【読書する黒子の】近代・現代国文学の中の「理不尽」【簡単解説】

読書する黒子さん @kuroko_1011

村上春樹について話そうとメモをつくったんですが、眺めれば眺めるほどR18な内容な気がしてしまって、これ普通に流していいのかとためらっています

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今日は「小説を読む人が見逃しがちな大事なテーマのひとつ」について話をしましょう。村上春樹・森鴎外・中島敦について言及しながらできるだけ分かりやすく。

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まずここでいう「小説」は近代以降の日本における小説のことです。僕が毎回この前置きをするのは「文学、とくに小説は宗教的思考を強く反映するものであり、なおかつ日本の宗教観は独特である」という前提があるからです。「小説」と「Novel」は違うものなんです。

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小説に込められるテーマ、読み取られるテーマは様々ありますが、その中で「目につきやすく」「ストーリーにも強く食い込み」「身近な問題である」にも関わらず忌避されがちなテーマが１つあります。それが「理不尽」というものです。

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村上春樹においてよく批判の１つになるのが「主人公が理不尽にもてる」などのご都合主義です。それほど僕らに嫌悪感を抱かせるほど、日本社会だけでなく、理不尽は僕らの中に燻っているテーマであり問題であり、つきつけられれば拒否反応を起こすものでもあります。

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森鴎外の『雁』という短編があります。これは世間的には評価が驚くほど低く、しかし研究者の間での評価は恐ろしいほど高い。青年に美しい未亡人が片思いをしていて、最後に会える日に「たまたま雁を殺してしまって持ち帰った為に告白ができない」まま二人はそれぞれもう会うこともない。そんな話です。

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これは理不尽の代表とも言われます。知名度は本当に低いんですが……他に、中島敦の『山月記』も理不尽について語っているものです。虎になった李徴は「自然がわたしたちに与える理不尽」について嘆いていますが、最終的には自分の人間性に答えを求め「尊大な羞恥心、臆病な自尊心」と結論します。

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人生は理不尽である。懸命に生きていても、誠実に生きていても、いくらいい子にしていても理不尽な想いをすることは多々ある……それを「神の試練」として耐え忍べる宗教観のあるものではない、それが、多くの明治維新後の日本人なんです。貴方は人生に訪れる大小の理不尽を受け入れられますか？

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だからこそ、近代国文学の流れを汲む村上春樹は、理不尽と不可解を煮詰めて、ストーリーに組み込んで、ストーリーにして、僕らに突き付ける。「キミはどうするんだ」とでも言いたげに。「直視できるかい」と。それを直視せず、つまらないという人は、村上春樹の中に流れる大きなテーマを掴めない。

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村上春樹の登場人物は確かに鼻につく人物が多いです。ですが、それをゆっくりと読み進めていけば、僕らと同じ「消化不良を抱えた現代人」であることは分かります。村上春樹は登場人物との出会いまでも理不尽で固めている……と言えなくもないかもしれません。

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批判的にお洒落ぶりやがって、という視線で読むのは二回目でもいいでしょう。まっさらな気持ちで、世の中にはこんなにも理不尽が詰まっているのだ、と笑いながら、泣きながら、素直にゆっくりと読んでみることをオススメします。それに気づけたなら、他の作品の理不尽も見えるようになります。

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村上春樹を読む、というより、村上春樹を乗り越えることで、今まで読んできた本の、見落としていた部分まで見えるようになる。そういうツールのひとつとして理解してみてはどうでしょうか。小説とは世界ではなく、世界を理解して、飲み込んでいくためのツールでもあるんですから。

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３行で。 他人の評価のみで食わず嫌いはもったいない。 村上春樹作品の理不尽を愉しんでみよう。 入門は短編集「TVピープル」の『眠り』がオススメ。

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と、いうわけで村上春樹を語りすぎるとR18になってしまうので、近代・現代文学の中での村上春樹の立ち位置についてでした。ご意見・ご質問お待ちしています。