地下鉄の少女#3

キノコ工場に勤める一人の青年。彼は通勤の地下鉄でいつも出会う少女に好奇心を膨らませていた。彼女は青年が乗る地下鉄には必ず乗っており、数個前の駅でいつも降りるのであった。しかしその駅は存在しない駅だった…? twitter小説アカウント @decay_world で公開したファンタジー小説です。この話は#4まで続きます
減衰世界
rikumo 636view 1コメント
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  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-23 16:32:36
     カラカは歯車二丁目の駅から出て地上を目指した。足元はふらふらとおぼつかない。自分が今まで信じてきた記憶が嘘だったのだ。彼は酷い思い違いをしていたのだろうかと悩んだ。しかし無いものは無い。彼は自分を納得させるしかなかった。 57
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-23 16:39:35
     地上に上がると、そこは寂れた工場地帯だった。人の気配はなく、稼働しているかどうかも分からない工場の群れがどこまでも続いていて……そして霧の中に消えていた。殺風景な場所だ。車がたまに道を通り過ぎていって、風を切る音がした。 58
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-23 16:45:45
     何もできることは無い。風景をしばらく見ていたカラカは、これ以上ここにいる意味を見いだせなかった。地下階段を下りていき、駅へと向かう。電車代は無駄になってしまった。定期が途中下車可能なものだったらよかったのに。彼はそのまま新聞を読むことも無く呆然と電車に揺られ帰宅した。 59
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-23 16:51:06
     帰宅したカラカはそのままベッドに身を投げて目を閉じた。まだ一日は何時間も残っている。しかし彼は何をするということも無くそのまま眠りに落ちた。毎日の仕事の疲れもあったし、せっかくの冒険が徒労に終わったのもある。 60
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-23 16:56:14
     カラカは夢の中で考えていた。自分が今まで見ていた歯車三丁目とはいったい何だったのだろうか。彼は魔法使いのことを考えた。魔法使いは帝都では絶対的な存在で、法律で保護され、市民に危害を加えるのも思いのままだ。61
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-23 17:04:06
     もしかしたら魔法使いが自分に魔法をかけているのかもしれない。そうに違いない。カラカは夢の中でそう結論付けた。夢の中で魔法使いのイメージが煙のように立ち昇る。それは、黒いマントをはためかせ赤い目を爛々と光らせる魔人だった。62
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-23 17:11:31
    「勘弁してくれ。俺が何をしたって言うんだ。俺は何もしたことは無い、ただ、何もない毎日を歩いているだけなんだ。お前は俺に何をしたいんだ? 俺を弄ぶのは止めてくれ……」 魔法使いのイメージは哄笑をあげて、手から稲妻をカラカに向けて放つ。 63
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-23 17:18:34
     カラカは悲鳴をあげて逃げ惑った。これではただの悪夢だ。カラカは廃墟と化した工場跡を抜けて、地下鉄の駅に逃げ込んだ。カツカツと革靴の鳴る足音が彼を追いかける。カラカは必死に廃坑のような地下街を抜ける。裸電球は頼りなく明滅していた。 64
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-23 17:22:33
     ホームに飛びだすと、駅員室の電信のベルが鳴り響いていた。背後から魔法使いの笑い声が聞こえる。あの電信を手にとれば、目が覚める気がする。カラカは駅員室の扉を開けようとした。だが、鍵がかかっている! 魔法使いの足音が近づいてくる! 65
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-23 17:25:31
    「助けて、助けてくれ、クソ、開けてくれ!」 ガチャガチャとドアノブを回すが、扉はびくともしない。ドアのガラスの向こうには誰もいない駅員室。だが、そこに異変が現れた。半透明の白い靄がゆっくりと駅員室の中に現れたのだ。 66
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-23 17:29:42
     それは少女の姿をしていた。いつも列車の中で見る少女だ。彼女はにっこりと笑うと、電信の受話器を手に取った。……そこで、カラカは目が覚めた。どうやら夜らしい。かなり寝てしまったようだ。そして……部屋の中には、電信のベルが鳴り響いていた。 67
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-24 16:36:40
    「はい、はい、消毒が終わったのですね、早速明日から仕事ですね、わかりました」 電信の内容は工場の稼働を知らせるものだった。正確にはキノコを生産再開させるための準備だったが。終わったのは掃除だけだ。清掃ギルドに任せれば1日で済む。 68
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-24 16:46:16
     かなりの量の菌床がダメになってしまった。一からまた栽培を始めなくてはいけない。それは少し頭が痛かったが、作業量自体は特に変わらない。カラカは背伸びをして、通信の終わった電信の受話器を壁にかけた。 69
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-24 16:54:38
     カラカは時計を見た。20時を回った所だ。さっきまでたっぷり睡眠を取っていたため、しばらく寝る気にはなれないだろう。彼は夕飯を買いに行くことにした。寝間着に着換えることなく眠りに落ちていたため着替える必要はない。 70
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-24 17:00:51
     財布もポケットに入れたままだった。カラカは立て鏡を見てくまの深い目を見た。かなり疲れているようだ。最近妙なことに振り回されてばかりだ。少し酒を入れて気分を紛らわせよう、寝やすくもなる。そう思った。 71
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-24 17:12:40
     玄関でカラカは魔除けの形代をいつもより多く、三枚手にとってポケットに入れた。この紙人形は、魔法使いから身を隠すまじないの一種だった。本当に魔法使いの脅威から身を守ってくれるものではない。ただの気休めだ。 72
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-24 17:20:52
     だが、魔法の力を持たず、ただ一方的に被害を受ける市民にはこういった気休めも必要なものであった。人間の心は鎧を纏わねばすぐに壊されてしまう。それこそ魔法使いのつけ入る隙だ。魔法は視線から侵入し、心の隙間をこじ開けて侵入する。 73
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-24 17:27:04
     カラカは周りに気を配りながら夜道を歩いた。不思議なことが起こっているということは、彼は魔法使いに狙われているのだ。そうに違いない。そう思った。魔法使いはゆっくりと心を壊しに来る。獅子が獲物をいたぶって弱らせてから止めを刺すように。 74
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-24 17:32:22
     しかしその晩は特に脅威にさらされることも無く、安心して少しの酒を飲み、ゆっくりと眠ることができた。夢は見たかもしれないが、彼は次の朝にはすべて忘れてしまった。朝起きて、彼は恐れが引いていくのを感じた。 75
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-24 17:40:08
     そうだ、俺は大丈夫だ。そう思って立て鏡を見た。目は相変わらず大きなくまがあり落ち込んでいるが、それはいつものことだ。カラカは寝間着を脱ぎ捨て、作業服に着替えた。そして力強く家を飛び出す。たくさん寝て酒を楽しんだせいか、身体は軽い。 76
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-24 17:48:20
     売店で新聞を買い、鼻歌交じりに地下鉄に乗り込んでシートに座った。いつもの一日が始まる。そう思うと身体の歯車がかみ合うような心地よさを感じる。そうだ、いつも通りだ。いつも通りに働いて……そこで彼はどきっとした。気付いたのだ。 77
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-24 17:52:03
     目の前のシートに座って居眠りしている……いつも見ていた少女の姿に。 78
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-25 16:26:50
     カラカは新聞を広げようとしていた手を凍りつけさせて、じっと彼女を見ていた。昨日あれだけ探しても見つけられなかった地下鉄の少女が、いま目の前にいるのだ。まばたきを忘れ目が乾くのを感じた。 79

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