筍提督と僻地の泊地 (4)

イージス艦<たいせつ>の名を背負う副業提督・筍の、至って平凡な日々を綴る日記。(リンガ再建・鹵獲艦覚醒~愛の形)
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※こちらは「筍提督と僻地の泊地」の(1)から(3)の続編です。そちらを先に読むことをオススメします。


再構築

筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

私は艤装を背負って、弾薬もミサイルも満載で艦隊行動を取っていました。旗艦の鳳翔さんを中心とした輪形陣で、私も輪の中にいました。 あの日と同じ夢を見たのです。鳳翔さんを裏切るまいとして、土下座をしながら新時代計画の本当の目的を明かした日と同じ夢を。 #僻地の泊地日記

2014-05-23 21:00:15
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

しかし、大きく違っている点がありました。 私から見えた僚艦は二人だけでしたが、その二人は新時代計画による改造を受けた<ふぶき>と<あやなみ>だったのです。水平線を睨むオート・メラーラ127mm砲、後部甲板から発つ海鷹、マストに犇めくレーダー。間違いありません。 #僻地の泊地日記

2014-05-23 21:05:04
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

でも、逆に言えば、違うのはそれだけでした。遠巻きながらも目が合った僚艦は、手を振って笑ったり、「おーい」と呼びかけたりしてくれました。私も笑いながら、マイクを通して偉そうに『集中しろよ』などと吹き込みました。 #僻地の泊地日記

2014-05-23 21:06:53
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

空が光ったのはその時でした。太陽のある方角とは違いましたから、ちょっとモニターの眼鏡を上げて確かめてみました。 光は真っ直ぐ、陣形の外側の僚艦――<あやなみ>に当たって大爆発を起こしました。 #僻地の泊地日記

2014-05-23 21:11:54
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

後の展開は、前に見た時と同じです。空から降り注いで僚艦を食い荒らす光をSM-2で破壊し、それでも止まない光から鳳翔さんを守るために旋回、顔を上げて見えたのは私の頭を捉えた眩い光――。 目を見開いた私は、半身が動かないために、飛び起きはしませんでした。 #僻地の泊地日記

2014-05-23 21:21:18
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

左腕の力でゆっくり起き上がった私は、汗をかいていました。呼吸は前より荒いかもしれません。 縁起でもない。左手で口元を押さえながら二度目となる呟きを漏らすと同時に、右の掌に触れるものを感じました。 「提督、すごい汗です」 暗い部屋で、鳳翔さんと目が合います。 #僻地の泊地日記

2014-05-23 21:28:43
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『みたいだね』 嗄れた声で答えて蒲団から抜け出した私は、壁を頼りに立ち上がり、扉の近くの車椅子に座りました。 「どちらへ?」『洗面所』「押して差し上げますよ」『いいよ、寝てて』 少しだけ闇に慣れた目が見た時計は、3時台を指していました。 #僻地の泊地日記

2014-05-23 21:36:05
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

執務室にペンライトを取りに行き、その光源を口に銜えて洗面室へ向かいます。 一人を選んだのは他でもない。二人になれば、多量の汗や乱れた呼吸について問われます。夢のことをありのままに話せばどうなるでしょう。少なくとも一笑に付して終わらせる人ではありません、彼女は。 #僻地の泊地日記

2014-05-23 21:42:40
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

左手だけで軽く顔を洗い、タオルで水も汗も拭い取ります。タオルを洗濯籠に投げる手から力が抜けました。 私は、鏡の中の、妙にさっぱりした自分の顔を見つめました。自分の感情が見えるような気がしたからです。 #僻地の泊地日記

2014-05-23 22:08:50
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

あの夢を見た私は、それに何を抱くか。わけもない恐怖か、艦隊を増強せねばという焦燥か、深海棲艦への更なる憎悪か。はたまた好奇か……。 鏡は何も答えず、私を私として映していました。ペンライトに照らされた、顔を洗ったばかりの学生の顔があるだけです。 #僻地の泊地日記

