『仮想通貨革命』誤りと議論のポイント

野口悠紀雄『仮想通貨革命 ─ ビットコインは始まりにすぎない』(ダイヤモンド社) の内容のうち、ビットコインに関する記述で誤っているところや議論のポイントなどをまとめました。
9

-姉妹まとめ-

まとめ 『これでわかったビットコイン』誤りと議論のポイント 斉藤賢爾『これでわかったビットコイン ─ 生きのこる通貨の条件』(太郎次郎社エディタス) の内容で、誤っているところや社会の方が変化しているところ、議論のポイントなどのまとめです。 6312 pv 42 40

まとめ 『貨幣という謎』誤りと議論のポイント (ビットコインに関する部分) 西部忠『貨幣という謎 ─ 金と日銀券とビットコイン』(NHK出版新書) の内容のうち、ビットコインに関する記述で誤っているところや議論のポイントなどをまとめました。 6254 pv 34 1 user 13

まとめ 『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』誤りと議論のポイント 吉本佳生・西田宗千佳『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』(講談社ブルーバックス) の内容のうち、ビットコインに関する記述で誤っているところや議論のポイントなどをまとめました。 6486 pv 28 12

Kenji Saito @ks91020

拙著『これでわかったビットコイン』、西部さん『貨幣という謎』、吉本さん・西田さん『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』、野口さん「仮想通貨革命」 #ビットコイン に関する本が出揃いました。それぞれよいことも書いてあると思いますが誤りや議論したい点があるのでまとめてみます。

2014-06-18 15:14:05
Kenji Saito @ks91020

野口悠紀雄先生による『仮想通貨革命 ─ ビットコインは始まりにすぎない』。さすがの貫禄で、素晴らしいことも沢山書いてらっしゃるのですが、やっぱり #ビットコイン の技術の細かなところでは誤った記述があるかな、というのと、ビザンチン将軍問題への認識については議論したいところです。

2014-06-20 09:44:06
Kenji Saito @ks91020

『ビットコインは、この頃の通貨によく似ている。だから、通貨革命とは、17世紀以前の体制への回帰だと言えなくもない』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.4→デジタル技術による変革って、何にせよそういうところがありますよね。マクルーハンの言った「反転」や「回復」だと思います。

2014-06-20 09:47:12
Kenji Saito @ks91020

『さらに言えば、IT革命自体が、回帰的な性格を強く持っている。それは、産業革命以前の世界、つまり小規模な独立自営業者の経済への回帰である』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.5→私も同意見で、 synodos.jp/intro/8942 でもそんな風なことを答えました。

2014-06-20 09:49:53
Kenji Saito @ks91020

『通貨革命の影響は、通貨にとどまらない。その中核であるブロックチェーン技術は、より広範な応用範囲を持ち、さまざまな経済取引に拡張可能だからだ』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.5→ここは議論したいです。私はブロックチェイン技術に夢を抱いていません。他の可能性を追求したいです。

2014-06-20 09:51:38
Kenji Saito @ks91020

『アンドリーセンは、「プロテスト運動をする人々は、これからは、サインを持ってテレビに映り、共感した人々から寄付金を集められるようになるだろう」と言った』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.31→確かにこれは可能性を感じさせる一面です。

2014-06-20 09:54:31
Kenji Saito @ks91020

『ブロックチェーンを破壊してしまえば、ビットコインの価値はゼロになってしまうので、経済的利益を得られない。誰も、価値がないものを盗もうとはしないのである』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.37→攻撃の動機を経済的利益のみに求めるのは危険だと思います。

2014-06-20 09:57:45

私たちの文化における合理性とは別の合理性に基づいて攻撃が行われた場合、すなわち私たちにとっては単なる破壊活動にしか見えないことが起きた場合にも耐えうるか、可塑性を持ちうるか、という観点で考えていかなければならないと思います。

Kenji Saito @ks91020

『0.01BTC 以上の取引は無料』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.59→参照ソフトウェアそのままのアルゴリズムでも、データサイズや、入力に使っているコインの古さに依ると思います。データが大きかったり、入力に使っているコインが新しすぎると手数料がかかると思います。

2014-06-20 11:25:50
Kenji Saito @ks91020

『この論文は「一つの電子コインは、連続するデジタル署名のチェーンと定義される」としている。この簡潔な言葉で、電子コインの本質が見事に説明されている』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.68→むしろこの表現が出てきたのは唐突と感じました。

2014-06-20 11:27:42
Kenji Saito @ks91020

#野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.68→匿名のデジタル署名が幾ら連なっても何の意味的な変化も起こさない気が。現状、コインは署名チェインというよりは入出力の関係により定義されます。もちろん、入力を辿ることにより生成取引にたどり着くことをもってデータの健全性が確認されるわけですが。

