『ユマニチュード入門』書評(medtoolz先生)

『ユマニチュード入門』(医学書院)について、@medtoolz先生による連続ツイートのまとめです。
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medtoolz @medtoolz

ニュースで取り上げられていた介護の新しい技法、ユマニチュードに関する本を読んだ。特別な手技や道具が紹介されている本というよりも、むしろ今まで誰もが漠然と考えていた丁寧な介護の一つ一つを理論化、体系化、意味付けを行っている内容だと感じた。

2014-06-16 12:13:06
medtoolz @medtoolz

やっていることそれ自体はそこまで大きく激変するわけではないから、こうした技法は恐らくこれから導入されるし、介護現場の人達が普段やっていることで、最終的に何が達成できるのか、このあたりに意味付けを行うと、現場のやる気にもつながるような気がする

2014-06-16 12:14:08
medtoolz @medtoolz

患者さんと話すときには絶対に視線を合わせる。挨拶を行い、常に親しんだ態度で会話を続ける。患者さんを掴まない。掴んで連行するのではなく、触れて支える。拘束はしない。立つこと、歩くことを目標にする。1つのセッションが終わったらお礼を言い、次回の約束をする。新しいことはない。

2014-06-16 12:15:13
medtoolz @medtoolz

動作の一つ一つは、徹底することが推奨される。目線を合わせるのならば、術者は患者さんの顔が向いている方向に自分が移動しないといけないし、そちら側が壁ならば、椅子やベッドを移動して、正面に行かないといけない。見下ろしてはいけない。目線の高さをあわせないといけない。やると膝が痛い。

2014-06-16 12:16:16
medtoolz @medtoolz

挨拶をしないといけない。最初はノックして入るところから始め、挨拶を行い、会話しないといけない。出会って2.5秒で清拭、とかやってはいけない。患者さんから許可をもらわないと、それがどれだけ体にいい手技であっても、やってはいけない。

2014-06-16 12:17:19
medtoolz @medtoolz

会話は切らさないほうがいい。高齢者との会話が続くわけもないから、そうなったら術者が今何を行い、どう感じているのか、それを患者さんに実況中継すればいい。親しんでいる態度を、会話という刺激を通じて患者さんに伝えていかないといけない

2014-06-16 12:18:19
medtoolz @medtoolz

掴んではいけない。掴む動作は相手を連行する人間のものであって、支える人間の動作ではない。触れることを通じて、自分は患者さんの味方であることを伝えないといけない。手のひらで支えること、患者さんにとってプライベートな場所は触らないこと、拘束はしないことを徹底しないといけない

2014-06-16 12:19:21
medtoolz @medtoolz

ケアを通じて最終的に、患者さんを立たせなくてはいけない。足で立つこと、寝た状態ではなく、たった状態で周囲をみ下ろすことで、患者さんは置かれた環境に対して自信を取り戻すことができる。自信が回復できれば、援助してくれる人を味方だと認識できる閾値も下がっていく。まわりに味方が増えていく

2014-06-16 12:20:25
medtoolz @medtoolz

認識力の低下した患者さんは怖い思いをする。見えない場所から手が伸びてくる。黙った人が上から見下ろす。自分では何も決められないままに怖いことをされる。自信がなくなり、諦めた結果動けなくなり、目線は下がり、患者さんを取り巻く環境には、いつしか敵ばかりが増えていく。

2014-06-16 12:21:27
medtoolz @medtoolz

俺解釈だけれど、ユマニチュードの考えかたは、日常的に行われている介護というものを通じて、患者さんが環境に対して自信を取り戻せることを目指しているのだと思う。やっていることにも無理は少ないように思うし。

2014-06-16 12:21:27
medtoolz @medtoolz

ユマニチュードの柱として説かれているやりかたは、介助者が患者さんに対して「俺は味方だ」というメッセージを発信するように考えられている。患者さんの目線を見て、目線の正面、遠くの場所に立つ。この場所は警戒が可能で間合いが遠い、患者さんにとってもっともコントロールが効く場所でもある

2014-06-16 12:22:29
medtoolz @medtoolz

コントロールできる場所は、恐怖が最小になる場所でもある。真後ろに立たれたり何か武器をつきつけられたり、状況がコントロールできなくなると誰もが恐怖を感覚する。信頼への転化を期待して恐怖量を増すやりかたは、恐らくは恐怖を与えられた誰かに十分な認知能力があることを前提にする

