セラフィリアの庭園#2

魔竜との交渉に向かう竜族の青年クルーム。突然現れた、魔竜に恋人を奪われたという娘。彼らに課せられた奇妙な試練の行く末とは…。 小説アカウント@decay_world で公開したファンタジー小説です。この話は#4まで続きます
減衰世界
rikumo 640view 1コメント
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  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 13:41:08
    (前回までのあらすじ:魔竜セラフィリアとの交渉に向かうため、辺境の村を訪れた竜族の青年クルーム。彼はその村で思わぬ歓待を受ける。魔竜の近くにしては陽気すぎるその雰囲気に戸惑うが、そこで現れたのは鎧をまとった少女、リンサだった。彼女は魔竜に囚われた恋人を取り返しに来たという)
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 13:51:52
     リンサとクルームは次の朝、セラフィリアの空中庭園へと向かって村を出発した。朝早くだというのに村人たちは盛大に見送ってくれた。山の稜線が光り、夜明けを予感させる。薄暗い紺色のヴェールはゆっくりとその色を薄れさせていた。海抜ハーピィが遠くでのこぎりのような叫びをあげている 27
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 13:56:07
    「天気もいいし、旅立ちにはもってこいの日ね! 明日の昼には空中庭園に到着できるはずだよ。はい、これあなたの分の食料とワインね」 リンサは緊張の欠片も見せず、意気揚々と村人からもらったものを分けてよこした。「……まぁいいや、ありがたいね。行くよ」 二人は砂利道を歩く。 28
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 14:00:35
     実はすでに目標とする空中庭園は視界の中に入っている。ひときわ高い剣のような山の上、普通なら万年雪が積もっているはずの山肌が緑で覆われている山がある。それこそがセラフィリアの空中庭園だ。そこでは重力がおかしくなっていて、切り立った崖を歩いて行けるという。 29
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 14:06:11
     クルームはさっきの村についてから違和感ばかりを覚えていた。空中庭園までの道が砂利と煉瓦で舗装されているのだ。これは誰が作ったのだろうか。いや誰にせよセラフィリアの許しを得ていることは確かだ。あの村はセラフィリアにとって何なのだろうか。そんなことを考えながら道を行く。 30
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 14:10:56
     最初の日は歩き続けただけで終わってしまった。クルームは歩きなれているため、それほど疲れなかったが、装甲で身を覆っているリンサのことが彼は気になった。彼女はどれほど身体を鍛えているのだろうか。竜族のクルームに比べ、人類に見えるリンサはだいぶ華奢だ。 31
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 14:15:48
     いや、竜の国で働いている奴隷の人間と比べると、リンサはどう見てもただの少女にしか見えない。二人はいま道のわきでテントの設営をしている。テントはクルームの私物だ。今夜は二人で一緒に寝ることにした。クルームにとって人類は奴隷、つまりは道具にしか見えないので何も思わない。 32
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 14:22:33
    「リンサ、本当に大丈夫なのか? 鎧を着てかなり歩いたはずだ。疲れているんじゃないか? 僕は竜族だからかなりの体力を持っている。でも君は人間なんだ。君の装備も軽くは無いだろう」 心配になって声をかけるクルーム。リンサは奇妙なことに疲れの片鱗も見せずにニコニコしている。 33
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 14:27:56
    「大丈夫だよー。そんなに言うなら、ちょっと休むね。テント張り終わったんでしょ、中で休むね」 すでに太陽は稜線に沈み、辺りは薄暗い。二人はテントの中に入った。リンサは装備を外し、横になる。すると、あっという間に寝息を立てて眠ってしまった。本当は疲れていたのだろうか。 34
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 14:37:05
     クルームはテントの天井からランタンを吊るし、火を入れる。見下ろすと、静かに寝息を立てるリンサの寝顔が見える。クルームはぎょっとした。はだけた彼女の肩には、鎧が食い込み青くうっ血した跡が見えるのだ! これで平静としていられるわけがない。だが、彼女は平気そうだ。 35
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 14:47:21
     彼女にはまだまだ秘密がありそうだ……心配になりつつも、クルームは横になってしばらくランタンの炎を見ていた。 36
