東京湾で発見された新種のカニについて

そもそも新種の発見にいたる道筋がどんなものか、ざっくり書いてみました。分類学者たちの精緻な仕事により生物多様性が解き明かされていくことを、知っていただけたら嬉しいです。
環境 新種 分類学 生物多様性
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飯島明子 @a_iijimaa1
先ほど、東京湾の新種のカニについての私のツィートが使われているまとめの存在を初めて知りました。「新種のカニ」というのに反応して「放射能の影響による奇形では?」とツィートしている人々の反応をまとめたもので、「時系列が変だと言ってるだろ」という文脈のものでした。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 なのでこのまとめ自体はOKなのですが、「そもそも新種発見ってどういうこと?」ということも含めて連投します。過去ツイと重複しますが、ご容赦ください。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 2014年5月に朝日新聞で、東京湾で新種のカニが発見されたことが公表されました。調査がよく行 われている東京湾でカニの新種記載というのは、今時珍しいといえば珍しいことではあります。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 しかしツバサゴカイというゴカイの1種の棲管の中に共生している種だったこと、頻繁に見られるものでもなかったことにより、最近の発見となったわけです。その新種、バンズマメガニについての詳しい情報はこちら。http://t.co/O45XZiyB9w
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 ところがこの発見を、どういうわけか放射能汚染と結びつけたがっている人がいるようです。曰く、放射能汚染による奇形じゃないのか!とのこと。けれど2010年に採集された標本を厳密に調べた結果、新種記載されたのが今年の4月だったので、福島第一原発の事故とは無関係。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 そもそも、「既知の種に似ているが違う種」というのと「既知の種の奇形」を区別できない分類学者はおりません。そんなマヌケは研究者になれません。 ベントス生態学者にもそんなアホはおりません。既知の種と見間違うことはあったとしても。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 上記リンク先にあるように、駒井さん(千葉県立中央博物館の甲殻類専門の分類学者)が記載論文受理までに5年以上要したのは、東京湾という場所が場所だけに、外来種である可能性もあったため、近縁の(余所の国の)種と比較検討する必要があったからです。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 よく、生物学専門でない人から「新種って見つけたいですか?」と訊かれますが、はっきり言って私は見つけたくない、というより、それは私の仕事ではありません。大変すぎ。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 まず見つけた種が近縁の他種と本当に違うかどうか、カニだったら甲羅や足の刺や顆粒1個1個にわたって(そして口器のあたりはバラして)比較し、写真を撮りペン画を描いて差異を明らかにしなければなりません。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 他種と違うかどうか比較するた めには、他種の原記載(新種記載した時の論文)を読む必要がありますが、これは英語とは限りません。ロシア語やドイツ語、はては18世紀の古文書みたいな ラテン語の論文という場合もあります。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 古文書みたいな文献だと、所蔵図書館からコピーを取り寄せるのも困難だったりします。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 さらにタイプ標本(新種記載した時に用いた標本。ホロタイプ)と比較する必要がありますが、これが日本にあるとは限らず。スミソニアンにあるかもしれません、あるいは大英博物館やオランダのライデンの博物館にあるかもしれないのです。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 ホロタイプは世界にただ一つという貴重な標本ですから、「貸してくれ」と頼んであっさり借りられるとは限りません。「博物館まで来れば見せてあげるよ」と言われたら、行かなきゃならない。研究費が採択されれば良いけれど、なければ自費ということもあるのかも。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 そうこうする内に、日本国内で既知の種と思われていたものさえ、実はヨーロッパの種に酷似する未記載種だったと分かってしまったりした日にゃ、そっちの記載論文も書かなきゃならないわけでして。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 ことほど左様に、新種記載というのは恐ろしく大変なものなのであります。百戦錬磨の分類学者の業績にケチをつけるのであれば、上記の手順を全部踏んで、新種じゃなくて奇形だ、とでもおっしゃればよろしい。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 また、最近の分類学では形態だけではなくDNAによる比較もされるようになってきました。分類学はダイナミックに変化しつつある興味深い学問領域ですが、アカデミックポストが足りないばかりに分類学者の絶滅が危惧される日本なのであります。
飯島明子 @a_iijimaa1
@a_iijimaa1 なので、特に若手分類学者の健闘は拍手喝采で応援したくなります。たとえばこちら、テヅルモヅルの分類学者! ワクワクしながらご活躍を期待しております。 https://t.co/loj9LZYSlb

