『鳥カゴ』から抜けだした『羽根つき』

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CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

サイレンの音で僕は目を覚ました。眠い目をこすりながら窓の外を見ると『鳥カゴ』のある方向で何本もの光の柱が踊り、オレンジ色の曳光弾が夜空に噴き上がっていた。「あぁ、またやってるのか」この街ではよくあることだ。『ギフト』として育てられる羽根つきを育てる施設『鳥カゴ』はたまにああなる。

2014-04-30 19:13:27
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

一瞬、要塞に巨大な金網を乗せたような『鳥カゴ』の姿が朱染めで闇の中に浮かび上がった。数秒遅れて爆音が安普請のアパートを揺らす。「爆弾か、今日は派手だな」脱走や羽根つきの人権を声高に叫ぶ過激派による『鳥カゴ』への破壊工作はもう噂にすらならないほど常態化している。

2014-04-30 19:17:57
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

羽根つきの『輸出』はこの国の生命線だ。街で飲んだくれている兵隊よりも『鳥カゴ』を守っている兵隊のほうがゴテゴテした銃を持っているし、あそこに出入りするトラックは皆泥汚れのついていないピカピカのトラックばかりだ。 ベッドに身を投げ、なるべく窓から聞こえる音から意識を遠ざける。

2014-04-30 19:23:03
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

窓を閉めてしまえば遠くの銃声も爆発音も寝るのには困らない程度に聞こえなくなるが、冷房なんていう文明の利器は僕の安月給ではとても買えないのでこうして騒ぎが収まるまで窓を開けてさっさと終わることを願うほかない。兵隊の怒号が通りから聞こえる。勘弁してくれ。こっちは明日も早いんだ。

2014-04-30 19:30:08
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「あっちに逃げたぞ!」「翼に当てたんだ、そう遠くへは逃げられないはずだ」兵隊たちは脱走した羽根つきを追ってきたのだろう。こうなると面倒だ。匿っていないかあいつらは片っ端からドアを蹴破って虱潰しに探す。「おい開けろ!」荒々しくドアが叩かれる。ほら見ろ、早速お出ましだ。

2014-04-30 19:38:34
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「あーはいはい、今開けますよ」鍵を開けると僕はいきなりふっ飛ばされた。ギラギラした目の兵隊は床に転がる僕を見て鼻を鳴らすと後ろに控える兵隊に合図した。兵隊たちは僕のアパートにある扉という扉(といっても風呂場と物入れと食器棚くらいしかない)を開け放って誰も居ないことを確認する。

2014-04-30 19:42:36
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「協力に感謝する」「どういたしまして」兵隊たちが別の階に行くのを確かめてから僕は立ち上がった。なんでこんな目に遭わなきゃならないんだ。うんざりしながら僕はドアを閉める。 再びベッドの上に寝転がり、今度こそ眠りにつくため目を閉じる。外から何かが落ちるような音が聞こえたが気にしない。

2014-04-30 19:55:21
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「ぐぎゃっ!?」何かに腹を踏まれた。「きゃっ」女の声だ。泥棒か? 鼻に何か柔らかいものが押し付けられる。「もがもがもが」もがく僕の顔に生ぬるいものが滴り落ちる。柔らかいものを押しのけ、頬に垂れた液体を確かめる。赤黒く粘りつく液体が薄明かりに浮かぶ。血だ。

2014-04-30 20:07:16
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「いつつ……」床の上で女がうずくまっている。白い肌、薄金色の髪、そして髪と同じ薄金の――翼。「は、羽つ……」「静かに!」「むがっ」言い終わる前に羽根つきの手が僕の口を抑えた。「今私が兵隊に見つかったらあなた銃殺刑だよ」「むごっ!?」あり得る。というか連中ならやりかねない。

2014-04-30 20:15:13
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「一日だけ匿って、お願い」羽根つきは真剣な眼差しで僕を見つめる。「今夜はまだダメ、あいつらがいるから」あいつら、というのは兵隊たちのことだろう。「お願い」ゆっくりと僕の口を抑えていた手の力が弱まる。「どうやってその羽根で逃げるんだ」「えっ?」羽根つきはきょとんとした表情を浮かべる

2014-04-30 20:23:30
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

はたして自分の背中を見た羽根つきは、自分の翼が赤黒く染まっていることに気がついた。「ひっ」叫びそうになった羽根つきは慌てて自分の口を抑えた。「あ、ぐぅ、痛っ……」傷口を見て自覚したのか羽根つきは痛みに顔を歪めた。「と、とりあえず手当しないと」傷口からはまだ血が流れている。

2014-04-30 20:44:23
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「これでよし」安酒で消毒した傷口にガーゼを当て、ずれないよう包帯で固定する。「……ありがと」羽根つきは気まずそうに僕を見上げる。人間だと18、9くらいだろうか。「逃げれると、思ったんだけどな……」羽根つきは寂しそうに傷がないほうの翼を揺らす。「そういえばお前、名前はないのか?」

2014-04-30 21:58:26
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「ないよ?」「え?」羽根つきは即答した。「私たちは生まれた時から『鳥カゴ』の中だし、名前は買ってくれた人にもらうって習った」「IDはG5821」羽根つきは足首に付けたタグを僕に見せた。そこには確かに『G5821』と刻印されている。「IDって……お前らそんな扱いだったのか」

2014-04-30 22:03:25
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「あ、でもね。名前をもらったら持ち主と貰った名前を肩のところにつけてもらうの。焼きごてで、ジューって」「おま、それじゃ家畜と同じじゃないか!」僕の言葉に羽根つきは首を傾げた。「家畜? なにそれ?」彼女たちは、相当歪んだ教育を施されているようだ。だとしたら、なぜ彼女は逃げ出したのか

2014-04-30 22:09:40
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「じゃあ、なんでお前は逃げ出したんだ」「そら」「へ?」予想していない答えが出てきた。「もっと、広い空で飛びたかったから」羽根つきは迷いなく答えた。そのために、こいつは『鳥カゴ』から逃げ出してきたのか。「でも、これじゃもう飛べないね」撃たれた翼を見て、羽根つきは悲しそうに目を伏せた

2014-04-30 22:14:12
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

続くかもだ(戸田奈津子訳)

2014-04-30 22:14:26