Orphe兄貴の艦これ航海日誌~扶桑姉妹編(2013年8月)

「人生をやりなおすつもりはないか?」
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HOTLINE_ORPHE @Orphe2ndseason

「いい天気ですね」雨に打たれながら扶桑が言う。焼けついた砲身から蒸気が上がるのが見える。「昔のことを思い出したのか」「はい」 「姉様帰りましょう、戦闘は終わりましたよ」遠くから山城が手を振る。 あいつらはいつも二人だな。あの雨の日もそうだった。 #艦これ航海日誌

2013-08-04 14:59:41
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破れた服に返り血、ナイフ。物騒な格好の二人の少女が鎮守府の玄関に立っていた。「助けてください」長髪の少女が俺にそう頼む。短髪の少女は半ば放心した状態でもう片方にもたれ掛かっている。外は雨、誰かは知らんが無視して風邪でも引かれたら気分が悪い。入れ、と言う。 #艦これ航海日誌

2013-08-04 15:05:27
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家庭内暴力。長髪の少女は淡々と父親が自分達にしてきた事を語った。 「で、お前は妹を犯そうとした親父を刺して逃げてきたというわけか」「はい」「これからどうするつもりだ」「わかりません」「自分がもう娑婆にいられないって事は、わかるか?」「それは、はい」 #艦これ航海日誌

2013-08-04 15:09:52
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「私は警察に行きます。でも妹だけはここに置いてやってくれませんか。勝手な事だってわかってます。でも、あの家には帰したくない」強い口調で姉はそう言う。こいつ、意外に肚が据わってやがる。 俺の中で、ある考えが浮かび上がった。「人生をやりなおすつもりはないか?」 #艦これ航海日誌

2013-08-04 15:13:22
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姉妹の前に「扶桑級艦娘設計案」と書かれた書類を置く。「これは」「軍の機密ってやつだ。口外無用だぞ」「私たちに…これになれというのですか」「素質はある。少なくともお前はな。艦娘になればこれまでの過去は原則不問だ。給料も出る。妹も養ってやることもできる」 #艦これ航海日誌

2013-08-04 15:16:32
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「それは私に、人であることをやめろと言っているのですか」「悪くない提案だと思うがね。これから『人』として日陰者の一生を送るか、それとも『艦娘』としてリスタートするか。俺はチャンスを提示してる。だが選ぶのはお前だ。どうする?」 #艦これ航海日誌

2013-08-04 15:19:44
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すっ、と姉は俺に手を差し出す。「その提案、受け入れます」「よろしい」俺は姉の手を握る。「契約は成立、お前は我が鎮守府の軍属となった。今日からは『扶桑』と名乗れ」「はい」扶桑は力強く頷いた。 すると、今まで黙っていた妹が口を開く。「私も…艦娘に…」 #艦これ航海日誌

2013-08-04 15:24:56
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「あなたがそうなる必要はないわ!なるのは私だけでいい」「姉様だけに苦労を背負わせたくないの。今まで私を庇ってくれた分、私も役に立ちたい。提督さん、お願いします」 俺はしばらく考え、扶桑に聞く。「おい。お前が刺した親父はまだ生きてると思うか」「え?」 #艦これ航海日誌

2013-08-04 15:28:20
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「何をいいだすんですか、突然」「いいから答えろ」「とっさでしたので、急所は外しました…おそらく、まだ生きてると思います」ならば良し。俺は妹に向き直る。「お前に名と新しい人生をやろう。『山城』としてのだ。だが条件がある。何でもやれる覚悟はあるか?」妹は頷いた。 #艦これ航海日誌

2013-08-04 15:31:22
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腐りかけのボロ屋敷の前にカマロを止める。「ここがお前らの家か」「…はい」「ついてこい」戸を蹴破り中に入る。居間には醜い中年の男が下着姿で包帯を巻いていた。「なんだてめえは」口の代わりに鉄パイプで返答してやる。悶絶する男。妹が悲鳴をあげる。俺は妹の頬を張る。 #艦これ航海日誌

2013-08-04 15:35:32
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「提督!」「悲鳴は必要ない。艦娘になるんだろう。戦場はこれよりもっとひどい。人の血を見るだけじゃない。自分で誰かに血を流させなきゃいけないんだ。お前、さっき覚悟があると言ったな。証明しろ」鉄パイプを妹に渡す。「お前が殺せ」 #艦これ航海日誌

2013-08-04 15:38:08
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妹は鉄パイプを握りしめ、ゆっくり父親に近づいていく。頭を割られパニックになった父親は、娘たち二人の名を叫びながら罵り声を上げている。自分の名が出てくる度、妹は体を震わせる「耳を貸すな。殺せ、『山城』」金切り声と鈍い音の後、男の声が止んだ。鈍い音が連続する。 #艦これ航海日誌