コメント

細川啓%求職中断 @hosokattawa 2014年5月12日
「DNAの全配列調べたら十分では?」言ったら怒られますかね。確かに配列データのない生物もまだ多いわけですが。
Shouji Ebisawa @Ebi_floridus 2014年5月12日
academistのクラウドファンディング。いいですね。
飯島明子 @a_iijimaa1 2014年5月12日
hosokattawa うーん、例えばバンズマメガニみたいな水産的価値ゼロのカニやクモヒトデなんかのDNA全配列を調べるお金って、国は出してくれるのでしょうかしら…。かなりの時間とコストがかかるでしょうから、今のところはDNA全配列でさっくり比較、というのは現実味がないかもです。
飯島明子 @a_iijimaa1 2014年5月12日
hosokattawa それに、タイプ標本を潰してDNA抽出しちゃうわけにはいきませんからねえ…(標本の状態によってはDNA抽出できないものもあるでしょうが、そもそも毀損するわけにいかない…)。
細川啓%求職中断 @hosokattawa 2014年5月12日
a_iijimaa1 今はいくらくらいかかるんでしょうね(把握していない)。ただ、かなりルーチンワークになっているでしょうし、シーケンサーもかなりの数がありますよね。海洋生物は資源の宝庫とかなんとか作文して...
細川啓%求職中断 @hosokattawa 2014年5月12日
a_iijimaa1 希少な標本しか残っていないと辛いものがありますね。「PCRかけるから少しでいい」といっても、試料が微量だと今度はコンタミが恐いし。
飯島明子 @a_iijimaa1 2014年5月12日
hosokattawa 「海洋生物は資源の宝庫」とかなんとか作文してお金をまきあげる…、、、無理っぽいけど誰かにやってみてほしいですねw 日進月歩で技術は進歩していますから、色々な生物で安価にさくさく全配列解読できるようになる日も来るとは思うのですが。
飯島明子 @a_iijimaa1 2014年5月12日
hosokattawa アサリの卵1個(直径数10μm)からもDNA抽出はできるようになってはいるのですが、それなりの技術のある人でないと無理でしょうね。私はある種の巻貝の卵(直径140μm)からDNA抽出したことはありますが、アサリやる人は神業!と思いました。
Y・Y @y_y6181 2014年5月12日
http://togetter.com/li/340708 「奇形関連のまとめのまとめ」←こちらに追加させて頂きました。
3mのちくわ(20禁) @tikuwa_zero 2014年5月14日
すみません、鍵垢なモノでご連絡できませんでした。元まとめからこちらへ誘導リンクを張らせていただきましたので、平にご容赦を。
B.cos式十字固め @bcosizm 2014年5月14日
図鑑等に載ってない生き物って結構いますよね。自分も大学4年の時、茨城県動物相調査でカンムリゴカイで種が判別できないものを見つけましたが、かなり本気出さないと無理だと思って「sp.」扱いにしてしまいました。あくまで環境と動物相が卒研のメインテーマだったので。
飯島明子 @a_iijimaa1 2014年5月15日
tikuwa_zero いえいえ、別に気にしているわけではありません。時系列的に変でしょ、というのには私も同意ですし。リンクありがとうございます。「分類学者すげー、応援しよう」と思って下さる方が増えたら、ちょっと嬉しいです。
飯島明子 @a_iijimaa1 2014年5月15日
bcosizm 多毛類はつらいですね。端脚類や等脚類も、微小貝も、ですけれど。ヒモムシやヒラムシやイソギンチャクほどワケが分からなければ諦めもつくんですが、多毛類あたりだとせめて属まで、と思ってしまうだけにつらさ倍増と申しますか…。
B.cos式十字固め @bcosizm 2014年5月15日
a_iijimaa1 マクロベントスといっても小さいものや、軟体部ばかりの生き物はキツイですね。多毛類は剛毛などキチン質部分が種同定のカギになりますが、疣足そのものが退化してる種類はその剛毛を取るので苦労させられましたね。これで記載論文を書くとか……考えるだけで凄い労力ですね。
B.cos式十字固め @bcosizm 2014年5月15日
在学中のときで随分大昔ですが、院生向けの集中講義にいらした他大の先生が「茨城大学は分類学の最後の砦です」とお世辞をいってくださったのを思い出しました(笑)。本当はすっげー面白い分野なのに絶滅の恐れがあるのは否定できませんね。>分類学はダイナミックに変化しつつある興味深い学問領域ですが、アカデミックポストが足りないばかりに分類学者の絶滅が危惧される日本なのであります。
飯島明子 @a_iijimaa1 2014年5月15日
bcosizm 茨城大学に森野先生がいらした頃でしょうか。私が学部の4年かM1の頃に、安房小湊の千葉大の実験所でお会いしたことがありました。
B.cos式十字固め @bcosizm 2014年5月16日
私は森野先生のもとで海岸と汽水のベントスの研究をしてました。あまり真面目な学生ではなかったので迷惑かけっぱなしだったかもしれません。研究者と教育者のバランスのとれたいい先生でした。
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