オペラ：【道化】／舞台【刺青】

裏・舞台俳優と奴隷 @xxxRonica

［舞台：刺青］ ○GUEST――ヴェロニカ - - - - - - - - - - - - - - - - - - - ［オペラ：道化師］ ●主演――ロルフ・ワーナー pic.twitter.com/SJNOdwtykC

拡大

シャオイー(小伊) @applex002

慌ただしく馬車に揺り混み、走り出して暫くしてからもう一度あの犬について触れた。「パパが寄越したのよ。あれの兄弟には会ったことがあるでしょ？」『…ええっと…、あ！あの姿が見えない犬ですか！』「そう。…ヴォルフの散歩と世話もあなたに任せるわ。ただ、あれに接する時は用心なさい」

シャオイー(小伊) @applex002

『用心ですか』「あれの前では完全な人間を装いなさいと言ったのよ。ナベリウスという闇に紛れ、日の下でのみ姿を見せる魔獣でね、三対で一体なのよ。残りの二匹はパパの元にいる…番犬とはよく言ったものね。体のいい監視役と言うことよ。三匹は離れていようと常に繋がっているのよ」『…はい』

シャオイー(小伊) @applex002

「まぁ、滅多なことはないでしょうけど。パパはあなたが稀有な存在と言うことを知らないのよ」『はい、気をつけます』「ところで、…なんで急に眼鏡なのよ？」きょとんと訝しげな目を向ける主人に言われて初めて自分が眼鏡をかけていることを思い出した。

シャオイー(小伊) @applex002

『あ、…えっと…買い物に寄ったお店でたまたま見つけまして。…ただでさえ年齢が低いんです、この方が少し大人びて見えるでしょう？っ、あ！』言い終わるか否や主人はひったくるように眼鏡を取り上げた。

シャオイー(小伊) @applex002

ひっくり返したり、フレームを叩いたりして何度か眼鏡を確認すると自分にかけてぐっと整った顔を近づける。『っ、シャオ？』眼鏡越しに遠慮もなにもなく瞳を覗き込まれて頬に熱がのぼる。「……ふーん？」暫くそうしていたかと思うと何事もなかったかのように眼鏡を返してくれた。内心ほっと息をつく。

シャオイー(小伊) @applex002

そうしているうちに馬車はゆっくりと止まった。「さあ、今夜は盛大に楽しむわよ！ロルフさま主演の舞台なんですから！！」『…ふふ、はいはい』「はいは一回！！」『はーい』煌びやかなホールへと向かう着飾った人々の群れの中に自分たちも身を投じた。

裏・舞台俳優と奴隷 @xxxRonica

≪前奏≫ (街一番の劇場、そのエントランスに道化の姿の男のポスターが貼られている――『道化師』、主演は劇団の人気テナーのロルフ・ワーナーである。白金の髪と青い瞳に婦人方はうっとりとしている。)

裏・舞台俳優と奴隷 @xxxRonica

≪開演≫ (舞台の幕はまだ上がらない。そこに一人の道化師が現れた。白金の髪に涼やかな青い瞳、道化の化粧をしても尚美しい顔立ちだということが見て取れる。『舞台の上では人を笑わせる我々道化役者も、血肉を持った普通の人間。悲しみや苦悩を感じるのは一緒です』口上が終わると男は消えた。)

裏・舞台俳優と奴隷 @xxxRonica

≪開幕≫ (ある村に旅回りの一座が訪れ、座長が芝居の宣伝をした。座長の妻は一座の女優、しかし彼女は嫉妬深い座長に嫌気がさしていた。女優は自由に焦がれ歌う。そこに一人の座員が現れた。男は女優を口説くが、実は女優にはこの村に愛人がいたのである。二人は密かに駆け落ちの約束を交わす。)

裏・舞台俳優と奴隷 @xxxRonica

(その現場を、座員の男は見ていた。男はすぐに座長を呼んだ。『今夜からずっと、アタシはアンタのもの』妻が愛人にそう囁き、それを聞いた座長は逆上した。愛人は逃げだし、妻は相手の名を夫に明かすことを拒む。座長の怒りは収まらないが、彼は今夜、感情を隠して芝居をしなければならなかった。)

裏・舞台俳優と奴隷 @xxxRonica

≪第二幕≫ (いよいよ芝居が始まる。その内容は正に、先程の騒動をなぞるようなものであった。『今夜からずっと、アタシはアンタのもの』女優であり妻である女は同じ言葉を紡ぐ。座長であり夫である男はその台詞に取り乱した。その様子は観客の目には迫真の演技に映り、盛大な拍手が沸き起こる。)

裏・舞台俳優と奴隷 @xxxRonica

(熱り立った男は叫ぶ。『情夫の名を言え、俺はもう道化師ではない！』その気迫に観客は息を呑んだ。女は強気に笑う。『嫌よ』その言葉が引き金となり、男は近くに置かれたナイフを女に突き刺した。女は最期に現実の愛人の名を呼ぶ。それに応え、客席から愛人が舞台へ駆け寄った。)

裏・舞台俳優と奴隷 @xxxRonica

(現れた愛人を見て男は呟く。『情夫はお前か』そうして女と同様に愛人をも刺し殺した。客席からは悲鳴が上がる。男の手からはナイフが零れ落ちた。『これで喜劇は終わりです』騒然とする中、そう言うと男は狂ったように笑い始めた。その笑い声は、泣き声のようにも聞こえる。) ≪終幕≫

裏・舞台俳優と奴隷 @xxxRonica

(舞台が終わり、エントランスには人々が溢れかえっていた。皆口々に舞台の感想を言い合っている。)

裏・舞台俳優と奴隷 @xxxRonica

『お疲れ色男！いや、今日は道化師か？』『稽古より格段に良かったぜ！なんだなんだ、本番で成長するタイプか？』『あ、ああ…どうも……。』『おいおい初演からそんなへばってるようじゃこれから先が心配だぜ？』『もっとしゃんとして、お前も挨拶に行ってこいよ。ご婦人やお嬢さんがお待ちだ。』

シャオイー(小伊) @applex002

『ロルフさん、話に聞いていたよりずっと情熱的な方なのですね。いえ、役柄もあるのでしょうが…想像していたような雰囲気と違っていて驚いてしまいました』「……わたしも、」『え？』「え？」

シャオイー(小伊) @applex002

『ぼくオペラって初めて見たんですけどやっぱり凄いですね』「…ええ」『なんというか、ストーリーもかなり過激でしたし』「…ええ」『特に座長が愛人を殺すシーンなんて迫真の演技で圧巻でしたね』「…ええ」『あの、ぼくの話聞いてませんよね？』「…ええ」『…』

シャオイー(小伊) @applex002

「…さてと、わたしたちも帰りましょう」『挨拶していかなくてよろしいのです？』「誰によ？」『え？ロルフさんにです』「なんでよ？」『好いていらっしゃるのでしょう？』「ええそうよ、だからただの一ファンでいるの 。わかってないのね」『…はぁ』「さあ、行くわよ」