2014-06-20 11:30:28

一方、実名によるデジタル署名がチェインすると、その貨幣が信認されている度合いが変化していることが読み取れます。

Kenji Saito @ks91020

『アドレスは、電子メールの場合のように固定的なものではない。公開鍵からいくらでも多くのアドレスを生成できる』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.70→これは多分、言葉が足らなくて誤読を誘っているだけだと思いますが、ひとつの公開鍵から生成できるアドレスは1個です。

2014-06-20 11:35:11
Kenji Saito @ks91020

『ブロックチェーンに表示されるのは、公開鍵そのものではなく、そのハッシュであるアドレスだ』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.75→生成取引では慣習的に公開鍵そのものを指定しますし、通常の取引でも、入力で公開鍵そのものを指定します。でなければ署名の検証を行えないからです。

2014-06-20 11:38:18

まとめると、

[生成取引]
出力(送る側) - 相手(すなわち自分)の公開鍵そのもの
入力(使う側) - 署名

[普通の取引]
出力(送る側) - 相手の公開鍵のハッシュ値
入力(使う側) - 署名と自分の公開鍵そのもの

を、それぞれ指定します。

ここで、ひとつの問題は、本来は 256ビットの秘密鍵により守られているのに、普通の取引では、160ビットの公開鍵ハッシュ値で宛先が指定されるので、その分、セキュリティが下がっているということです。同じハッシュ値になる公開鍵が得られれば、正当なユーザでなくてもコインを送金できることになります。

このことは、現在の計算力のコストから考えて、即、問題にはならないと思いますが、意外と早く現実的な問題になる可能性もあります。

Kenji Saito @ks91020

『一定時間(通常10分間程度)内のビットコインの取引は、このネットワークに放送され、一つの「ブロック」としてまとめられる』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.80→この表現からは、マイナーがそれぞれブロックに格納する取引を選ぶということが読み取れない感じがします。

2014-06-21 05:04:58
Kenji Saito @ks91020

『コンピュータ・サイエンティストは、ビットコインが登場するまで、「P2Pで経済取引を管理するのは不可能」と考えていた』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.85→遅くとも2003年には様々な「P2Pで経済取引を管理する」提案が論文として発表されています。私の研究もそのひとつです。

2014-06-21 05:07:51
Kenji Saito @ks91020

#野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.85→これらはビットコインよりも5年は先行していますが、DHT(分散ハッシュテーブル)を使うもの、ストレージをバーターするもの、当事者間だけで資金の移動を証明するものなどがあり、ビットコインよりよほど真っ当に分散化されている仕組みです。

2014-06-21 05:12:00
Kenji Saito @ks91020

『…最初にナンスの正解を見出したコンピュータは、それをP2Pネットワークに放送し、正しいことを確認してもらう。確認されたら、そのコンピュータに対して一定額のビットコインが与えられるブロックが作られ…』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.86→この説明は誤りです。

2014-06-21 05:14:14
Kenji Saito @ks91020

#野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.86→ナンスの計算をするブロックの中に予め自分宛に無からビットコインを送金するトランザクションを入れておくわけですから、P2Pネットワークに放送し、正しいことを確認したマイナーたちはそれをチェインの新しい末尾のブロックとして認めるだけです。

2014-06-21 05:17:37
Kenji Saito @ks91020

『ビットコインにおいては、「計算されたハッシュの最初にゼロが一定個…並ばなければならない」という制約が付けられる』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.89→正確には「ターゲット以下でなければならない」という制約です。確かに最初にゼロは並ぶのですが、それだけでは不十分です。

2014-06-21 05:22:26
Kenji Saito @ks91020

『コンピュータ・サイエンティストがビットコインの成功に興奮しているのは、それが、「ビザンチン将軍問題」という難問に対する最初の実用的な解になっているからだ』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.94→最初の実用的な解はビザンチン将軍問題を定式化したランポートらによるものです。

2014-06-21 05:34:26

ランポートらによる解が実用的か、というのは、コストの高いプロトコルなので、議論があるかも知れません。しかしビットコインのプロトコルよりは計算量的に安価だと思いますし、実用化もされているはずです。

ランポートらは、どの将軍の間にも直接の通信路があるという前提条件のもとで、裏切り者の数を t として 3t + 1 以上のノードがある場合の解を出しています。

これを、例えば宇宙船に搭載するコンピュータの冗長化に応用すると、航行中に故障するコンピュータの数を高々1台と仮定すれば、5台のコンピュータを載せて打ち上げればよいことになります。3×1 + 1 で、4台のコンピュータで合意プロトコルを走らせ、1台が故障したら予備の 1台で置き換えます。

Kenji Saito @ks91020

#野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.94→あたかも耐障害分散アグリーメントが実用化されていなかったかのような主張は、「過去数十年の分散システム研究の歴史を愚弄している」と言われても仕方ありません ^^;。

2014-06-21 05:48:49