通り魔は夜明け帰るss

深夜に投下した通り魔ssのまとめ。
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てい @orztee

夜明け近くになって、ようやく弟が帰って来た気配がした。寝ている俺を気遣っているのか、そっと部屋のドアが開いた。 「お前、毎晩何処行ってんの」 「……なんだ、起きてたの」 俺が起き上がらずに背中を向けたまま尋ねると、気の抜けたような声で、弟が言った。 「いや、別に……。ちょっとね」

2014-04-05 01:15:30
てい @orztee

「彼女のとこか? お熱いことで」 俺の心にもない冷やかしに、弟は気乗りしない口調で「彼女なんていねーよ」とだけ答える。 「お前さ、危ないことだけはするんじゃねえぞ」 俺の言葉に、弟は暫く黙って、それから「何もしてねーよ」と、ボソッと呟いた。

2014-04-05 01:15:43
てい @orztee

おいおい。 俺は背中を向けたままで苦笑いを漏らす。 俺が知らないとでも思っているのだろうか。本当に? 毎晩、赤く汚れたパーカーとジーンズを洗濯機に放り込むだけ放り込んで、後の始末は全て俺に任せてしまっている癖に? 通りを走るパトカーの音に、じっと耳を済ましている癖に?

2014-04-05 01:15:58
てい @orztee

しかし、俺は今日も肝心のことは聞かない。言わない。あいつが進んで話してくれるまでは、尋ねないと決めた。連日世間を賑わす通り魔事件のことも、だから、気にしない。 「まあ、それならいいんだけどさ。でも覚えとけよ。にーちゃんはお前のことなら何でも分かってるんだって」 「うん」

2014-04-05 01:16:18
てい @orztee

弟は素直に返事して、それからまた部屋のドアを開いた。出て行こうとしているらしい、その見えない背中に、言葉を投げかける。 「にーちゃんはお前の味方だからな」 「うん」 何度、同じ台詞を口にしただろう。 遠ざかる足音を聴きながら、俺はじっと朝日を待ち受けている。

2014-04-05 01:16:34