アイデンティティ・ポリティクスとは?

アイデンティティ・ポリティクスとは何かについて金明秀氏が丁寧に説明をされていたので、まとめさせて頂きました。
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金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

家を出るまで少し時間があるから、このところの話題に関連していくつかツイートしておくかな。まずは「アイデンティティ・ポリティクス」とはなにか、というあたりから。

2014-03-29 14:48:06
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

差別というのは、「何かを奪われた」という状態に対しては名づけられることはなくて、「あらゆるものを奪われた」状態に対して名づけられるもの。逆に言えば、差別を解消するためには、「何かを取り戻す」だけでは意味がなく、「あらゆるものを取り戻す」必要があるんだよね。それが、話の大前提。

2014-03-29 14:49:28
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

まず簡単に定義しておくと、アイデンティティ・ポリティクスというのは、何らかの属性に起因して社会から奪われた価値を取り戻し、正当に承認を得られる状態を実現するための運動のこと。

2014-03-29 14:51:48
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

文学的修辞も混ざっていますが、文字通りの意味です。 RT @ndoro4: 文学的修辞じゃなく、文字通りの意味でですか? @han_org 差別というのは、「何かを奪われた」という状態に対しては名づけられることはなくて、「あらゆるものを奪われた」状態に対して名づけられるもの

2014-03-29 14:52:51
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

「ポリティクス」というのは「政治」のことですね。ただし、「政治」といっても国会でやってるアレとはちがって、「何が正しいのかをめぐるすべての争い」のことです。国会でやっているアレと区別するために、こういう意味での政治をカタカナでポリティクスと書いたりします。

2014-03-29 14:55:43
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

例えば、「朝鮮人というのは意地汚く卑怯なことばかりをやろうとするやつらだ」というのは、1950年代ぐらいに一般的だったステレオタイプです。それに抵抗して、「私たちはまっとうに生きているし、むしろまっとうな生き方を阻む差別こそが問題だ」という認識へ修正しようとする運動がありました。

2014-03-29 14:59:16
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

これは、「正しい認識」を取り戻そうとする運動なので、典型的なアイデンティティ・ポリティクスのひとつです。

2014-03-29 14:59:54
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

また、「朝鮮人というのは劣等民族で、まともな文化も教養もなく、自らなにも生み出すことのできない空っぽの存在だから、日本に服属するしかなかった」というのは、1970年代ぐらいまで一般的だった植民地主義的な考え方です。これに対抗するため、在日コリアンは民族音楽や民族舞踊を覚えました。

2014-03-29 15:02:04
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

「ほら、こんなに美しくすばらしい音楽や踊りがわれわれの民族にはある。何もない空っぽの存在などと見下しているのは、植民地主義に根ざした傲慢と偏見にすぎない」というメッセージをわかりやすく伝えるための文化運動ですね。これも、奪われた価値を取り戻す運動ですのでアイデンティティ政治です。

2014-03-29 15:03:49
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

平行して、社会保障からの排除にも反対運動がありましたし、就職差別への対抗活動もありました。これらは、物的資源を得るための運動なので、一般にはアイデンティティ・ポリティクスとは呼ばれません。

2014-03-29 15:07:08
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

でも、「われわれはチョーセンジンなどと侮蔑されるいわれはなく、ちゃんとした独立国の国籍を持つ『外国人』なのだ。だから、ちゃんとした外国人として処遇せよ。」とか、「われわれはこの社会の一員だから差別するな」と主張すれば、それもアイデンティティ政治です。

2014-03-29 15:08:47
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

ひとたび差別が成立してしまえば、単にお金やお金を稼ぐルートが奪われるだけでなく、まっとうに存在すること自体がむずかしくなってしまう。だから、差別を解消するには、単に不公正な処遇を撤回させるだけでなく、劣った存在だ、おかしな存在だ、とみなす価値観を撤回させる必要があるわけです。

