古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #25

更新二十五回目のまとめです。 青葉の苦悩、第六駆逐隊の苦悩。
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古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「……青葉には、やっぱり無理です。……青葉がいたら、また皆を沈めてしまいます……。皆を沈めて、青葉だけ生き残って……」 ソファに座って下を向いたまま、青葉がひとりごちるように言う。その声は震え、今にも消えてしまいそうなほどか細かった。私は即座に踵を返し、青葉の前に立った。

2014-06-05 21:50:55
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

その両肩を掴み、青葉を揺さぶる。 「何言ってるのよ、青葉!あんたが、そんなこと、言ったら……っ!」 そこから先は言葉にならなかった。あんたが立ち直れると信じた私たちの気持ちはどうなるの。なによりも古鷹ねーさんはどうなるのよ。あんたをかばって戦った古鷹ねーさんの気持ちは。

2014-06-05 21:54:45
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

知らず涙が私の両目からこぼれ落ちる。口に出せないもどかしさ、やるせなさを両腕に込めて力いっぱい青葉を揺すぶる。けれど、青葉は抗いもしなかった。目の前にいるのに、青葉の目は私を見ていなかった。 「土台、青葉には無理だったんです……。取り返しのつかないことになる前に青葉は――」

2014-06-05 22:01:32
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

――解体してもらおうと思います。 音は聞こえなかった。視界が灰色に暗転する。その世界で、青葉の唇がそう動いたのが私の目にはっきりと映った。 「やだ……っ、青葉……青葉……!」 私は力なく首を振る。ああ、またこれだ。目の前にいるのに、青葉が消えてしまう。何もできない、私の前から。

2014-06-05 22:07:26
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉が悪いんじゃない。なんでそんなに自分ばかり責めるの。古鷹ねーさんも青葉もどうして私を置いていくの。誰か、助けて。加古を頼ろうと後ろを振り返ろうとする。その時執務室のドアが勢いよく開かれた。 「ごめんなさい。邪魔するわね」 第六駆逐隊と鳳翔さんを伴い雷ちゃんが室内に入ってきた。

2014-06-05 22:17:21
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その姿を認めて、救いを見たかのように青葉がうっすらと微笑む。その青葉には構わず、雷ちゃんはずんずんと室内を突き進み執務机にどっかと腰かけた。第六駆逐隊の面々も机の両脇の椅子に座る。その表情は一様に固かった。鳳翔さんはさりげなく湯呑をお盆に乗せ、お茶を入れ替えに立った。

2014-06-05 22:24:49
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私は帰投した時の雷ちゃんの冷たく響く声を思い出していた。重巡4に駆逐2でオリョール海に出撃して見るも無残に敗北したのだから、雷ちゃんの怒りももっともだ。下手をすれば青葉の解体のお願いをこれ幸いと容れてしまうかもしれない。それだけはと口を開こうとする。その私を雷ちゃんの手が制した。

2014-06-05 22:33:24
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雷ちゃんの顔を見れば、眉間にしわが寄っていていかにも機嫌が悪そうだった。言い訳も聞いてもらえないということなの。青葉が私の手を振り払って立ち上がる。雷ちゃんに向かって口を開く。 「提督、青葉を――」 「ごめんなさいっ!」 執務室に、雷ちゃんの謝罪の声が響き渡った。

2014-06-05 22:40:10
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一瞬自分の目を疑った。雷ちゃんが執務机に着きそうなくらいに深々と頭を下げている。それを目にして青葉も私もあっけにとられていた。 「お座りになりませんか?」 お茶を入れ替えてきた鳳翔さんに促され、私たちは再びソファに腰を下ろす。そしていかにもバツが悪そうに雷ちゃんが話し始めた。

2014-06-05 22:48:28
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「今回の件は、完全に私の戦術ミスだわ。編成にこだわりすぎて、空母の護衛も付けずにあなたたちを危険にさらしてしまった。……本当に、ごめんなさい」 そこで言葉を切り、再び雷ちゃんが頭を下げる。あの固い表情は、青葉を責めているわけではなかったのか。安堵で全身の力が抜ける。

2014-06-05 22:53:15
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私の隣で同じくあっけにとられていた青葉が正気づき、慌てて口を開く。 「あの、でも、青葉のせいで、艦隊が負けて……」 「深海棲艦が弾着観測射撃を使ってくることは十分予想できたわ。それなのに、弱敵と侮ってぶっつけ本番であなたたちに新しい戦術を試させようとしたのは私よ」