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 15:15:37
     次の日の昼、セラフィリアの庭園に二人は到着した。切り立った崖も、重力が変わっていて垂直に歩くことができる。クルームは空を飛べなかったため酷く怯えていたが、リンサはそんな腰の引けたクルームの手を引っ張り、ぐんぐん崖を歩いて登っていった。薄い空気も低い気温も和らいでいく。 37
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 15:21:41
     崖を歩く二人の前に、やがて大きな森の影と一つの門が見えてきた。煉瓦の道は真っ直ぐ門へと伸びている。門は白亜の石でできていて、古風な彫刻が彫られていた。竜も、人間も、等しく巨大な竜に踏みしだかれている意匠だ。鉄柵の門は片方が僅かに開かれていた。門番の姿は無い。 38
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 15:32:46
    「入っていいのかな……」 「何言ってんの、入るに決まってるでしょ。ドアベルも無いんだし。何のために来たと思ってるの」 そう言ってリンサはクルームの腕を引っ張り庭園内へと侵入した。中は熱帯雨林のような色彩鮮やかな木々や花が密生していた。しかし動物の気配は無い。 39
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 15:37:55
    「いらっしゃいませ」 朗らかな声が突然横から聞こえた! クルームは心臓を跳ねさせて飛びあがった。森の中から姿を現したのは、麗しい男性の農夫だった。二人を気にも留めず、彼はまた森の奥に去っていった。呆気にとられるクルーム。「何驚いてるの。セラフィリアの人形でしょう」 40
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 15:42:21
    「君はなんというか……場馴れしているね」 そう、セラフィリアは邪悪な魔竜だ。気に入った男などを見つけると、視線の虜にしてしまう。そうなったら終わりだ。生きたまま人形にされてしまう。あとはセラフィリアの意のままに生きるしかない。そんな人間が何人もこの庭園にいるのだ。 41
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 15:50:08
     それからしばらく二人は庭園を探検した。その途中何人も麗しい男、たまに美少女を見つけることができた。彼らは一様に笑顔のまま、ふらふらと歩いていて、そのままどこかへ行ってしまった。「リンサ、君は試練を受けに来たって言ったね。この庭園は安全そうだけど……」 42
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 15:57:41
    「門番がいるはずよ。セラフィリアの居城はこの山の地下、山をくりぬいて作ってあるの。その出入口に門番がいる……それを排除するのが彼女に会う条件よ。出入り口はいくつかあるはずだけど……」 クルームは竜杖吏員に受け継がれている資料を思い出した。確かに構造はその通りだ。 43
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 16:04:56
     しかし彼は門番がいるなど聞いたことが無かった。魔竜との交渉は数年おきのため、条件が変わっていることも考えられる。実際魔竜との交渉は資料が役に立たない場合が多い。クルームはいつ戦いに入ってもいいように、皮膚を青い鱗で覆った。細く鋭い尻尾も武器になるだろう。 44
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 16:14:21
     やがて二人は一つの開けた場所に辿りついた。広場は芝生で覆われ、網目のような枝がドーム状に空を覆っている。外周の木々には黄色い柑橘のような実が枝もたわわに実っていた。広場の中心には苔だらけの聖堂が立っている。そしてクルームが恐れていたもの……。 45
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 16:19:14
     大きな化け物が聖堂の周辺を取り巻いていたのだ。 46
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 17:11:48
     化け物は皿のように丸い目をした蛇だった。首のあたりが蛇腹構造になっていて、まるでおもちゃのようだ。青や紫の鱗がちりばめられていて、木漏れ日を反射して鈍く光っていた。顎が外れそうなほど大きく、深海魚を思わせる顔つきだ。乱杭歯が裂けた口からめちゃくちゃに飛び出していた。 47
  • 減衰世界 @decay_world 2014-05-06 17:16:33
    「あれもセラフィリアのおもちゃだよ。魔法生物だね。弱そうだし、丁度いいや、倒しちゃおう」 様子を窺っているクルームを尻目に、リンサは勢いよく広場に飛び出した。「覚悟! 恋人を取り返すため、あなたには死んでもらいます!」 「お、おい待て! 不用心すぎるぞ!」 48

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