苺という恐怖

メリカはどういうわけか苺が怖かった。だから彼女は今まで苺を食べたことが無い。そんな彼女が出会った魔法使いとは…? 小説アカウント @decay_world で公開したファンタジー小説です
減衰世界
rikumo 585view 0コメント
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  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-29 17:41:53
     メリカは苺が怖かった。どういうわけか物心つく頃から彼女は苺が怖くてしかたなく、口に含むのを非常に嫌がった。彼女の誕生日ケーキからはいつも苺が除かれ、フルーツ盛り合わせでも苺だけは残した。周囲は皆不思議がった。苺の何が嫌なのか、誰も彼女の口から聞いたことは無かった。 1
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-29 17:51:27
     それもそのはず、彼女自身にもその理由が分からなかったのだ。本能的に蛇や蜘蛛を恐れるように、メリカは苺を恐れた。周囲もいつしか慣れていき、そう言うものだと認識するようになった。そうしてメリカは……19歳になった。青いシャツの似合う、クールな女性になっていた。 2
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-29 18:01:09
     彼女は街の新聞記者になった。学校を卒業してすぐ、彼女は就職して各地を転々とした。恋をする暇も無い。担当は魔法事案。魔法の引き起こした怪奇現象を追う部門だ。彼女の街には魔法使いが何人か住んでおり、魔法使いたちは気紛れに各地に爪痕を残していく。それを調査しするのだ。 3
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-29 18:12:28
     彼女の書いた記事によって街の魔法研究者たちが現地を訪れる。魔法研究者たちは魔法によって変異したものを利用して、市民の役に立てようとしている。隕石が落ちたら災害が起こるが、隕鉄を回収できれば鉄器が作れる、そのようなものだ。メリカはこの日も魔法事案現場に来ていた。 4
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-29 18:18:37
     それは昨日までただの畑だったはずだ。火山灰を耕して作った農場には、一面に芋が植えられていたはずだ。だが、メリカが目にしたのは巨大なキノコの森だった。畑から凄まじい大きさのキノコが密生しているのだ。手を挟む隙間もないほどぎっちりと生えている。2メートルは高さがあるだろうか。 5
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-29 18:29:56
     キノコはどれも不健康そうな白い色をしていた。農家の男に聞いてもこんなキノコを植えた覚えは無いという。「はぁ、これは間違いなく魔法事案ですね。魔法使いは法律で保護されていますから、植えていた芋は諦めるしか無いですね」 それを聞くと農家の男はがっくりと肩を落とした。 6
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-29 18:35:20
    「これ食べれますかね?」 農家の男はそう言ってキノコを見上げた。作物がダメになったら収入に大きな打撃となる。それならばとキノコを有効活用したいという。「食べるのを止めはしませんが……魔法の生成物ならば、魔法研究者たちに高く売れるんじゃないでしょうか」 メリカは言う。 7
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-29 18:40:24
    「あいつら貧乏だって聞きますよ。そんなに高く売れそうにないなぁ」 男はそう言ってキノコの幹を摘まんだ。チーズを裂くように、幹は縦に繊維状に裂けた。彼は匂いを嗅いでみる。「おっ、こいつは……甘い香りがするぞ! 苺の香りだ!」 それを聞いてメリカは露骨に距離を取った。 8
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-29 18:44:22
    「わたし、苺は苦手なんです」 「そうかい、珍しいな……オッ、これは味も苺だ!」 男は匂いがよかったのもあって、キノコを口に含んだ。「苺が苦手だって、変わってるなぁ」 そのとき、そんな声が聞こえた。メリカと男は振り返る。すると、手のひらサイズの青年がキノコの上に座っていた。 9
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-29 18:50:20
    「魔法使い……!」 メリカはとっさにペンダントを握る。魔法使い避けの呪いの品だ。だがペンダントは彼女の手の中で砂になってしまった。「そんなおもちゃじゃ僕を避けられないよ」 青年はローブを着たいかにも魔法使いといった様子だ。ニコニコと笑ってメリカを見ている。 10
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-29 18:54:09
     メリカはその青年のことが酷く恐ろしかった。魔法使いというのもある。しかし、何か別なものを感じてしまうのだ。「僕は苺の魔法使い。僕の魔法で苺にできないものは無い。君は苺が苦手だってね。気になるなぁ、そんなひとは、初めて見たよ」 メリカは農家の男に助けを求めようとした。 11
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-29 19:01:22
     しかし、男の様子を見てメリカは息を飲んだ。農家の男は、立ったままキノコの塊になっていたのだ。「変だな……君には苺の魔法が効かない。なんか変だよ、君。苺の味を知らないんじゃないか?」 魔法使いの指摘通りだ。メリカは苺を恐れ、苺をとうとう口にすることは無かった。 12
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-29 19:06:15
    「苺の味を教えてやるよ」 そう言って小さな魔法使いはぴょんと飛びあがると彼女の肩に降り立った。驚いて肩を見るメリカ。すると、魔法使いはその口にキスをしたのだった。「あは、お嬢さん。これが苺の味だよ。僕に触れるもの全ては苺の味だからね、さ、君はもう僕の魔法のとりこ……」 13
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-29 19:10:36
    「大丈夫だもん、あなたは間違いをおかしたよ」 そう言ってメリカは肩から魔法使いをはたき落してしまった。「ま、魔法が効かないだって」 魔法使いは魔法が効かないと分かるや、火花を散らして空の向こうに消えてしまった。メリカは笑うと、キノコを裂いて口に含んで言った。 14
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-29 19:16:28
    「だってこの味は今日からキスの味だからね!」 15

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