2014-06-05 22:58:41
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「けど青葉があそこで進撃しなければ……」 「進撃を認めたのも私よ。命令の責任は実行した者ではなく命じた者にあります。責任をとるのは私の仕事」 青葉の情けない繰り言を雷ちゃんがばっさと切り捨てていく。私はそれを小気味よく聞いていた。そうよ、いつだって青葉だけが悪いはずないじゃない。

2014-06-05 23:07:13
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「青葉」 「……はい」 雷ちゃんがまっすぐ青葉を見据える。青葉が反射的に背筋を伸ばした。 「青葉は自分を責めないで。辛い思いをさせたのに、よく頑張ってくれました。ありがとう」 「……はい……」 雷ちゃんの温かい労いに、青葉が恐る恐る頷く。自分が労われていいのかと戸惑うように。

2014-06-05 23:18:06
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そんなの、いいに決まってる。新しい戦術とか、新しい兵器とか、そんな個々の艦には責任を取りきれないことまで、青葉が背負い込む必要なんてないんだから。そう思いながら青葉の顔を見ると、でも、と青葉の口が動いたのが見えた。 「でも、青葉は……」 青葉が何を言いたいのか、私にはわかった。

2014-06-05 23:29:53
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

ワレアオバ。パニックになった青葉が戦闘中に発しようとした発光信号。その件だけは誰も雷ちゃんたちに報告していなかった。青葉の袖を引き、その顔をこちらに向けさせた。雷ちゃんたちに聞こえないよう小声で呟く。 「忘れなさい。あれは気の迷いよ」 青葉が納得しがたいと言いたげな表情になる。

2014-06-05 23:39:38
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

さらに言葉を尽くして青葉を説得しようとした時、雷ちゃんの声が響いた。 「さて、誰が悪いのかはっきりしたところで、責任をとらなきゃいけないわね?」 思わず振り向くと、雷ちゃんが執務机の椅子から降りていた。それを第六駆逐隊の姉妹が心配そうに見つめる。まさか、雷ちゃんは。

2014-06-05 23:48:58
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「鳳翔!」 雷ちゃんが鳳翔さんを呼び紙を一枚手渡した。それを一瞥した鳳翔さんが眉をひそめる。 「提督、本当によろしいのですか……?」 「いいのよ。これくらい当然だわ」 目を閉じている雷ちゃんの声が小さく震え、その態度が強がりであることを示している。鳳翔さんが小さく頷き、口を開く。

2014-06-05 23:57:21
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「では、鳳翔が提督に代わり処分を言い渡します。『暁型駆逐艦三番艦雷を、一か月間夕食のカレー抜きの刑に処す』」 私は思わずソファからずり落ちそうになった。てっきり雷ちゃんが提督を辞任すると言いだすのかと思ったのに。けれど、雷ちゃんや第六駆逐隊の面持ちを見る限り彼女たちは真剣だった。

2014-06-06 00:03:47
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「い、電も一緒にカレー抜きになるのです!」 「だめよ!これは私の責任。電を巻き込むわけにはいかないわ」 電ちゃんが雷ちゃんにすがりつくけれど、雷ちゃんが涙をこらえてそれを大げさに引き離す。まあ、このくらいの年ごろだとカレーは生きがいとも言えるレベルだとは思うけれど。

2014-06-06 00:10:46
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ふと見ると妹たちを見ながら暁ちゃんがなにやらもじもじしている。察するに、一人前のレディーとして自分も一緒にカレー抜きになると宣言するのと、おいしいカレーを味わうのとで板挟みになっているようだ。可愛らしいと思っていると、その暁ちゃんに響ちゃんがとことこと近づき、何やら耳打ちした。

2014-06-06 00:16:02
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

その声がかろうじて聞き取れた。曰く「暁が自分のカレーを半分こしてあげるといいよ。レディーのたしなみだよ」。それを聞いた暁ちゃんの顔が輝く。ねえ、青葉見てごらんなさいよ。あんたがごちゃごちゃ悩んでるのと同じくらい、この子たちも真剣に悩んでるわよ。その時、執務机の上の電話が鳴った。

2014-06-06 00:21:45
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鳳翔さんが受話器を取り上げる。どうやら鎮守府備え付けの地上電探の妖精さんからのようだ。 「はい、艦隊の帰投ですね。何隻……えっ!?大破艦が三隻ですか!?」 執務室に、緊張が走った。

2014-06-06 00:26:21