古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #17

更新十七回目のまとめです。 青葉と古鷹の対面。古鷹が青葉に言いたかったこと。そして次の海域。
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古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

古鷹ねーさんの背中を押して青葉のいる部屋に入ろうとすると、ドアを押さえていた加古に腕をとられた。何事かと振り向くと、加古がいつになく真剣な顔で私を見返してきた。そのまま私にだけ聞こえるよう声を潜めて言う。 「衣笠、青葉の隣行ってやって。でも余計な口出しはしないこと。いい?」

2014-04-08 01:04:26
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

私は少しむっとして言い返す。 「ちょっと、余計な口出しって何よ」 「青葉から話し始めるのを待つってだけだよ。わかった?」 「……わかった、わかったわよ」 加古の真剣な表情に、その言葉に何か逆らい難いものを感じて、私は頷いた。部屋に目を向けると、床の真ん中で青葉が正座していた。

2014-04-08 01:10:27
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

俯いていて、その表情は窺い知れない。青葉の正面に古鷹ねーさんが正座する。加古もその隣にどっかと胡坐をかいた。私も加古に言われた通り何も言わずに青葉の横に行き、腰を下ろす。すると、青葉の左手が驚くような速さで私の服の裾をつかんできた。その手が、かすかに震えていた。

2014-04-08 01:15:11
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉の様子を見て、古鷹ねーさんが気遣わしげな視線を投げかけてきた。それでも、何も言わずにただ青葉を見つめている。かたわらの青葉に目をやる。押し黙って震えているだけだけれど、今までのような逃げ腰の雰囲気は感じられなかった。ああ、青葉は今まさに戦っているんだ。自分の過去と。

2014-04-08 01:21:07
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉の周りを、青葉にしか見えない罪の意識が取り囲んでいる。青葉に踏み出させるものか、青葉を幸せにしてなるものかと幾重にも青葉を締め上げて離さない。青葉のスカートに水滴が落ちる。青葉の顔に目を向けると、汗が滴り落ちていた。顔色も死人のように蒼白だ。

2014-04-08 01:26:21
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

そんな青葉を見て、私の心がずきりと痛んだ。青葉には古鷹ねーさんに会えと今まで散々発破をかけてきたけれど、今心底辛そうにしている青葉を見ているとそれはただの私の自己満足に過ぎないんじゃないかと弱気になる。思わずもういいよ、そんな無理しないでと言おうと口を開いた時、加古と目が合った。

2014-04-08 01:33:03
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

加古が「口出ししないって言ったでしょ?」と目顔で伝えてきた。喉まで出かかっていた言葉を飲み込み、押し黙る。何も言わずに姉を見守るのも妹の大事な役目だよとも言われた気がした。そんなことわかってる。でも青葉の苦しみも痛いほどにわかって見ていられない。その時、古鷹ねーさんが口を開いた。

2014-04-08 01:40:05
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「あのね、私青葉に言っておきたいことがあるの」

2014-04-08 01:41:48
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉の体がびくりと跳ねたのが見なくてもわかった。加古と私が一斉に古鷹ねーさんに目を向ける。何か決意を秘めたような古鷹ねーさんの表情。どうしよう、古鷹ねーさんの話によっては青葉が二度と立ち直れなくなるかもしれない。でも、古鷹ねーさんが青葉を傷付けるようなことを言うわけがない。でも。

2014-04-08 01:45:31
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

罪の意識で雁字搦めになって、古鷹ねーさんに助けられてさえ自分を責め苛んだ青葉だ。古鷹ねーさんにそんなつもりがなくても、青葉が自分で自分をさらに追い込んでしまうかもしれない。私は止めるべきだと腰を浮かす。加古が反応する。その時、青葉が頷いた。うつむいたままだけれど、はっきりと。

2014-04-08 01:51:29
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉が頷いたのを認めた古鷹ねーさんが、一瞬の間をおいてふわっと笑った。青葉と話ができる。青葉が話を聞いてくれる。ただそれだけのことが嬉しくてたまらない。そんな表情だった。そんな顔を見ては、もう私に古鷹ねーさんを止めることはできなかった。古鷹ねーさんが口を開く。 「あのね、青葉」

2014-04-08 01:58:13
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「私ね、青葉が沈まずに生き延びていてくれたって知った時、とっても嬉しかったの。それで、青葉と一緒に日本に帰れて本当に嬉しかった。ありがとう、青葉。生きていてくれて。ありがとう、青葉。一緒に日本に帰ってくれて」

