[バイクと私]

(1)〜(54) [相棒とボク]の、彼女サイドのお話。 ツイートは、いくつかに分けて[相棒…]と交互に投下したもの。 彼女サイドだけでまとめてひとつにしました。
1
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

[バイクと私] (1) YAMAHA SR400 それは、昔好きだった人が乗ってたのと同じバイクだった。 駐輪場の片隅で、もう何年もそこに居ることを忘れられたみたいに、都会の埃を何層にもかぶって…。 時を止めたみたいなその姿が、自分と重なって見えた。

2014-03-20 22:38:14
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(2) 「そのバイクが、どうかしました?」 声をかけてきたその人は、すらりと背が高くて柔らかい印象の人だった。 『いえ、あ、すみません。なんでもないです!』 慌てて立ち去った。 いつも通り、駅まで歩きながら横目で見ていたつもりだったのに。 立ち止まってたんだ、私。

2014-03-20 22:38:41
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(3) それからも毎日、あのバイクを確認しながら駅へ向かった。 今日も変わらずそこに居ること。 まだ、走らせてもらえずにいること。 いなくなっていないことにホッとして。 でも、動けずにいることに少しもどかしさを感じて。 『私も、キミとおんなじ…』 「え?何が??」 !!

2014-03-20 22:39:13
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(4) 驚いて振り返ると、この前のあの人が立ってた。 私、声出てたんだ…。 心の中で呟いたつもりだったのに。 『いえ、なんでもないです…』 急いで歩き出す。 「あの。この前も見てましたよね?バイク。」 うわ、覚えられてた…。 『… はい…』 「好きなんですか?」

2014-03-20 22:39:57
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(5) 『いえ、あの… 見てるのが、好きです。』 「乗らないんですか?」 『乗ったことは、ないです…』 「そうなんや…。で、私と同じって?」 『いや…なんでもないです。』 「なんか気になるじゃないですか。」 『あなたのバイク、ですか?』 「はい」 『もう、乗らないんですか?』

2014-03-20 22:40:15
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(6) 「前に事故ってから…仕事も忙しくなってなんとなく放ったらかし。」 『そうですか。事故、大丈夫だったんですか?』 「それはもう、この通り。」 『よかったですね。』 「ありがとうございます」 『じゃ、私はこれで…』 「あの。同じっていうのは?」 『…さみしそうだなって。』

2014-03-20 22:40:39
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(7) それだけ言って、駅へと急いだ。 あの子… また走らせてもらえるといいな。 でも…。 私のせいで、処分されちゃったらどうしよう。 不安がよぎった。 停滞した現状を壊す、って勇気がいるね。 誰かに壊してもらえたらいいのに… http://t.co/KLaRu23N9X

2014-03-20 22:41:03
拡大
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

[バイクと私](8) あれから2週間。 毎日、あの子を横目で確認しながら通勤する。 その日は日曜日で、いつもより少し遅い時間にそこを通りかかった。 あの子が、いない。 ぽっかりと空いたその場所は、いつも以上に寒そうに見えた。 …処分、された? 私が変なこと言ったから…?

2014-03-21 20:22:51
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(9) しばらくの間、私はそこから動けなかった。 あの子がいなくなったその場所から、目が離せずにいた。 子どものはしゃぐ声がして、ふと我に返る。 ぼんやりとしたまま、とりあえず、足を動かす。 行かなきゃ。 そこに居てはいけない気がして、歩き始めた。

2014-03-21 20:23:29
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(10) いつもは公園のそばの道を通るのに、その時はなぜか 公園の中を通り抜けようと、足を進めた。 無邪気な子供の声を無意識に求めたのかもしれない。 それとも、何かに呼び寄せられたのか。 しばらく進むと、少し開けた場所に出る。 そこに…あの子がいた。 そばにはあの人が。

2014-03-21 20:23:55
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(11) その人は、あの子を洗ってあげているようだった。 あの子の足下に、黒い水溜りができている。 あの子は、少しずつ本来の明るさを取り戻しているように見えた。 良かったね。 心の中でつぶやいた。 捨てられなくて、良かった。 キレイにしてもらって、良かった。 ほんとうに。

2014-03-21 20:24:18
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(12) 近付き過ぎないように、そっとその場を通り抜けた。 …と、思った。 「あのぉ!」 背中越しに声がする。 たぶん、あの人だ。 でも、足は止めなかった。 後ろから近づく足音は、私の前に回り込んで止まった。 「やっぱり。そうですよね?」 『え?』 「この前の。」

2014-03-21 20:24:36
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(13) なんて答えていいかわからなくて黙っていた。 「バイク。今、洗ってるんです。」 『…そうですか。』 「はい」 笑顔が眩しかった。 『じゃ、私は…』 左に避けて歩こうとすると、その人も一歩動いて塞がれた。 「良かったら、見ていきませんか?」 『え?』 「お時間あったら…」

