ダンス・イン・ザ・ダーク #1

◇二次◇ ドーモ、シロです。今からTwitter上でニンジャスレイヤーの二次創作テキスト投下行為メントします。 ゆっくりめに投下しますが、おじゃまならリムーブとかミュートとか各自対策をおねがいします。 ◇創作◇
2014-05-17 11:55:13
◇テキスト◇ #siro_nj というタグもございます。 実況とかケジメ報告とかに便利にお使いください。 それでは早速はじめます。 ◇新作◇
2014-05-17 11:56:03
ブンブブーンブーン。ブンブブーンブーン。単調で奥ゆかしいベース音が退廃地下クラブ「オットリ」に響く。出入り口の近くにカウンター。室内中央には立ち飲み用の背の高い丸テーブルが等間隔に配置されている。そして、室内の狭さとはちぐはぐに大きなステージ。踊ることができる。 2
2014-05-17 11:57:50
しかしステージは照明も点いておらず、無人だ。更に立ち入りを拒むかのように何本ものチェーンが張り巡らされている。他の客はといえばそれを気にする様子もなく丸テーブルに座ってはしゃいだり、ステージ陰でひたすら煙を吐き出していたり、部屋の隅で寝転がっていたりする。 3
2014-05-17 12:01:07
この「オットリ」は違法薬物クラブである。客の年齢層はばらばらで、統一感がない。稀にカネモチの次男坊が噂を聞きつけてやってくることもあるが、このアトモスフィアと悪臭に馴染める者は少ない。ここは貪汚なヤガネ・ストリートの中でも更に汚れた場所、いわば肥溜めなのだ。 4
2014-05-17 12:04:55
「オコシ……ス」壊れたマイコ音声ベルが来客を告げる。カウンターに立つ四十路男……店主のコオロギは澱んだ目でその姿を見た。チロル帽を深く被り、襟ぐりの広い薄汚れたグレーのTシャツ、穴だらけのジーンズを履いた男である。初めての客だ。男はふらふらとカウンターに近づいてきた。 5
2014-05-17 12:08:10
「ご注文は」この店の注文にはプロトコルがある。それを知らぬ者にはバリキやザゼンなどの合法薬物しか売らない。そういうルールだ。チロル帽男は曖昧な笑みを浮かべると「ハイ・カクテルある?」と尋ねた。「うちにはないぞ」「じゃあ、アイスのソーダ割りでいい」コオロギは数秒沈黙した。 6
2014-05-17 12:11:39
「……完璧だ。あんた何処でこの店を知った?」チロル帽男は視線を彷徨わせた。「俺はチデ……。トモダチ……アー、ミマ=サンから聞いて……」「ミマ=サンか。最近見ないからくたばったかと思ってたぜ。それで本当の注文は?アイス(覚せい剤)でいいのか?」「アー……」 7
2014-05-17 12:15:03
チデは頬を指でカリカリと掻きながら迷ったように言った。「ハッパある?」「ハッパ?あるが、こんな地下くんだりまで来てハッパか」「ナチュラリストで……」「ボング使うかい」「いや」チデは首を横に振った。「ジョイントでちょうだい、そっちのほうが吸ってる感じあって、好き」 8
2014-05-17 12:17:59
「……ところでさ」ローラーで紙を巻くコオロギの背に、チデが声を掛けた。「俺、人を探してるんだ」「そうか」「すごいダンサー。知らないかな。エクスペリエンスって名前。昔このクラブのステージで踊ってたって噂を聞いたんだけどさ……」 9
2014-05-17 12:20:22
「知らんな」コオロギは返した。「俺がオーナーになってからずっと、あのステージは使用禁止だ。事故があってな。もう何年も前の話だ」「そっか……」チデは深く落胆した様子で溜息を吐くと、コオロギから受け取ったジョイントに火をつけた。「なんか面白いヤツとかも、いない?」 10
2014-05-17 12:23:58
「面白いヤツ?」コオロギは肩を竦めた。「こんな所に集まるジャンキー野郎に面白いもクソもあるもんかね」「そっかあ」「どうしてもっていうなら、自分で探すんだな」「ねえ」コオロギが話を切ったタイミングでチデの肩が叩かれた。チデは振り返る。「ヤバイ!お兄さんマブ!」「一緒に飲も?」 11
2014-05-17 12:26:53
先程まで丸テーブルで覚せい剤を吸っていた若い女の集団である。「ア……」「ね、名前は?アタシはリカ」「どこから来たの?」「今時ハッパなんてシブーイ」チデは困ったようにコオロギを見た。コオロギは助け舟を出さなかった。チデは苦笑いのまま集団に引っ張られていった。 12
2014-05-17 12:30:11
カウンター周辺が静かになった後、コオロギは店内を見回した。今宵も様々な客がいる。山高帽とコートの下から覗く肌に包帯をぐるぐる巻きにしたコス・プレイ男、メイクと服装だけは派手な不細工女、丸テーブルの上に肘をついて前後している者もいる。いつもの光景だ。いつもの狂った日常である。 13
2014-05-17 12:33:14
ブンブブーンブーン。ブンブブーンブーン。ベース音を聞きながらコオロギは考える。あと何年、こうして地下に隠れて生きていられるだろう。目立つことは極力避けてきたつもりだ。しかし……。「オコシ……ス」再び入り口の扉が開く。コオロギは新たな客に視線を向け……目を見開いた。 14
2014-05-17 12:36:37
「私と貴方が調べた情報を総合すると、彼が消息を絶ったのはこの半径500メートル圏内のどこか」秘密IRCセッション内で刺激的なボディスーツに身を包んだナンシーの論理肉体が言った。空中に展開されたネオサイタマの地図に、円が描かれる。「ヤガネ・ストリートか」「そう」 16
2014-05-17 12:37:46
「そして薬物の取り扱いがある場所で更に絞ると……」地図上の円がどんどん小さくなり、ある建物を示した。「ここが濃厚。地下に違法薬物クラブがある。オーナーはヤスダ・コオロギという男。元ヤクザで、今は薬物ブローカー。クロとは断定できないけれど話を聞いてみる価値はある」「承知した」 17
2014-05-17 12:40:43
事の発端は暗黒非合法探偵イチロー・モリタことフジキド・ケンジが受けた一つの依頼だった。依頼人の女はトモカ・サカエと名乗った。心労からか随分とやつれていたが、若く胸の豊満な美女であった。「夫……ヤキラ・サカエといいます……彼が二週間前から行方不明なんです」 18
2014-05-17 12:44:22
二週間前、いつもと同じように出勤したヤキラはそれきり帰ってこなかった。トモカが会社に問い合わせても「退社後の行方は知らない。無断欠勤で非常に迷惑」と言われ、以降は相手にされなくなった。「会社が何か隠しているような気がするんです……でも私にはこれ以上どうしようもなくて」 19
2014-05-17 12:47:21
探偵はジャーナリストであるナンシー・リーと協力し、ヤキラの勤め先であるバンナナ製薬を調査した。すると恐るべきことが判明したのだ。「……違法薬物」「そう」ナンシーは頷いた。「バンナナ製薬には以前からヨロシサン製薬に買収されるのではないかという噂があった。相当に不利な条件でね」 20
2014-05-17 12:51:16
「勿論バンナナ製薬にも意地とプライドってものがある。買収なんて飲むわけにはいかない。でもヨロシサンに優秀な社員を引き抜かれ、会社はもう虫の息。このままでは倒産待ったなし。……だから、彼らは禁忌を犯した。それが、違法薬物を配合した健康ドリンクの開発」 21
2014-05-17 12:53:58