2014-03-29 15:12:32
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

世界中のさまざまな被差別当事者たちが、必要に迫られて、あるいは試行錯誤の結果として、たどり着いた異議申し立てのあり方のひとつ。それが、アイデンティティ・ポリティクスなのです。

2014-03-29 15:13:49
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

アイデンティティ・ポリティクスには、二つの要素があります。(1)生存機会に直結する物的資源を取り戻すだけでなく、物的資源の剥奪を正当化する文化的資源の剥奪をも異議申し立ての対象に含むこと、(2)集団的アイデンティティを争点に含むこと、です。

2014-03-29 15:16:22
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

(1)は、簡単に言うと、先ほども書いたように、「劣った存在だ、おかしな存在だ、とみなす価値観を撤回させる」ことを運動目標に含むということですね。

2014-03-29 15:19:07
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

「劣った存在だ、おかしな存在だ、とみなす価値観を撤回させる」ためには、差別を糾弾するだけでなく、「優れた存在」であることを見せ付けたり、「まっとうな存在」であることを伝えたりするカウンター的な文化運動が起こります。レインボーフラッグはそういうものの表象の一つですね。

2014-03-29 15:22:31
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

(2)は何かというと、差別というのは個人を対象とするのではなく、ある個人が何らかのカテゴリーに所属するというだけで理不尽な扱いをすることをいいますので、差別を解消するためには個人が解放されるだけでは意味がなく、カテゴリーに付与される劣等的な価値を払拭しないと意味がないわけです。

2014-03-29 15:24:54
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

したがって、具体的な個人が差別のターゲットになっていなくとも、所属カテゴリーがヘイトスピーチのターゲットになっていれば、それに対抗することが必要になってきます。こういうのも、アイデンティティ・ポリティクスの重要な要素のひとつです。

2014-03-29 15:26:26
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

これら二つの要素を含むことから、アイデンティティ・ポリティクスには、結果として重要な特性がひとつ生じました。それは、被差別当事者とそのカテゴリーのアイデンティティに関わる問題なので、原則として運動の担い手は被差別当事者でなければならない、ということです。

2014-03-29 15:29:06
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

もちろん、被差別当事者でなくとも、アイデンティティ・ポリティクスを支援することはできます。また、被差別当事者は生存の資源すら奪われていることも多いわけですから、支援がなければ運動はたちゆかないでしょう。でも、目指すべきゴールを決めるのは、被差別当事者でなければならないのですね。

2014-03-29 15:31:48
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

以上が、アイデンティティ・ポリティクスについての、もっとも基礎的な話。実際には、ここからさらにいろんな論点が派生しているのだけど、出発点(あるいは議論の参照点)となるのはここで紹介した話です。

2014-03-29 15:34:42
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

派生した論点のひとつは、「マジョリティにだってアイデンティティ・ポリティクスはある」というものです。

2014-03-29 15:35:53
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

行動保守らのやっていることなんて、アイデンティティ・ポリティクスそのもの。「在日朝鮮人の支配から脱却して、日本人としての誇りを取り戻せ」というのだから。そして、それに対抗するために、「日本人として恥ずかしい」と主張するのも、やはりアイデンティティ・ポリティクスです。

2014-03-29 15:39:09
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

次に再開するときは、(a)今の反レイシズムカウンター運動には、マイノリティのアイデンティティ政治と、マジョリティにとっての社会正義の実現、という2つの要素が絡み合っている、(b)後者への資源を動員するために、マジョリティのアイデンティティ政治がしばしば用いられる、という話。

2014-03-29 15:43:55
金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ @han_org

いや、どちらかというと、(b)マイノリティのアイデンティティ政治と、マジョリティにとっての社会正義の実現は、異なる運動である以上、両立することは十分に可能だけど、衝突することも当然ありうる。衝突した場合、マイノリティにとっては二重の暴力として作用しうる、という話かな。

2014-03-29 15:46:14