の心は踊った。 #twnovel

2013-10-07 00:14:23
リュカ @ryuka511

ひょんな事から警察の捜査に協力し、名探偵と謳われるようになった頃。彼は現れた。黒い外套に身を包み魔術としか思えないやり方で狙った物を奪っていく。悪党でありながら態度は極めて紳士的。刑事と共に彼を追う内に悪党の彼を憎み、また自由快活に生きる彼を秘かに羨ましく思った。#twnovel

2013-10-16 00:20:18
リュカ @ryuka511

家柄、長男の責任、当たり前と思っていたそれが彼の登場で揺らぎ始めた。誰かに用意されていた私の人生。思い上がった私を変えたのは、紛れもなくあの悪党だ。飄々と悪事を働く彼を追い裁く事が私に求められた役割。私には彼の考える事が解る。邪魔な刑事達を撒き私は屋上へ駆けた。 #twnovel

2014-01-20 23:40:48
リュカ @ryuka511

「それで逃げおおせたつもりか?」探偵の声に怪盗は優雅に振り返る。「いいえ。貴方をお待ちしていたんです。」「私を?」怪訝な顔の探偵に怪盗は盗んだ宝石を差し出した。「これはお返ししようと思いまして。」「どういうつもりだ?」「私の欲しい物はこれではなかったのです。」 #twnovel

2014-01-22 00:04:44
リュカ @ryuka511

困惑する探偵に怪盗は宝石を差し出す。「あぁ、その前に一つだけ。」手を止め怪盗は探偵を見つめる。「何故、貴方は私の逃げる先が解るのですか?」「何故って別に、私ならどうすると考えるだけだ。」戸惑いながら答えた探偵に怪盗は満足そうに微笑んだ。「ありがとうございます。」 #twnovel

2014-02-15 23:04:21
リュカ @ryuka511

「礼を言われる筋合いは無いが?」怪訝な顔で探偵は言葉を続けた。「ではお前は何故盗みを働くんだ?」「私の本当に欲しいものを手に入れる為、でしょうか。」怪盗は探偵の手に宝石を渡すとその手を取り恭しく口づけた。「何をする!」怒鳴り付けようとした探偵は次の瞬間困惑する。 #twnovel

2014-02-16 23:10:47
リュカ @ryuka511

「敬愛の証ですよ。」と微笑する怪盗の顔が泣きそうに見えたからだ。何故そんな顔をする? 困惑する探偵に怪盗は優雅に一礼した。「ではそろそろお暇致しましょう。」「待て!」怪盗はゆっくりと振り返る。「何でしょう?」「お前なら、罪を償って全うに生きられるんじゃないか?」 #twnovel

2014-02-17 23:24:53
リュカ @ryuka511

探偵は必死に言葉を続ける。「私ならお前に光の下で生きる手助けが出来る。」「有り難いお言葉ですが、今となってはこの生き方も気に入っているのです。」悲しげに笑い怪盗は柵に手をかけた。「またお会いしましょう。探偵殿。」「おい!」柵の向こうに消える怪盗へ探偵は駆け寄る。 #twnovel

2014-02-18 23:19:21
リュカ @ryuka511

怪盗はフックロープを使い階下へ逃れたようだ。返された宝石が光を受け煌めく。ふいに怪盗に口づけされた感触が、彼の悲しげな笑みと共に蘇り探偵の胸を締め付ける。あんな顔をして。私と共に来ればいいものを、何故。「私は諦めないぞ。必ずお前を取っ捕まえて更正させてみせる。」 #twnovel

2014-02-19 22:34:03
リュカ @ryuka511

法を犯し秩序を乱す憎むべき存在、のはずだった。だが好き好んで盗みを始めたわけでは無かったのだろう。怪盗はこの生き方を気に入っていると言ったが、探偵にはその先が明るいとは思えなかった。彼を悪の道から救いたいと思う一方で、自分には出来ない生き方を少しだけ羨やんだ。 #twnovel

2014-02-20 23:55:38
リュカ @ryuka511

探偵の言葉に揺らがなかったと言えば嘘になる。彼と共に生きられたら、そんな幻想が怪盗の胸によぎった。だが、生きる為に奪わなければならなかった頃を思うと簡単に出来る事ではない。ただ、彼が自分を顧みてくれる事が嬉しかった。それだけで、この忌まわしい世界を生きていける。 #twnovel

2014-02-21 22:18:23
リュカ @ryuka511

盗みを始めた頃は、こんな事をしなければ生きられない世界を憎んだ。だが今は、その世界に生きる探偵が自分を顧みて心を寄せてくれる。それは、愛と呼ぶには脆く儚すぎる光。決して手には入らないが、確かに自分の傍に存在する。「さぁ、追いかけっこを続けましょう。探偵殿。」 #twnovel

2014-02-22 22:31:02