『貨幣という謎』誤りと議論のポイント (ビットコインに関する部分)

西部忠『貨幣という謎 ─ 金と日銀券とビットコイン』(NHK出版新書) の内容のうち、ビットコインに関する記述で誤っているところや議論のポイントなどをまとめました。
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-姉妹まとめ-

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Kenji Saito @ks91020

拙著『これでわかったビットコイン』、西部さん『貨幣という謎』、吉本さん・西田さん『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』、野口さん「仮想通貨革命」 #ビットコイン に関する本が出揃いました。それぞれよいことも書いてあると思いますが誤りや議論したい点があるのでまとめてみます。

2014-06-18 15:14:05
Kenji Saito @ks91020

つづいて西部忠さんによる『貨幣という謎 ─ 金と日銀券とビットコイン』。貨幣論として面白く読めました。私は地域通貨の電子化の研究をしてきたので、参考になるところも多かったです。ただ、 #ビットコイン に関するところは、誤って認識されているのかな、というところも散見されました。

2014-06-18 17:17:02
Kenji Saito @ks91020

『こうして、過去から続く時間の中で人が世界は今日も明日も変わらないと信じることにより、「観念の自己実現」は「慣習の自己実現」として達成されていきます』 #西部忠 『貨幣という謎』p.116→ここ、ビットコインについてではないのですが、それが動いている最大の理由はこれだと思います。

2014-06-18 17:54:11
Kenji Saito @ks91020

『「ビットコイン」…とは、2009年5月にインターネット上に現れたネットワーク型暗号通貨であり…』 #西部忠 『貨幣という謎』p.133→最初のマイニングはおそらく2009年1月3日。P2P foundationにサトシによるv0.1の投稿があったのが 2009年2月11日です。

2014-06-18 18:11:32
Kenji Saito @ks91020

『中央組織の代わりに「Bitcoin-Qt (ビットコインクライアント)」と呼ばれるソフトウェアをインストールした世界中の…』 #西部忠 『貨幣という謎』p.134→Bitcoin-Qt は数あるビットコインクライアントのひとつに過ぎません (Qt を用いて開発されています)。

2014-06-18 18:17:31
Kenji Saito @ks91020

#西部忠 『貨幣という謎』p.134→Bitcoin-Qt はサトシ・ナカモトによるオリジナル参照コードをもとに、ビットコインの開発コミュニティにより作られています。ビットコインのネットワークには、同じプロトコルで通信するクライアントなら何であれジョインできます。

2014-06-18 18:20:18
Kenji Saito @ks91020

『この…計算パズルは、ビットコインのネットワークのセキュリティや匿名性の強化のために設けられています』 #西部忠 『貨幣という謎』p.136→マイニングを指していますが、匿名性の強化に結びつくでしょうか。むしろ、匿名性を持たせようとしたことの帰結がマイニングという方式では。

2014-06-18 18:24:43
Kenji Saito @ks91020

#西部忠 『貨幣という謎』p.136→本来、実名でデジタル署名を用いれば、否認不可能性があるので、不正があれば追及できます。ビットコインは匿名でデジタル署名を用いる試みなので、不正を行った者を追及しにくく、そこで不正を困難にするためにマイニングを導入しているのだと思います。

2014-06-18 18:28:56

「匿名でデジタル署名を用いている」と言い切っていないのは、単に<公開鍵, 秘密鍵>の鍵ペアを個人と結びつけていない、ということをもって匿名性のようなものをある程度実現しているだけだからです。

Kenji Saito @ks91020

『…発行量が増えるにつれて演算処理に伴う計算量が急激に増加するため…発行量の上限が2100万枚以下に抑えられるように…』 #西部忠 『貨幣という謎』p.136→コインの発行量とそのペースは予め定められていますから、計算量の増加とは無関係です。上限に関する因果関係も説明が変です。

2014-06-18 18:35:37

ちょっと言葉足らずでした。
下のツイートで書いているように、マイニングのための計算量が増大するのは、マイニングに投入される全体の計算パワーが増えても発行のペースを崩さないためです。
マイニングが何度も行われ、市場に出回るコインの量が増えていっても、マイニングに、より大きな計算パワーが投入されなければ、マイニングのための計算量が増えることはありません。

