モーサイダー!~Second Lap~Episode II
- IngaSakimori
- 1332
- 0
- 0
- 0
「で、そのまま同じコマに初回教習の予約を入れてきた、と」 「ああ、そうだけど……なんでそんなに機嫌が悪いんだ?」 「当たり前ですわっ!!」 血管のちぎれるブチブチという音が聞こえてきそうな表情で、日原院亞璃須(にっぱらいん ありす)は叫んだ。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:01:18(訳がわからないな……) 既に手続き一式を終え、八王子ドライバーズスクールからほど近い場所にある、二輪用品店の駐車場へ移動したあとのことである。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:01:28(何も変なことなんてないじゃないか) たまたま同じ日に入校した仲間がいた。しかも同じ大型二輪コースだった。せっかくだから、同じコマに予約しようと言われた。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:01:41だから、応じた。 「それだけのことだろ?」 なぜそんなことで不機嫌になるのか、ましてや自分が悪いように言われるのか、志智にはさっぱり分からなかった。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:01:49「確かにそれだけのことですわね。 わたくしもその━━ええっと、なんて言いましたっけ?」 「……瀬尚。 瀬尚玲矢(せなお れや)とか言っていたよ」 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:01:58「そう。 その瀬尚とかいう、尻軽誘惑八方美人の油断できない女が相手でなかったら、気にしたりしませんわ!」 「お前……見たことも話したこともない相手をそこまで言うか」 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:02:07「偶然ぶつかって、せっかくだから一緒に教習を受けて、だなんて。志智にちょっかいかける気まんまんの行動ですわ。計算尽くに決まっています」 「……いくら何でもそれはないだろう」 ため息をつきながら、志智は振り返る。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:02:42なじみの『ハングオフ・モータース』とは規模も品揃えも違いすぎる、二輪用品店の駐車場には、週末ということもあってか、多数のバイクがあふれている。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:02:49「お、XRだ。お前が乗ってるやつと同じかな?」 「あれはME08ですから、250ccですわ。 確かにカラーとかはXR650Rに似てますけど、エンジンも空冷ですし、フレームもスチールですし、いろいろ別物です」 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:03:02「へえ。だけど250ccなのに、あんなに大きいんだな」 「いちおうエンデューロレーサーですもの。普通の市販車とは違います」 グロムのタンクを手のひらでぽんぽんと叩きながら、亞璃須は言う。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:03:11「これひとつとっても、樹脂製ですから」 「ふうん、俺にはよく分からないけど、いろいろ違うんだな」 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:03:29「大型免許をとるなら、少しは体系的に勉強した方がいいですわ。 もともと志智は腕に知識が追いついてないんですから、頭で考えて走れるようになれば、もっと速くなります」 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:03:42「まあ……おいおい勉強はしていきたいけど、さ」 背中で一際、大きな排気音。これみよがしなチタンマフラーをつけた隼が、さあ聞け!とばかりにエンジンをふかしている。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:03:51(ふうん……) サスペンションは前後オーリンズ。ぴかぴかと光るホイールはマグネシウム鍛造だろうか。やたらと明るいヘッドライトはHIDが入っているのだろう。 ━━もっとも、そんなことが分かる志智ではないのだが。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:03:59「あれ、さ」 「なんです?」 「楽しいのかな。ああやって高そうなパーツいっぱい付けてさ……音も大きくて、目立つし、まあ、かっこいいし」 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:04:07「そうですわねえ。バイクの楽しみではありますね。 ハイグレードなサスペンションはやっぱり乗ってて気持ちいいですし、世間の目は優しくないですけれど、いい音のするマフラーはありますし」 「お前のXRも結構うるさいもんな」 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:04:18「失礼な。ちゃんとギリギリ99dbで車検は通りますわ」 「……あんな音で車検に通るんだから、そりゃバイクが悪くも言われるよな」 周囲を見渡すと、志智は自分がマイノリティなのではないかという感覚に襲われる。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:04:26(どうしてみんな……あんなにピカピカにしてるんだろうな) 光り輝くタンクと外装。足回りを見ても、ろくに汚れた様子もなく、そのままショールームへ並べても違和感がないように思えてくる。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:04:37なぜあんなに綺麗なのだろうと、志智は思う。 どのくらい『走らなければ』あんなに綺麗な状態を保てるのだろうと、志智は考える。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:04:50「バイクの楽しみって……なんだろうな」 「いつから哲学科に転籍したんです? そんなものは人それぞれですわ。好きなように楽しめばいいと思いますけれど。バイクってそういうものでしょう?」 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:05:02「お前はなんていうか、悟ってるんだな」 「まっ、こう見えても志智よりずっとバイク歴は長いですもの。 大型免許も持ってますし」 「なるほど、大型免許があれば悟りを開けるのか」 「そういうものでもないですけれど」 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:05:12亞璃須が困ったように笑ったのは、志智が冗談を言っていると分かったからだった。 一年前なら、いや半年前でも真に受けていたかもしれない。 けれど、今の彼女ならば分かる。全てではないにせよ、三鳥栖志智(みとす しち)という男の心が少しは理解できる。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:05:34(単純なようで、とても複雑な人……前向きなようで、どうしようもない闇を抱えている人……) そんな志智だからこそ、亞璃須はたまらなく愛おしい。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:05:43「バイクって……なんだろうな」 「………………」 そんな志智だからこそ、亞璃須は不安になる。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:05:52