【生きる情熱】 福間健二 #2factory62

スザンヌ・プレシェット主演、ウォルタ―・グローマン監督の『生きる情熱』(一九六四)は、高校生のときに見た忘れられない映画のひとつである。その原題が A Rage to Live だと最近知った。生きるための怒り、だろうか。幸福の条件の揃ったペンシルヴァニアの富豪の娘がむなしい男遍歴を続けていくという話だった。このタイトルで、そこにつながろうと思いながら、まったく違う方向に歩いてしまった。「不時着」というのも、実はスザンヌ・プレシェットが『生きる情熱』の前に出た映画のタイトル。それもこれもほとんど関係ないようなことになった。5でカフカを出したあたりから気持ちがラクになった。ちょうど初期作品を読み返していた佐藤泰志を使った。そして最後は、ディラン・トマス。その Do Not Go Gentle Into That Good Night を思い出している。 続きを読む
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福間健二 @acasaazul

塔でも棒でも男でもよかった。立ち上がり、倒され、恐怖よりも好奇心がまさった人々がそれを見るために群がり、夕暮れになると散っていった。百年、それ以上、作物の実らなかったこの地面。ここに不時着した。どうしよう、ぼくを運んだ箱はまだ爆発していない。(生きる情熱1)#2factory62

2014-04-10 09:38:39
福間健二 @acasaazul

何をとりだそう。二十世紀の妹たちの箱からなら、磁石と望遠鏡。懐かしい鉄条網とマテリアル・ガール。できあがっていない、だからかわいい。そんな嘘と一緒に、役には立ったのだろう。さびしい夜。さらに迷うためだとしても、魂と体のあいだに通路をつくって。(生きる情熱2)#2factory62

2014-04-11 07:48:11
福間健二 @acasaazul

不時着。二〇一四年のモデル。箱がガタガタいっている。ぼくを構成する機械がばらばらに動きだして、そのガタガタが予測できないものになった。当然、右胸のエンジンに一羽の鳥が吸い込まれる。わかりやすい事故。では、左胸はどうなのかという不安ラジオだ。(生きる情熱3)#2factory62

2014-04-12 07:05:51
福間健二 @acasaazul

「明日があるのだろうか」。だめになっていく領域を古典的に読んでいる。故意の事故。子どもでも嘘だとわかる証言。液体に弱い読み方なのに出会う心と心があって、ひとりはコーヒーをこぼして拭きとらずにいる。ひとりは未知の闇に入ってくしゃみが止まらない。(生きる情熱4)#2factory62

2014-04-13 07:53:40
福間健二 @acasaazul

カフカのように。感情事典。何度もしちゃう婚約破棄。期待以上の、反撃する力。だれかにはあって、だれかにはない。ある部分に蜜がしたたり、ある部分に錆びた釘が刺さる。組み合わされた彼女たちは傷つきながら、どこか曖昧さがある。その曖昧さがセクシーだ。(生きる情熱5)#2factory62

2014-04-14 10:43:13
福間健二 @acasaazul

怯える人間。自分が罠。精神の、ある要求と、肉体の、ある要求の、悪魔的な同盟に驚いている。何を語れというのか。サイズと硬度、輝きの質だ。三人目、四人目、予想に反してだんだん激しい嵐となる。そしてぼくはこの風の朝に運ばれ、ジャケット着ていない。(生きる情熱6)#2factory62

2014-04-15 07:56:22
福間健二 @acasaazul

始末しにくいもの。たとえば道草ついでの、美しい感情。世界の悪意をないことにしたい孔雀でなければ、行ったり来たりの慰問屋だ。羽をひらく。ショータイム、犠牲になりたい「荒地」の王様が解剖される。失敗しても、すべてが台なしになったりはしないけど。 (生きる情熱7)#2factory62

2014-04-16 07:29:35
福間健二 @acasaazul

一九七一年の、贋の父親。佐藤泰志が書いている。静かな男。跳ぼうとして転落した。ぼくは彼を知らないと言う。「逃げるのか」と警備員が叫んだ。そうだ、逃げてきてここにいる。そこからの迷路の、いくつもの停止点を一気に接続する閃光を走らせて。その男も。(生きる情熱8)#2factory62

2014-04-17 10:10:54
福間健二 @acasaazul

周波数の合う機械に囲まれ、踊りたいときに踊り、寝たいときに寝る。ゆっくりゆっくりドラゴンの川に幽閉される彼女を奪う。そんな夜、そんな箱。素直に誘惑されたひとりがぼくで、入ろうとすると「入っていくな」とだれかが叫んだ。遠くから、でも太い声で。(生きる情熱9)#2factory62

2014-04-18 07:43:53
福間健二 @acasaazul

その男、つんつるてんの制服を脱いで父親に呼びかけるディラン・トマスだ。レイジ、レイジ、アゲインスト、なにもかも。装置対装置、どっちが勝っても、生きていくのは天使でも悪魔でもない人間様。生きる情熱。それは怒りだ、と彼は大皿の朝食をたいらげた。(生きる情熱10)#2factory62

2014-04-19 08:50:49