2014-03-21 20:24:55
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(14) 思わず、その人の顔を見つめてしまう。 真意を知りたくて。 でも、その瞳に吸い込まれそうで、慌てて視線を逸らした。 『いや、私は…』 「お急ぎですか?何か、用事?…デートとか?』 『!! そんなんじゃないです!』 しまった…。ムキになって言うことじゃないのに。

2014-03-21 20:25:07
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(15) その人はクスッと笑うと 「良かったら、見てやってください。」 そう柔らかく言うと、あの子の元へと戻って行った。 どうしよう…。 迷った。 …けど。 私は踵を返した。 『お言葉に甘えて、少しだけ…』 それだけ言って、近くのベンチに腰を下ろした。

2014-03-21 20:25:18
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(16) 春先の柔らかな日差しの下、どんどんキレイになっていくあの子を見ている。 優しく笑いかけながら あの子を洗ってあげているその人は、少し汗ばんでいて。 時折汗を拭うその姿に、自然と目を奪われる。 「ふぅぅぅーーー。こんなもんかな。」 あの子の背中をポンと叩いた。

2014-03-24 08:13:15
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(17) 「ちょっと休憩。」 そう言って私の隣に腰を下ろした。 え。 ち、近い。 こんな距離感で男の子と並ぶなんて… いつ以来…? やだ。 ドキドキする。 「この前ね。」 『え?』 「この前、あいつのこと、さみしそうって言ってたじゃないですか。」 『…ごめんなさい』

2014-03-24 08:13:35
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(18) 「いや、別に責めてるとかじゃなくて。 俺ね。あの時、彼女にフられてちょっとヤケになってたっていうか。 そんな時に事故ったから、怪我が治ってもなんかあいつに乗れんくて。 乗ると彼女のこと思い出してまうから。 …なんか、女々しいっすよね。(笑)」 『そんなこと…』

2014-03-24 08:13:57
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(19) 「え?」 『そんなこと、ないと思います。』 「ふふ。ありがとう。 俺、いっつもあいつに話しかけてて。 彼女には笑われてたんすよね。 だけど、あなたはあいつのことをさみしそうって言ってくれた。」 『いや、別に…そんな』 「嬉しかったんです。あいつのこと、見つけてくれて」

2014-03-24 08:14:17
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(20) 「あの言葉で、やっとあいつに謝る勇気が出たっていうか。」 『謝る?』 「フられてヤケになって、無茶な運転して傷付けて。 おまけにあいつを見ると思い出すから、ずっと逃げてた。 でも、いつまでも逃げてたらあかんなって。」 『だけど…。事故のあとも処分しなかったんですよね?』

2014-03-24 08:14:33
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(21) 『それは、やっぱりあの子のことが大事だったから、ですよね?』 「…そっか。処分、は考えたことなかったなー。 あいつはやっぱり、相棒やから。」 『相棒?』 「うん。俺の、相棒。」 そう言って、あの子にとびきりの笑顔を向けた。 『幸せですね、あの子。 素敵な相棒がいて。』

2014-03-24 08:14:42
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(22) 『じゃあ、私はそろそろ…』 と立ち上がった。 ほんとは名残惜しいけど。 「あ、すみませんでした。引き止めちゃって。」 『いえ。きれいになっていく姿を見られて、楽しかったです。ありがとうございました。』 あの子とその人を交互に見ながらそう言って、駅へと歩き出した。

2014-03-24 08:15:06
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(23) 「良かったらまた来週!」 背中越しに声がした。 来週…? 来週も、ここに…? どういう意味?って、確認するのは怖かった。 聞こえなかったふりをして、その場を離れた。 来週、お天気だといいな…。 そんなことを思いながら、本来の目的を果たすべく、駅へと向かった。

2014-03-24 08:15:14
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(24) あの日。 私が帰る頃には、あの子はもう家に帰ってた。 ピカピカになったあの子は、なんだか誇らしげに見えた。 けど 走り方はまだ思い出してないのかな…? あの人は また来週 って言った。 それは、あの日だけではあの子は走れないってこと…だよね、きっと。

2014-03-25 17:30:53
∞まゆか∞【終了】 @8mayuka8

(25) 毎日、天気予報を見る。 普段は当日の天気ぐらいしか気にしないけど、週間予報の日曜日の天気を確認してしまう。 日曜日。 その日がこんなに待ち遠しく思えたのは、いつ以来だろう。 休みは、それなりに嬉しい。 けど、特に楽しみな予定もなく過ごすことが多い。

2014-03-25 17:31:14