Kenji Saito @ks91020

#西部忠 『貨幣という謎』p.136→計算量が増加するのは、マイニングに参加する計算パワーが増大するときです。予め定められた発行のペースができるだけ揺るがないように計算量を増加させて調整します。従って、コインの発行量の上限が2100万BTCであることも計算量の増減とは無関係です。

2014-06-18 18:40:47

コインの発行量の上限が総額で2,100万BTCであることは、マイニングによるブロック毎の発行量が最初50BTCで始まり、210,000ブロック (約4年) 毎に半減するというルールにより求まります。
ここにマイニングの難易度 (計算量の大きさ) は関わってきません。

Kenji Saito @ks91020

『ビットコインの通貨発行・管理システムの考案者は中本哲史…という日本人…』 #西部忠 『貨幣という謎』p.138→多くの人々が、この点を安易に考えすぎだと思います。日本名をもつとなぜ日本人なのでしょうか。また「中本哲史」という漢字を当てたのは誰なのでしょうか。本人は使ってますか。

2014-06-18 18:44:44
Kenji Saito @ks91020

『…ビットコインによる決済は金融機関を通さないため手数料は発生しません』 #西部忠 『貨幣という謎』p.140→捨象してそう書かれたのかも知れませんが、手数料の仕組みはビットコインの設計の中に最初から組み込まれ、現に手数料は発生しています。ただ、相場は確かに安価だとは思います。

2014-06-18 18:48:40
Kenji Saito @ks91020

『中国では取引でのビットコインの使用は禁じられました』 #西部忠 『貨幣という謎』p.140→正確には、金融機関が取り扱うことが禁じられたのだと思います。

2014-06-18 18:50:20
Kenji Saito @ks91020

『事実、アルファコイン、ファストコイン、ライトコイン、リップル等々、ビットコインの改良型とも言うべき…』 #西部忠 『貨幣という謎』p.143→リップルは発案がビットコインより古く、私の博士論文(2006年2月)でも引用しています。実運用が始まったのは確かに遅かったようです。

2014-06-18 18:53:48
Kenji Saito @ks91020

『さらに、この技術は通貨以外の方面における情報セキュリティにも広く利用されるにちがいありません』 #西部忠 『貨幣という謎』p.143→そういう意見があるのは知っていますが、ブロックチェイン方式はとても脆いものだと私は考えています。力で守るだけだしP2Pの特性を考慮していません。

2014-06-18 18:56:18
Kenji Saito @ks91020

#西部忠 『貨幣という謎』p.143→それこそ「慣習の自己実現」により動いているので、全員が本当に利己的に振る舞ったときに脆さが露見するのではないかと疑っています。また、全体がひとつでなければならないという設計は、耐故障性を考える上で致命的です。

2014-06-18 18:59:19
Kenji Saito @ks91020

『ビットコインの設計思想は、フリーソフトウェアとP2Pにあると言えます』 #西部忠 『貨幣という謎』p.144→そのように見せているという点で、ビットコインはある意味天才的だと思いますが、本質的にフリーソフトウェアやP2Pと考え方が相容れない面を持っていると思います。

2014-06-18 19:01:43
Kenji Saito @ks91020

#西部忠 『貨幣という謎』p.144→フリーソフトウェアの根底にある考え方は、知識をシェアすることですが、ビットコインの根底には奪い合いがあります。P2Pは、休眠しているネットワーク上の資源の有効活用という背景を持ちますが、ビットコインは資源を浪費する方向に動いていきます。

2014-06-18 19:03:51
Kenji Saito @ks91020

『一言でいえば、集権性を核とする国家通貨や地域統合通貨が支配的である現状において、P2P型分散的ネットワークを活用する民間通貨がそれらと競合しうる世界がリアリティを持ち始めたということです』 #西部忠 『貨幣という謎』p.146

2014-06-18 19:10:13

こうした観察を含めて、全体的にはよいことがたくさん書いてある本だと思いました。

-ビットコインに関する書籍一覧 (出版順)-

『これでわかったビットコイン』
http://www.amazon.co.jp/dp/4811807723

『貨幣という謎』
http://www.amazon.co.jp/dp/4140884355

『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』
http://www.amazon.co.jp/dp/4062578662

『仮想通貨革命』
http://www.amazon.co.jp/dp/4478028443