尖閣ビデオ流出事件の「物語」

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通常、人がなにか特別なことをするとき その行動に前後の行動と筋の通った意味を持たせストーリーに組み込みます。 犯罪や悪事の場合はその動機に正当性を被せるのが一般的ですね。

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業務上横領を例にとります。 横領が可能な状態で、かつ「金がほしい」という動機があったとしても その行動に自分を動かす意味がない時点では事は起こせません。 自分を動かす為には「長年この会社に貢献した自分の当然の権利だ」のような 自身の正当性を担保する物語を作ります。

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一つで足りなければ「自分を不当に扱ってきた事への復讐だ」 とか「これくらい他の誰でもやっている」 「自分にはどうしても金が必要だ」等も追加ですね。

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もし事が露見し裁判になった場合は、 先の物語群のうちから裁判官を納得させられるような ものを選び法廷で披露します。検察官はそれを崩し、 証拠や証言を駆使して別の説得力あるストーリーを作るのが仕事というわけですね。

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で、観客たる国民は報道から大雑把な事実関係を読み取り 大雑把な論理構築で大雑把でわかりやすいストーリーを作ります。 深く考えるのもメンドクサイし。

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ともかく誰であろうが何の事件であろうが、合理的で筋の通った説明が必要なわけです。 なければ事件が咀嚼できません。

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さて、尖閣ビデオ流出事件に目を移しますと、 この事件にはそもそもそういったストーリーが存在しません。 本人からしてストーリーを作ることを放棄しています。

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背景を見れば、世論は衝突事件における政府の対応に怒り、 逮捕に至るまでのビデオが非公開の状態であることに怒っています。 「動画を公開するべきだ」という意見まで出ています。 動画を公開できる状態にある彼は、こうした世論を報道で知っています。

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「動画を公開できる」「動画の公開を望んでいる人がいる」 状況と動機が揃いました。しかし肝心のストーリーがありません。

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動画を精査しても政府の説明と異なる点、政府の隠蔽を暴露できるような 部分も存在せず、動画自体には大した意味はありません。 せいぜい「政府は嘘を付いていなかった」くらいでしょうか。

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しかし世論がこれだけ怒っていて、これだけ公開を望んでいる動画です。 公開された暁には必ずや国民が重要な意味を見出してくれるはずです。 もしかしたら大して注目されずに終わるかもしれませんしね。

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彼は自宅、もしかしたらネットカフェで気軽に動画を投稿してしまいます。

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彼は致命的な勘違いをしました。世論が「動画を公開しろ」と言ったのは動画を非公開にしている政府に対する怒りをアピールする言葉であり、本当に動画を見たかったわけではありません。仮に見たかったとしても、見たかったのは政府の嘘や隠蔽を暴く動画であり、現に投稿されたようなものではありません

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ともかく動画は公開されてしまい、 そして動画には意味がありませんでした。

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政府に怒っていた人達は自分達が望んでいた動画が公開されてしまったわけです。 喜ばないわけにはいきません。 実行した人間を褒め讃えない、ということもできません。 意味のないものをありがたがり、意味のないものを奪取した人間を意味もなく賞賛しなければいけないわけです。

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それでも空気があれば何とかなります。 政府が悪であるかのような空気、 動画を流出させた彼が英雄であるかのような空気、 彼が偉大なことをやったのだという空気をとにかく作ってしまいましょう。 裸の王様ごっこです。我が国の伝統技能ですね。

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逮捕されるであろう彼もこれに加担します。 「真実」「国益」「密約」などいかにも深刻な単語を撒いてみます。 取り調べで、法廷での不利益も省みず自分の正当性を訴えたりもしてみます。 演出は大事ですしね。

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本来なら、この時点で「国民が見たかったから公開したまでだ。何が悪い」 と開き直ることもできたわけですが、世論と本人の見栄が許さなかったというところでしょうか。

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さて、検察や公務員の機密漏洩（政府が機密と認定したものが機密です） を問題視する我々がそんなごっこ遊びに付き合ってあげる義理はありません。 王様は裸です。

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彼及び彼自身の提案するストーリー 「勇敢な海保隊員である彼は、彼は自分の保身を考えず 動画を公開することによって重要な告発を行った英雄である」 これは今のところ成立していません。動画が政府の説明通りの物である以上 告発になってませんし、そもそも保身する気満々ですしね。

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そして、成立していない彼の英雄譚をしつこく提示するのであれば、 私もしつこく「でも動画を公開することで誰も得してないですよね？」 「政府が嘘を付いてないことが分かっただけですよね？」「王様ってどうみても裸ですよね？」と言い続けることができます。

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そうした英雄譚は成立していない以上、他のストーリーが成立する余地があります。 事実関係を追っただけの単純なものです。 「海保隊員の彼は政府の機密に接触できる職権を濫用し、 我が国の外交上の利益を侵害し、国民及び諸外国の信頼を損ねた」 もし検察が起訴するとしたらこんな感じでしょう。

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私はこうです。 「無能な働き者である彼は大いなる勘違いの元、無意味な動画を公開し、彼の支持者を無駄にぬか喜びさせ、 公開から現在に至るまでぬか喜びさせ続け、彼の上司の大元である政府から彼の同僚経由彼の家族までのラインに一網打尽に迷惑をかけ、無駄に人生を終わらせた」

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不服であれば他のストーリーを構築してください。材料は出揃っています。事件を知る誰でも事実関係に沿った物語を自由に作ることができます。 そして彼を支持する人々上のストーリーを不服とする方々に申し上げますが、そろそろ急いでくださいね。タイムリミットが近づいて。

pon @__pon_

彼が世間に出てきます。はやくはやく。本人だってもう何の材料も持っていません。 何にもなければ私のストーリーや検察のストーリーが採用されます。 彼が出てきてなお彼を英雄にできる物語がなければ、文字通りの意味でお話になりません。