エディプスちゃん のGW初日、若しくは木の芽時~習作(6)「ペレンタウは哀しい」
縁葉「私は、私が鳥を飛んでいるのが、よく知っている」 私「縁葉さん?」 縁葉「それは霞。本当の私は強い重力に引き込まれて死んだのよ、まるで仔牛のようにね」 私「 大丈夫?」 縁葉「いいえ、やっぱり死んではいなかったわ。だって、窮鼠猫を噛むって云うじゃない?ほら、私って猫だから」
2014-05-03 13:18:21私「どういう意味ですか?」 縁葉「だから私はビッチじゃない、それは犬ころの話よ。昨日の晩は、だって、概念のように厚みがなかったのだし」 私「縁葉さん、気を確かに」 縁葉「いいこと?蛯の皮を剥くように生きてゆくことはできないし、虫の腸で髪を結うことが許されるのはモグラ街だけなの」
2014-05-03 13:25:26私「モグラ街?」 縁葉「ええ、それはあらゆる世界の天国が隣接する結節点で、天然緑青のような色をしているの」 私「色?」 縁葉「色というのは、存在を構成する五蘊の内、プレロマ的な領域といってもよいかもしれないわね」 私「プレロマ?」 縁葉「プレロマですって?貴方、何を云ってるの?」
2014-05-03 13:35:32私「え、だって…」 縁葉「私が云ったのは、銀河とビリヤード球の話ではないのよ」 私「縁葉さんが何を云ってるのか、全然わからないよ」 縁葉「まあ、呆れた!貴方は自分が何を云っているのか解った気でいるのね!」 私「僕が云いたいのは」 縁葉「ああ、なんて傲慢ちきなアンゴラウサギなの!」
2014-05-03 13:47:49私「僕はそんな毛毬ぢゃない」 縁葉「アンゴラちゃん、あの塩茹でにされた蟹の体節をよくみてご覧」 私「蟹?」 縁葉「世界はリズムに溢れているのよ、あの鋏、あの脚、あの甲羅。ホモロジイというのは全く!」 私「縁葉さん、気を確かに」 縁葉「リュトモスが形態であるなら、世界はそのまま…」
2014-05-03 13:56:28縁葉「いえ、やめましょう、そんな退屈なお話。ねえ、私は悲しいのよ、アンゴラちゃん」 私「僕は毛毬ぢゃないんだ」 縁葉「あら、電車の吊り革たちがひそひそ話してるのを聞いたことないの?」 私「さあ、どうだろう」 縁葉「二番線の彼女が話していたわ、ペレンタウって名前の白い輪っかの彼女」
2014-05-03 14:07:06縁葉「からっと狐色に揚がったドーナツに生まれていたなら、って彼女はしくしく泣いていたのよ」 私「それは、可哀想だね」 縁葉「嘘ばっかり!貴方のようなファロソフィストが無垢な彼女たちを涜すのよ!」 私「そんな僕は」 縁葉「寄るな、男根哲学者!処女の初床を、手汗でべたべた濡らすな!」
2014-05-03 14:13:37縁葉「彼女は、ペレンタウは泣いていたのよ」 私「僕はペレンタウなんて知らない」 縁葉「卑劣ね」 私「酷い云われようだ」 縁葉「貴方は知らないでしょ?"あなたが自身が、鳥を飛んでいるのが、よく知っている"ということ」 私「文法が可怪しい」 縁葉「ほら、だから貴方はそれを知らないの」
2014-05-03 14:18:42私「縁葉さんが何を云っているのか理解できないよ」 縁葉「だったら、ドーナツ博士の言葉を教えてあげる」 私「ドーナツ博士?」 縁葉「Dr.Dはこう云ってる。"嘗て、ハイデッゲルが現存在と呼んだものを、我々は砂糖天麩羅存在と呼ぶ。それが新たな、そして真なる存在了解の場である"って」
2014-05-03 14:29:15私「君は何の話をしているの?」 縁葉「黙って。砂糖天麩羅存在は穴を穿たれた空虚を自らの本質としているの」 私「わからないよ」 縁葉「そして、そのドーナツ的身体はまるで女性器のメタファ。その意味で、ヴォネガットが"転がるドーナツとおまんこしてろい!"と云ったのは全く正当なことなの」
2014-05-03 14:35:58私「女の子がおまんこだなんて」 縁葉「愚図。まだ、わからないの?ドーナツはまったく女性的な、言葉の住処なのよ!」 私「君は精神分析でもしたいの?」 縁葉「精神分析ですって?貴方ったら、本当に私の云ってることを何一つ理解していないのね!ペレンタウに謝りなさいよ、貴方の存在は罪だわ」
2014-05-03 14:43:38私「どうして僕が謝らないといけないの」 縁葉「これだから貴方は傲慢ちきのアンゴラちゃんだっていうのよ」 私「理解してあげられなくてごめん」 縁葉「ほら、また恐ろしいことを!私を内から蝕んで、貴方で破裂させた挙句、外からは蛇の化物ゴルゴンみたいに石化し、機械にするというのね!」
2014-05-03 14:50:32私「縁葉さんを傷つけるつもりはないよ」 縁葉「厭になっちゃう。だから私は透明になるしかない、妖精みたいに」 私「誰も君に危害を加えないよ!」 縁葉「アンゴラちゃんはふわふわの無智だから、世界が蟹的な音楽に充ちてることも、ペレンタウの哀しみも、モグラ街の文法も知らない莫迦だから…」
2014-05-03 14:58:43私「確かに色々なことが僕にはわからないけれど」 縁葉「この世界の残酷さを知らないお坊ちゃんなのよ!」 私「それでも、誰も縁葉さんを迫害しないよ!」 縁葉「ああ、アンゴラちゃん。あなたは莫迦よ。こうして刻一刻と、私が殺されようとしているのに、その言い草ったら」 私「僕は殺さないよ」
2014-05-03 15:02:27縁葉「茶瓶が割れてしまったの」 私「え、何?」 縁葉「何も云ってないよ」 私「ごめん、声が小さくて聞き取れなかったんだ」 縁葉「お気に入りの茶瓶が割れてしまったのよ」 私「そうなんだ」 縁葉「そうなの。ずっと愛用してたから、私の心臓みたいなものだったのに、ぱりんと砕けてしまって」
2014-05-03 15:10:48私「悲しいね」 縁葉「代わりの茶瓶なんて、然う然う無い」 私「ねえ、僕は」 縁葉「何?」 私「ペレンタウにちゃんと謝ろうと思うよ。だから、君は」 縁葉「ねえ、アンゴラちゃん?」 私「僕は毛毬ぢゃ…」 縁葉「ペレンタウはもうずっと泣き続けているの、電車の中は彼女の涙で海みたいよ!」
2014-05-03 15:31:22決定の一瞬間に狂気が宿る(キルケゴオル)という意味で、文字を連ねる行為のほうに幾分か狂気めいたものがあるのであって、私自身はきわめてまともな人間であります。
2014-05-03 15:43:39