座礁艦隊　２　リンガ泊地第1661支部

RyoRi （VRVape屋さん） @ryorinovels

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かつてオマーンと呼ばれた国の北沿岸部にある港町。市街地の外れ、まるでアラブの宮殿のような外観のリゾートホテルが、リンガ泊地第1661支部である。 #座礁艦隊

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敷地の外れに場違いな和風の建築物がある。海に向かって開いた弓道場のような、というよりほぼ弓道場そのものなそれは、弓道式空母の発艦訓練場である。 空母しかまず出入りしない訓練場に、場違いな艦娘が立っている。 #座礁艦隊

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魚雷発射管を腿に二基、背部艤装に二基。艤装には白い迷彩模様が描かれている。腰にはガンベルトとサーベル。まるで海賊のようなブーツ、マント、眼帯。第二次改装を終えて重雷装巡洋艦となった、木曾である。腕を組んで射場に立ち、的の立ち並ぶ海を見つめている。 #座礁艦隊

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背部の魚雷が一本、信管を作動させずにおもむろに射出される。当然すぐに落下するが、木曾はそれをキャッチ、一歩踏み込んで、うわ手に投げた。魚雷は回転せず、緩い放物線を描いて飛ぶ。すると放物線の頂点で、魚雷が簡易な翼を展開、滑空を始めた。 #座礁艦隊

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トマホークミサイルのような形となった魚雷は、そのまま直進。300メートル先の的に吸い込まれ、衝突した。パン、という甲高い音。爆発はしない。訓練用の弾頭であった。以前客を招いて実弾でやった際、空母筆頭の赤城にこってり絞られたからだ。 #座礁艦隊

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「魚雷には詳しくありませんが、面白い機能ですね」 その赤城は射場の後ろで正座し、木曾の魚雷投擲を観察していた。 「まだいろいろと問題がある。横風に煽られると普通の魚雷よりも大きく逸れるんだ」 木曾は背部艤装を下ろし、魚雷を一本取り出す。 #座礁艦隊

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木曾の魚雷は弾頭よりも後ろの部分が、普通の魚雷と違っていた。推進用のスクリューはなく、舵も無い。ただの筒だ。いくら詳しくなくても空母だって攻撃機で魚雷を運用するから、赤城にもそれは分かった。 木曾が魚雷をいじると、中心のスリットから主翼が展開、さらに尾翼が現れた。 #座礁艦隊

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「もう魚雷というより、羽根付きの爆弾ですよね」 「安定翼付き滑空爆弾という具合だな」 「そうまでして、地上で魚雷を射つ意味はあるんでしょうか」 「大事なのは弾頭だ。このサイズで同等の威力を持ったミサイルでもあれば、すぐさまそちらに載せ替えるさ」 #座礁艦隊

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「妖精さんの技術が壁、ですか」 そう言って赤城は茶を飲む。木曾は魚雷の羽根をを畳んで発射管に詰め直す。 「赤城さんは、艦娘と演習でなくガチでやりあう日が来るとは考えてもないかい？」 「いえ。でも、それが起こるならば、まずは私たちの領域である海の上ではないでしょうか」 #座礁艦隊

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「フムン。理由は？」 「特に強い理由は無いです。ただ、艦娘はほぼ全て海で戦っていますから。確率の問題ですよ。母数がおおければ、より起こり得る」 「空母らしい考え方だな。いや、嫌味で言ってるんじゃない。まったくそのとおりだ」 木曾はその場にあぐらをかき、赤城へ向き直る。 #座礁艦隊

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「艦娘同士で殺しあうんだ。俺たちの想像もつかない理由だろうしな。もしかしたらもう起こってるのかもしれない。純粋に確率の問題だ。俺もそう思ってる。だからこそだ」 射場の床を指差す。 「ここ中東で、その確率が劇的に高まってるんだ」 #座礁艦隊