2014-05-23 22:20:34
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

おかげで、思い出すつもりもなかった寝る前のことを思い出しました。 ほぼ一日中、再建の様子を見守った私は、設営隊長に、新しく建ててほしい施設の概要を書き留めたものを渡した後に執務室に戻ろうとした。鳳翔さんに誘われて、寝る前のお喋りタイムを設けて、そのまま床に……。 #僻地の泊地日記

2014-05-23 22:29:19
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

そういえば初夜ですね。起きたらこのザマですが。 特に夢に関わるようなことはしていないと思います。たまに「前に見た夢の続きを見た」と言う人がいますが、それと似た事例というだけでしょう。それから、横山秀夫の小説「震度0」、その冒頭でとあるキャリア警官が見る夢とも。 #僻地の泊地日記

2014-05-23 22:38:07
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

勝手に結論付けた私は、車椅子の背凭れに体を預けて目を閉じました。 深刻な話ではないさ。汗の引いた顔で天井を仰ぎ、自分に言い聞かせます。そうだ、案ずることはない――。 そのまま眠りに落ちた私は、今度こそ起きた鳳翔さんに体を揺すられるまで、目を覚ましませんでした。 #僻地の泊地日記

2014-05-23 22:42:29
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

朝。執務室で報告書に今日の日付を記した私は、通信機からこんな声を聞きました。「ソナーに感、魚雷2。方位1-3-0、相対速度5ノット!」「舵戻せ、最大せんそーゥ(=戦速)!」――。 どうやら、あの夜から無線機は動き続けていたようです。声の主は<しょうかく>姉妹か? #僻地の泊地日記

2014-05-23 23:24:41
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

そこへ鳳翔さんが入ってきました。通信機を見て微笑みます。 「提督。演習の指揮を、最終的に<ずいかく>に任せたと聞きました」 『ああ、そういえば』 「それであの子、随分張り切っちゃって。雷巡と姉を連れて自主鍛錬ですって」 『なるほどね』 将旗は返してもらうけどな。 #僻地の泊地日記

2014-05-23 23:29:45
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

「消しますか?」 『なんで?』 「お仕事の邪魔かと」 『いいよ、そのままで。他人の訓練も面白いもんだ』 [<ずいかく>、また当たったわよ] [ば、バリア張ってたし!] 『ちょっと面白すぎるな?』 #僻地の泊地日記

2014-05-23 23:34:42
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

その時、内線電話が鳴りました。鳳翔さんが出、短い返事の後に「あら!」を声を上げます。 「再建は全て終了、残るは瓦礫処理のみのようですよ」 『ホント? 本土の妖精さんは仕事が速いね』 この鎮守府のなんでもない妖精さんがイージスを造ったのですから、まして本土は……。 #僻地の泊地日記

2014-05-23 23:42:16
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

私は早速外の様子を見に行こうとして、半身が動かないのを忘れていたので車椅子から転げ落ちました。大丈夫ですかと私の顔を覗き込む鳳翔さんの横で、通信機がノイズを発します。 [おはようございます。<あやなみ>です] 『おはよー。再建の話は聞いたぞー』 #僻地の泊地日記

2014-05-23 23:45:05
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

[違うんです。私、びっくりしちゃって!]彼女の声は弾みます。[比較的損害が軽微だった講堂に行ってみたら、料理がいっぱい並んでたんです!] 『料理?』 [一緒に置き手紙がありましたよ。「目出度シ 赤城」って書いてます] 赤城? 何処の赤城だ? #僻地の泊地日記

2014-05-23 23:50:07
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

あっ、と鳳翔さんが漏らします。「きっと色提督の赤城かと」 『なんでそう思う?』 「ええと……こんな粋なことをするのは、演習の面々からすると、あの鎮守府かな、と」 『粋? なにが目出度シなのか、鳳翔さんには分かるの?』 「それは……」 #僻地の泊地日記

2014-05-23 23:54:39
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

何故か困った顔の鳳翔さんと私の会話を<あやなみ>が切ります。 [ホントにかなりの数ですよ! リンガのみんなで食べ切れるかどうかの…] 『そっかあ……』 ちょっと考えて、私は鳳翔さんに艤装のヘッドセットを取ってもらい、装着します。 #僻地の泊地日記

2014-05-23 23:58:39
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