鳥さんの獅子虎まとめです！

鳥野郎 @toriyarou23

獅子虎注意。部屋に入るなり重量のあるウェイトがのし掛かる。ベルトを強引に剥がされて、シャツを破かれた。「ライ…」「愛してる」声を遮って紡がれる言葉は真っ赤に燃えていて、俺は今にも体から火がつきそうだと思った。「は…」若い力が俺を求めて暴走しているのが、こんなに優越感を満たすとは。

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 目を開けると黄ばんだ天井が見えた。アルコールだとか体液だとか部屋に染み付いた煙草の匂いだとか、とにかく安さだけに特化したモーテルの早朝は、それなりにひどいもんだった。「ライアン」やつの名前を呼ぶと、隣の塊が俺にしがみついてくる。

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@toriyarou23 帰りたくねぇ…小さい声で言うライアンは俺にびったりくっついてくる。「帰らなくてもいいだろ。とりあえずチェックアウトしよう」「あんたのこと連れ帰る気満々の男が来るのがわかんだよ」ライアンはぼやきながら起き上がった。

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@toriyarou23 俺はそれが誰だか分かっていた。あいつが俺に対してどんな感情を持っているのかも。「俺がバニーんとこに行くって？」起き上がってベッドのふちに座るデカイ背中が動きを止めた。「ひでぇな。恋人なのに」「あんたは今ネクスト能力でおかしくなってっからそう思うんだよ」

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 それも自覚があった。俺は今ネクスト能力のせいでライアンと恋人であると思わされている。でもそれのどこが悪い？ ここに向かっているであろうバニーにネクスト能力を解除する手立てがあってもなくても、俺はライアンの恋人をやめるつもりはない。

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 「俺は卑怯な手を使ったんだよ」「別にいいだろ」安宿の壁は薄い。朝から致しているカップルの声が聞こえる。ライアンはそれに舌打ちして、それからのそりと俺を見た。「ジュニア君は俺を殺すかな」馬鹿馬鹿しくて返事をする気にもならない質問だった。

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 「服を着ろよ。今日は移動だぞ」「なあおっさん、俺の罪悪感が正常なうちに古巣に帰れ」「……」ライアンはシャツを着て冷蔵庫に歩み寄る。ずっと気になっていたジー、という耳触りな電子音の出所にようやく気付いた。「昨日愛してるって言ったじゃねぇか」

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 女々しさがそのまま声になったような言葉だ。「愛してるって、俺の名前呼んで」「言い納めだと思ったからな」冷蔵庫を開けた男の背中は心なしか小さく見える。シャツを着てしまったから確かめるすべはないが、その背中には俺が引っ掻いたあとが赤々と傷になっているはずだ。

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 随分弱気になってしまった男は、本当にあの不遜で尊大で、それでいて何故か憎めない「何かすごいことをやらかしてくれるんじゃないか」と思わせる魅力のある男と同じ人間なのだろうか。冷蔵庫のドアを開いたまま、ライアンは動かない。

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 「お前が好きだよ、ライアン」「……」たとえこの気持ちが操作されたものだとしても、そこに嘘偽りは存在しない。「あんたはここぞって時にしか、好きだなんて言わねぇだろ」「今がここぞって時だろ？」ライアンのそばにいる。それが俺の願いであり、望みだった。

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 「あーあ」ライアンは大きく息を吐くと、このクソッタレのクサレアライグマがと口汚く俺を罵ってから勢いよく立ち上がった。「せっかく俺が気を遣って逃げ道を差し出したのによ。バカなおっさんだぜ」ライアンは閉めた冷蔵庫に背中を預けながら言う。

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 その顔は俺が見慣れたライアンの顔で、不遜で尊大で、それでもそんな性格を補って余りある魅力だらけの男のものだった。「あんたの心も体も、俺のもんだ」愛してると言った、同じ熱量の声で。「虎徹」ライアンは俺の名を呼んだ。

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 来たか。ライアンがサイドミラーを見ながら呟いた。「しかもロンリーチェイサーかよ。形振り構ってらんねぇって感じだな」バリバリと聞こえるエンジン音は確かに聞きなれたものだった。

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 信号なんかない荒野を突っ切る道を、ボロいジープと真っ赤なボディのバイクが走る光景はきっと端から見たら映画か何かの撮影に思うかもしれない。「飛ばすぞ」「エンジンいかれるかもな」「年代物なめんじゃねぇよ」

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 だが年代物は年代物だった。新型のバイクにすぐ追い付かれて横に張り付かれた。「ライアン！」男が叫ぶ。「虎徹さんを解放しろ！」「誘拐犯はじゃねぇんだよ！」ライアンも叫ぶが、何故か少しだけ楽しそうだ。

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 真っ直ぐ伸びた道路を並走する車とバイクは、今にもぶつかりそうだった。それをスタントマンのようにスレスレでかわすのはひとえにバニーの運転技術だ。「虎徹さん、車を止めて！」風に紛れて懐かしい声がする。

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 「あなたは今正気じゃないんだ！」「わかってるよ！」「いいやわかってない！」一体何をもってそう言ってんだか、バニーは叫びながらスピードを上げた。前方を塞ぐつもりだ。そっちがその気なら――

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 「ライアン、捕まってろ」「なんか悪い予感がする」「当たりだな」俺は言いながら『オートマでいいなら』と車を売ってくれた女の顔を思い出す。思いっきりブレーキを踏み、同時にギアをパーキングに切り替えた。ギャギャギャとひどい音がする。

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 「！」バニーの驚いた顔に、横で「ハッハー！」とライアンが声を出した。勢いよくハンドルを切ると車体が浮く感覚がした。「ライアン！」「おう」右に大きく傾くジープを、一瞬で重力場が覆う。「うげっ」がたんとデカイ音を立てて、タイヤは地面を無事踏みしめた。

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 「久々に潰れたぜ」俺は素早くパーキングからドライブにギアチェンジして、アクセルを踏んだ。「十分の一か？」「いや、百分の一」得意気に言うライアンは窓から直接身を乗り出して後ろを確認している。「いるか？」「ああ」聞かなくても分かった。エンジン音は爆音に近い。

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 それでもすぐに追い付かれるのは目に見えていた。この逃亡劇を、出来るだけ引き延ばしたいがためのアクションだ。「またあのモーテルに逃げ込もうぜ」ライアンが言う。「あんたの男クセェ顔、すげぇそそる」「愛してるって言えよ」俺は自分の声が震えていることに気付いた。

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 「愛してる」ライアンが俺の顎を掴んだ。運転中だってのに、事故ってもしらねぇぞ。「愛してるぜ、虎徹」またあの燃えるような声だ。それが俺の口の中に吸い込まれて溶けていく。キスは、想像以上に甘かった。

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 そうしているうちに、何故か足の力が入らなくなってきた。アクセルが踏めない。これじゃあ前に進めない。「ん、ぐ、ぅう」ライアンの後頭部を掴んで引き剥がそうとするが、やつは一向に離れていこうとしなかった。

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 なんだこれ。何か仕込みやがったのか。そのうち腕にも力が入らなくなって、俺はシートにもたれた。「…っは」「あんたを愛してる」何度も聞いた愛の言葉。「だからおっさん」完全に力が抜けた。車が止まる。「今度はインチキなしだ」

鳥野郎 @toriyarou23

@toriyarou23 「ライアン！」フワフワした意識下でバニーの声が聞こえる。ギアチェンジの音とサイドブレーキを上げた音も混ざっている。ガチャッと聞こえたのはドアが開いたからだ。待てよ、いかないでくれ。頼むから。