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「また木曾さん独自のコネクションからですか」 赤城は驚くそぶりも見せずに、もう一口茶を飲んだ。 「あなたの情報は確かにほとんど確実でしたが、誤報が無かったわけではありません。これは純粋な疑問ですが、実際に見ていないのに、そこまで信用が置けるものなのですか」 #座礁艦隊

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「そりゃ、艦載機と視界を共有して全部を見渡す空母様には分からないだろうけどさァ」 「分かりませんね」 「こういう繋がりで人は世界を広げてきたのさ」 「あなたは艦娘でしょう」 「人でないワケではないぞ」 「で、わざわざ私を呼び出したのは？」 「すまん、それなんだが」 #座礁艦隊

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「…………余剰の艦載機を、ですか」 「艦載機開発は赤城さんの担当だろう。開発で出たやつ、零式水偵でも九六式艦戦でも構わないから、俺にくれないか」 「水上機は要らないと、常日頃から言ってたじゃないですか」 「今回ばかりは必要なんだ。できるなら出ただけ欲しい。どうか頼む」 #座礁艦隊

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木曾はあぐらをかいたまま床に手をつき、深く頭を下げた。無礼千万な口の聞き方と態度にしか見えない。が、 「いいですよ。私は構いません」 赤城はあっさりと承諾した。 「本当か。ありがたい。恩に着るよ」 「あとは提督と初雪さんに確認を取ってくださいね」 #座礁艦隊

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「もちろんだ。助かる。例はいずれ」 艤装を持って立ち上がる木曾。 「差し支えなければ、何に使うか教えてくれますか」 「こいつの姿勢制御にさ」 先ほどの魚雷を示す。 「姿勢制御？」 赤城は首を傾げる。 「魚雷はジャイロスコープと深度計で舵を取る。知らないか？」 #座礁艦隊

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名前からして縦舵横舵を制御するものかしら、と赤城は想像する。攻撃機の魚雷は妖精さんに任せっきりだ。 「それらを航空機の計器類で代用するんですね？」 「元々のやつだとどうも調子がイマイチでな。空中を飛ぶなら同じ飛ぶやつのがよかろうと、まァそんな感じだ」 #座礁艦隊

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この口ぶりだと妖精さんの協力も取り付けてあるんだろうな、と赤城は思った。艦娘の躯体改造はともかく、艤装や武器のカスタマイズについては妖精さんが断るというのは聞いたことが無い。まあ、滑空する魚雷を既に用意しているのだから良いのだろう。 「妖精さんは乗せないんですか？」 #座礁艦隊

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出し抜けな質問に木曾は面食らった。赤城は時々こういうことを臆面もなく言い放つから対応に困る。 「……そこまできたらロケットエンジンでも積むかい」 「冗談ですよ。いくら妖精さんがいつの間にか補充されるとはいえ、さすがに私も心が痛みますから」 #座礁艦隊

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「あんたのは冗談に聞こえんよ。お互いにあれらを搭載する機会がなかったのは幸運だったかも知れんぜ。北上には悪いが」 「モデル艦の記憶なんて無いですけどね」 「まァな」 木曾はすたすたと射場を出てゆく。残った赤城は立って弓を構え、矢筒から艦爆矢を一本抜いてつがえた。 #座礁艦隊

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射場の端にある長方形のサーキュレーターが作動し、向かい風を発生させる。赤城の長髪がばさりと靡いた。擬似的な対気速度が得られる。戦闘行動を想定して、型を意識せずおもむろに弦を引き絞る。パン、と弓が鳴り、艦爆矢が放たれた。矢は空中で、艦上爆撃機、彗星の形に変身する。 #座礁艦隊

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彗星はエンジンの音を響かせながら飛び、水平線の先へ消えてゆく。十数キロほど先の的に爆弾を落とすためだ。あらゆるものが実物通りの性能を示す艦娘の武装の中で、なぜか航空機だけは著しく弱体化されていた。 #座礁艦隊