ステルス機とレーダー探知の話
F-16設計者、F-35が駄作な理由を語る : ギズモード・ジャパン
- ギズモードの記事の語り手であるピア・スプレイ氏は戦闘機の有視界ドッグファイトを重視するファイターマフィアの重鎮で、F-35戦闘機どころか8年前にはF-22戦闘機までも駄作機と断じています。
- F-22までも駄作と言い張る方なので、F-35を駄作とするこの記事も同様に眉に唾を付けて見るべきでしょう。
- そしてこの記事のスプレイ氏のコメント『レーダーは1942年にできた、ブリテンの戦いのときのレーダー、あれで世界中のステルス戦闘機は現代のものまで含め、すべて検知できる。』から発展した話を纏めておきます。

極めて旧式のレーダーならステルス機を探知できるというお話は、「機体寸法と電波の波長が近いと、反射波が極めて大きくなる」という現象を利用したものです。 現在のレーダーは、精度を向上のため短波長の電波を使用するのですが、旧式レーダーは、技術的理由で波長の大きい電波を使っていました。
2014-06-19 23:43:19
しかしながらこの話には、大きな落とし穴があります。 旧式なレーダーには、ノイズ除去機能がない(あるいはその能力が極めて低い)という点です。
2014-06-19 23:45:58
通常、生のレーダー反射波は、いろいろなノイズが混じって帰ってきます。 それは、地上からの反射であったり、雲や鳥、舞い上がった砂塵からの反射や、偶然飛び込んできたレーダー波と同じ波長の電波などです。
2014-06-19 23:48:47
したがって、感度をMAXで(ノイズを除去せずに)レーダー画面をつけると、(何でもかんでも反射波と解釈して)画面は真っ白になって何も見えなくなります。 これでは使い物になりません。 従って、ノイズを除去する必要があります。
2014-06-19 23:49:52
こういったノイズ除去には、いろいろな方法があります。 手っ取り早いのは「ある強度以下の反射波は無視する」という方法です。 雲や鳥や砂塵よりは、飛行機の方が反射が大きいのですから、飛行機の反射だけを選択的に表示することができるようになります。
2014-06-19 23:51:54
旧式レーダーは、こういった「一定以下の反射波を無視」という方法でノイズを除去しています。 しかし、この方法だと、地上からの電波の反射(グラウンドクラッターと言います)を除去するのが極めて困難なのです。 地上からの反射は、飛行機の反射と同じくらい強いからです。
2014-06-19 23:54:35
したがって、旧式のレーダーは、低空侵入する飛行機を探知するのが苦手なのです。 (現代のレーダーですら得意とは言えない)
2014-06-19 23:57:50
次に、いくら反射が増大するといっても、ステルス機の反射波はもともと極めて小さいのです。 このため「一定以下の反射波は除去」という方式でノイズ除去を行っていると、ステルス機の小さい反射波をノイズと判断して除去してしまう公算が極めて大きいのです。
2014-06-20 00:00:42
最後に、「旧式のレーダーは、電波妨害に対して脆弱である」という致命的な弱点がああります。 「電子戦」などという単語がようやく囁かれ始めた頃のレーダーですから、現在の電子技術の粋を集めた「電波に載せた悪意」によって、簡単に無力化されてしまうことが予想されます。
2014-06-20 00:03:37
具体的には、「ステルス機に電子妨害装置を搭載する」「ステルス機の後方に電子作戦機を飛ばし広域電波妨害を行う」という方法が取られた場合(これらは普通に行われる作戦です)、旧式のレーダーで対応するのは、まず無理です
2014-06-20 00:06:00
ここで、ちょっと察しのいい人ならこう考えると思います。 「では、ステルス機を探知しやすい波長を使ったレーダーを、現代の技術で作れば良いのでは?」と。 これはある意味で正解ですが、それだけでは問題が解決しないのです
2014-06-20 00:08:38
どのような落とし穴があるのでしょうか? まず、ステルス機を探知しやすくなるような、波長の大きい電波は、精度を上げるのが難しいのです(だから短い波長のレーダーに移行している) 電波というのは波長が大きいほど、大きく広がりやすいのです。
2014-06-20 00:13:50
例えば、米軍の初期の警戒レーダーであるSCR-270 は、ビーム幅が28度でした。 これでは180km先の敵を探知しても 「あのへんの、横幅95kmの範囲に反応があるな」ということしか、わかりません。 (実際はビームを動かすとかで精度を上げるのですが、それでも精度が良いとは……
2014-06-20 00:26:18
つぎに、電磁波のビーム幅が広く、その間に敵の編隊が入ってしまうと、敵が何機いるかわからないのです。 「100km先に反射波がある。ビームを振って3kmの精度までは絞ったけど、その範囲に敵が何機いるのかわからない。偵察機1機かもしれないし、数十機の編隊かもしれない」
2014-06-20 00:30:56
これでは警戒レーダーとして失格です。 もちろん、ミサイルの誘導に使うなど、とてもできません。 こういう点などから、長い波長のレーダーを現在の技術で作っても、戦力化するのが難しいのです、
2014-06-20 00:32:04
では、ステルス機にやられるままですか? というと、そこはまた違います。 電波屋さんは、いろいろな方法で、ステルス機の探知を試みているのです。
2014-06-20 00:37:34
ここでステルス機の原理にちょっと踏み込みます。 「ステルス機の原理は、レーダ波を反射しないからレーダーに映らない」と言われていますが、ちょっと違います。 ステルス機といえど、電波反射をゼロにすることはできません。 ほんの小さな電磁波は、しっかりと反射しているのです。
2014-06-20 00:40:56
現代の(といっても最新ってほどじゃない)レーダーでは、この極めて小さな反射波を拾って、ステルス機の探知を試みています。 もっとも、先ほど話した旧式のレーダーと同じで、「小さい反射波を全部表示したら画面が真っ白になってしまう」ので、いろいろ工夫が必要です。
2014-06-20 00:44:20
その工夫の一つが、時間差で、何回も探査する方法です。 ノイズは雑多なもので、まとまりがありません。 しかし、ステルス機の反射波は、どんなに小さくても必ず存在します。 そこで、同じ空間を複数回捜索し、結果を比べてノイズを除去し、ステルス機を浮かび上がらせる、という方法です
2014-06-20 00:50:32
これは、捜査間隔が短いほど、回数が多いほど、良い結果を得られます。 しかし、パソコンのスペックは有限なので、時間の間隔と探査回数は、バランスの良いところに抑えないといけません。 また、処理ソフトの出来不出来によっても、結果は変わってきます このあたりが、各国の腕の見せどころです
2014-06-20 00:55:23
身近なところで「画像処理ソフトの出来不出来」というのが近いかもしれません。 画像の代わりにレーダー反射波を処理し、シャープな画像の代わりに、ステルス機を見つけるというわけですね
2014-06-20 00:58:22
さて、「時間差で同じ場所を何回も探査して、ステルス機を浮かび上がらせる技術がある」と言いました。 しかし、ステルス側も黙っているわけではなく、これに対応する戦術が開発されています。
2014-06-20 01:03:05
その戦術とは「レーダー波に、ノイズに見えるように振舞うこと」です。 「レーダーが複数回、空間を捜査して、同じ場所にいるのをステルス機とみなしている」のであれば、同じ空間にいなければいいわけですね。
2014-06-20 01:04:49