2014-06-16 12:23:30
medtoolz @medtoolz

武器を突きつけ、「おとなしくしろ。さもないと刺すぞ」みたいな言葉を発する犯人は、被害者のことを信頼しているのだとも言える。被害者が信頼を裏切って大声を出せば、結果として全てが台無しになってしまう。認知能力が低下した高齢の患者さんにこれをやったら、もちろん怖がって叫ばれてしまう

2014-06-16 12:24:31
medtoolz @medtoolz

話しかけるということは、相手を認識しているというメッセージにもなっている。「そばにいる間はずっとあなたを認識しています」というメッセージを言語で伝えようと思ったら、そばにいる間はずっとその人に語りかければいい。

2014-06-16 12:25:33
medtoolz @medtoolz

このあたり、「患者さんは言葉を聞きたがっています。語りかけましょう」と道徳でしめてしまうと、現場はじゃあ、沈黙する患者さんにどうすれば語りを続けられるのか、困ってしまう。ユマニチュードの入門書には、会話が続かなかった場合にはこうしましょうと提案されていた

2014-06-16 12:26:34
medtoolz @medtoolz

道徳を語っていないのがいいよなと思った。目線を合わせましょうでなく、こういう動作で目線が獲得できる。会話しましょうでなく、会話が途切れたらこの話題で語り続けよ、と必ず発生するであろう現場の状況に、あらかじめ手当がしてある。兵士に向けたマニュアル本っぽいというか

2014-06-16 12:27:35
medtoolz @medtoolz

目線や会話、接触や、本来患者さんにとって有益なものである体位交換や清拭、食事の介助といった動作もまた、患者さん自身の許可があってはじめて行われないといけない。意思に反して何かをやる人間は敵で、介助者は絶対的に患者さんの味方でないといけない

2014-06-16 12:28:37
medtoolz @medtoolz

メッセージに矛盾があってはいけない。目が笑っているのに連行の掴みを行っていたら、認知能力が低下している患者さんは混乱する。混乱は怖いから、とりあえず回りにいる人間全てを敵認定して閉じこもる。

2014-06-16 12:29:38
medtoolz @medtoolz

苦労して味方になって、味方が援助を申し出て、患者さんは最終的に立つことになる。自分の足で立つこと、患者さんを取り巻く環境を、ベッドから見上げるのではなく主人のように見下ろすことで、患者さんの自信は回復する。自信が増えれば、恐らくは味方がもっと増えていくように感じるようになる

2014-06-16 12:30:49
medtoolz @medtoolz

患者さんにとって立って周りを見渡すことは、自分の居場所や周囲の介助者といった、まわりの世界と自分とが和解することにつながる。断絶は回復され、孤立していた患者さんは人としてのつながりを取り戻す。

2014-06-16 12:31:51
medtoolz @medtoolz

勝手な解釈がだいぶ入っているけれど、「これが患者さんのためです。真心を込めなさい」というやりかたよりも、漠然と丁寧なやりかたを一つ一つの要素にばらし、それぞれの動作に意味付けを行い、それが統合された結果として患者さんがどこに到達できるのかを示すことは、動機付けにつながる

2014-06-16 12:32:52
medtoolz @medtoolz

このへんはたぶん、ディズニーランドの動機付けは似たようなことをやっている。スタッフそれぞれの専門業種がお客さんの体験にどう貢献するのか、自分の業種に習熟することで、お客さんになにをもたらすことができるのか、このあたりを体系化したことが動機付けに貢献しているのではないかと思う

2014-06-16 12:33:54
medtoolz @medtoolz

介護の現場は厳しくて、ユマニチュードの考えかたは、お金をかけずにぎりぎりの現場から動機を絞りだすための道具として役立つだろうけれど、「立つ」という要素はこの考えかたとは不可分だから、ここがきっと難しい。

2014-06-16 12:34:56
medtoolz @medtoolz

不自由な人であっても、自分の足で立ち、歩き、もしかしたら転ぶことも含めて、こうした動作は世界と和解して自身を取り戻すために欠かせないものだから、本の中でも「よりよい健康を保つためには転倒もその中で起こりうることのひとつ」と触れられている。ご家族がここに納得しないと厳しい。

2014-06-16 12:35:58
medtoolz @medtoolz

「介護とは、患者さんが自信を回復して世界と和解することを手助けするための体系化された方法である」という理念それ自体を嫌う人も多いかもしれない。少なくとも現場はこんな理念で回っていないから。やっていることは変わらなくても、全く異なった理念で回っていることってよくある話で

2014-06-16 12:37:02