2013-08-04 15:43:13
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「痛くはないのでしょうか」「一応麻酔はするぞ」「不安だわ…」「山城、大丈夫よ。私が隣にいるから」「じゃあ爺さん、二人をよろしく頼む」「かしこまり!」工厰を後にし、隼鷹を呼ぶ。大麻のせいで返事が遅い。「呼んだぁ?」「歓迎会の準備するぞ」「ヒャッハァ!」 #艦これ航海日誌

2013-08-04 15:47:21
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技術は常に拡張と洗練を要求する。圧倒的な非人格性の要求を前にして判断を下すのが人の宿命とも言える。合理性と衝動の間に立つ軍事の世界に置いてもその要求は立ちはだかってくる。ただしこの場合悩むのは人ではなく兵器の方である。 #艦これ航海日誌

2013-08-06 23:23:11
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艦娘としての人生を受け入れてからというもの、扶桑姉妹の人生は変わった。以前よりも遥かに高度な教育を無償で受けることが出来、彼女たちの冴えた知性はそれを乾いた土壌のごとく受け入れた。二人は共に強さを追求した。鎮守府図書館の貸出リストでは、常に二人の名前があがる。 #艦これ航海日誌

2013-08-06 23:25:21
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艦娘にとって、強さの探求とはすなわち設計思想への対峙に他ならない。生来生真面目な扶桑は、自身の過大な艤装をさらに拡張する方向へと動いた。勲章が増え、人から祝われる度に彼女の装備は増えていった。一方で山城は、姉とは違う強さを見つけようとしていた。 #艦これ航海日誌

2013-08-06 23:28:23
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互いに目指す方向が違っていたとしても、その目的は二人が強くなるやり方の模索であって、姉妹が互いを愛し合っていたことは間違いない。しかし情とはついぞ他者から心底理解され難いものであるのも確かだ。山城の場合もそうだった。 #艦これ航海日誌

2013-08-06 23:30:27
HOTLINE_ORPHE @Orphe2ndseason

それは戦闘が終わった直後のことだった。珍しく全身がほぼ無傷で遺ったタ級の遺体を艦隊が持ち帰ってきた時のことだった。損傷がないようあらゆる措置を施されて鎮守府の奥部に保管されたタ級の姿を、山城は舐めるように見つめていた。 #艦これ航海日誌

2013-08-06 23:32:44
HOTLINE_ORPHE @Orphe2ndseason

「そんなにこいつのことが気になるのか」「提督、いたんですね」タ級から目を離さず、山城が答える。「どう思った」「艤装が最小限に抑えられています。外から見える機械の部分は砲塔程度で、それ以外の機能は身体の内部にあるように見えます」たしかに、この怪物は洗練されている。 #艦これ航海日誌

2013-08-06 23:35:42
HOTLINE_ORPHE @Orphe2ndseason

「どんな技術がこれを可能にしているのかな」「提督の方では何か手がかりは」「いや、解析をしているが軍事誌に出せるほどの成果はまだ出てないな」そこでようやく山城は俺の方に向き直り、「聞いたことがあります。私たちは彼女から出来た、と」 #艦これ航海日誌

2013-08-06 23:37:37
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そう、艦娘は深海棲艦から産まれた。 あの戦争が始まった直後、人類は艦娘を持たなかった。現代兵器のあらゆる手段を嘲笑するかのように艦霊は圧倒的な暴威を振るった。幾度の試行錯誤を経て、ついに人類は一隻の駆逐艦を倒すに至る。それがきっかけだった。 #艦これ航海日誌

2013-08-06 23:40:05
HOTLINE_ORPHE @Orphe2ndseason

吹雪、叢雲、漣、電、五月雨。敵駆逐艦のデータを解析し、遺伝子工学とオカルティズムを組み合わせることで産まれたこの原初の5人こそが、人類の反撃手段「艦娘」のきっかけだったのだ。我々は深海棲艦から学び、それを元にして戦う手段を編み上げたにすぎない。 #艦これ航海日誌

2013-08-06 23:42:52
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「無限にも近い自然の選択の可能性から、人間は少数の物をピックアップし、自分たちの糧としてきた。科学とはそういうものだと考えています。艦霊と艦娘の関係も同じものでは?」 山城の言葉に俺は頷く。「艦娘は未だに本質には到達していない。私にはそう思えてならないのです」 #艦これ航海日誌

2013-08-06 23:46:20
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少し嫌な感じを覚えて、山城に釘を刺す。「変なブレイクスルーなどなくても、俺達は勝てるさ。お前の姉さんだって、旧式とか言いながらも艦隊では5本の指に入る勇士になってる」山城は俺をにらみ「ですが、そのせいで姉様は苦しんでいます」 #艦これ航海日誌

2013-08-06 23:50:48
HOTLINE_ORPHE @Orphe2ndseason

「近代化改修の度に、一番の活躍をする度に、姉様の装備は増えていきます。確かにそれで強くはなるでしょう。でも私達は元々人間。このまま姉様の重荷が増えていって、本当に無事でいられるんですか?提督」「強化は身体に影響のない範囲でやっている」「今のところは、でしょう」 #艦これ航海日誌

2013-08-06 23:53:15