2014-04-08 02:03:12
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

気付けば、青葉が顔を上げて古鷹ねーさんを見ていた。信じられないものを見たかのように、目にいっぱいの涙をためて一心に古鷹ねーさんを見つめていた。古鷹ねーさんは少し照れくさそうだ。それを見ながら私は、古鷹ねーさんが青葉と一緒に日本に帰れたというのは何のことかと考え、そして思い出した。

2014-04-08 02:12:02
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

敵弾を多数被弾して乗組員に死傷者が多かった青葉は、サボ島沖海戦の後、初雪に救助された古鷹ねーさんの乗組員によって日本に回航されていた。今の古鷹ねーさんには、自分たちが守った青葉が沈まずに生き延びていてくれたことを知って喜んだ、古鷹ねーさんの乗組員たちの記憶があるのだ。

2014-04-08 02:19:42
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

そして、古鷹ねーさんの乗組員を乗せた青葉は修理のために呉に帰った。『古鷹』の待つ呉に。青葉は、古鷹ねーさんと一緒に、古鷹ねーさんのもとに帰っていったのだ。 「それからもね、私は……『古鷹』は、ずっと見てたよ。青葉がずっと頑張ってたこと。何度傷付いても戦い抜いたこと」

2014-04-08 02:25:24
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「ごめんね、青葉。一人にしちゃって。ありがとう、青葉。一人になっても頑張ってくれて」 青葉の目から、大粒の涙がこぼれた。恐る恐る、青葉の震える両腕が前に伸びる。その手を、古鷹ねーさんがしっかりと両手で握った。青葉の両手を包み込むように。許しを与えるかのように。

2014-04-08 02:32:26
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「ふっ、古鷹、さん……ごめんなさい、ごめんなさい……青葉、青葉……っ!」 青葉が懸命に言葉を絞り出す。古鷹ねーさんは、そんな青葉を優しく見つめていた。 「青葉はっ……古鷹さんに、もらった、いのちなのにっ……それなのに、粗末にしてっ……何もできなくて……っ!」

2014-04-08 02:37:35
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

古鷹ねーさんが首を振る。 「ううん、青葉はずっと生き残って、ずっとずっと皆のお役に立ってたよ。それは、私たちにはできなかったこと。青葉にしかできなかったことだよ」 青葉の嗚咽がより大きくなる。そして古鷹ねーさんが言った。 「青葉は、私の誇りだよ。ありがとう、ありがとう……青葉」

2014-04-08 02:42:35
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉が大きな泣き声を上げて床に身体を伏せた。古鷹ねーさんがそれを抱きしめて支えている。その目にも光るものが見えた。加古は青葉の背中を優しくさすっている。私の頬にも涙が流れる。私は、その光景をただ見守っていた。ただただ、見守っていた。

2014-04-08 02:48:18
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

泣き続ける青葉は、聞き取れる限りひたすら「ごめんなさい、ごめんなさい」と繰り返していた。古鷹ねーさんは「大丈夫、大丈夫だよ」と青葉をあやしている。その温かさに、青葉の嗚咽が少しずつ小さくなる。そして、泣き止んだ最後にぽつりと、青葉の「ありがとう」が聞こえた気がした。

2014-04-08 02:54:01
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉、ねえ青葉。もう許してあげてもいいんじゃない?自分自身を。許してくれたよ、古鷹ねーさんは。自分にかけた呪いを解いてさ、また皆で一緒に笑おうよ。私は、その日が来るのをずーっと待ってる。青葉を見守りながら、ずーっとずーっと、待ってるよ。

2014-04-08 02:59:25
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

翌朝、私と加古は執務室へ向かう廊下を並んで歩いていた。青葉は、泣き疲れて眠ってしまった昨日から今朝に至るまでずっと眠り続けていた。少しだけ心配だったけれど、その寝顔は決して苦しげでも前のようにうなされてもいなかった。加古はというと、いつも以上に眠たげで今にも力尽きて寝そうだった。

2014-04-08 03:06:28
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

昨日せっかく少し見直したのになあ、と思いながら加古に話しかける。 「あんたなんでそんな眠そうなの?昨日だって古鷹ねーさんと引き上げていったのそんなに遅い時間じゃなかったじゃない」 「引き上げたのはね……でも……あの後一晩中……古鷹の話相手に付き合わされてさ……」

2014-04-08 03:12:00